第85話 それでもだ
使者の元へは特に問題なくたどり着いた。
「で貴様らが」
「マイヤーだ」
「タナカです」
「ならばついてこい」
使者に続く、だが歩みは少し遅い。身長が自分の腰の辺りまでしかないからしかたないのかもしれないが。ふと一緒に来ていてかつドワーフであるメリベルに話を聞く。
「なあメリベルドワーフって」
「………あれぐらいが普通」
「なら」
メリベルの身長を確認するが、使者よりも大きく自分の胸辺りまである。
「………私は異常だと思われてた」
「そっか、ごめん」
「………いい、気にしてない」
後は無言で使者について行く。
「ここだ、止まれ」
大分歩き、戦場のど真ん中と思われる所にたどり着く。
「タナカとマイヤーを連れてきました」
「分かっておる、下がっておれ」
「はっ」
前には2人のドワーフがいた。1人は初老で、もう1人はかなり若い感じがする。
「話したいことは分かっておるな」
「ああ、分かっている」
「なら話しは簡単だ、そこのタナカとやらを引き渡せ」
「断らせてもらう」
「なぜだ」
「私の全てを差し出しても返しきれない恩がある」
「それほどの者に罪をかけたのか」
「なかなか捕まらなくてな」
「ではなぜ軍を」
「捕まえるには人手が必要だろ」
「そうか」
にらみ合いが続く。場違い差が酷い。
「まあ、あれをみさせられればそんなことは些細な問題だ」
「そうだな、でそちらは」
「話しはすべて聞いた、その上でそこにいるタナカを差し出し帰っていただこうと思う」
「あれが帰るとでも」
「そちらは帰らないとでも思うのか」
「ああ、思わないな」
「なぜ」
「帰るのであれば、急ぎ引き渡しを要求してくるはずだ、なのにしなかった。つまりあいつはここに居座る準備でもしているんじゃないか」
「だが、何の問題なく引き渡せば話くらいできるはずだ」
「してこなければどうする」
「なぜしてこないと言い切れる」
議論が白熱してる、だがこちらに向いてこない。
「………タナカは怖くないの」
「何が」
「………生け贄にさせられるの」
「怖いことは怖いけど、今のうちから怖がっても意味ない気がして」
「………そうなんだ」
「それにもう何度か死にかけたしね」
本当のことを言うと1度は確実に死んだのだが、これは言わないでおこうと思う。
「ならば奴自身に話を聞こうではないか」
いきなり話がこちらに向く。
「それでタナカとやらはどうするつもりだ」
「どうするって、さすがに死にたくはないかな」
「ここにいるものを犠牲にしてもか」
「ここにいる者って言われても」
「女子供を犠牲にしていいのかと聞いておる」
「それは、犠牲が少ない方がいいけど」
「ならば」
「だからって1人に犠牲押し付けんのはどうなの、もしも自分じゃなくてあなただったらどうするのさ」
「我1人の命で大勢が救われるなら」
「大半が知らない人なのに」
「それでもだ」
「そっか」
大分この人は本気のようだ。だから真剣に考える。
「話しは簡単じゃないか」
「なんじゃと」
「今ここでこいつを切り捨てればいいんだろう」
「待てはやま」
ドワーフ側の護衛が切りかかってくる。避けることなんてでき。
「こいつ」
「………私が守る」
「メリベル」
メリベルにかばわれる。
「メリ、ベル……ああ、剣も作れないあのメリベルか、道理でどこかで見たことある顔だと思った」
「引け、これは交渉だ」
「けどよ」
「引けと言っておる」
「…ちっ分かったよ」
護衛は渋々剣を納める。
「メリベル助かったよ」
「………無事でよかった」
「護衛が悪いことをしたな」
「いや」
「だがここで断っても他の誰かが同じことをするかもしれないぞ」
「それは脅しか」
「いやただの事実だ」
「マリア銃を下ろせ」
「ですが」
「これは命令だ」
「………………………はっ」
背中も狙われていたらしい、もう生きた心地がしない。
「………ならあさってドワーフ式の決闘を」
「はっ、お前がそれを提案できるのかよ」
「…それが良さそうだなこのまま話しても平行線を辿るしかない」
「待てドワーフ式の決闘とは」
「互いに作った武器を用いて行う決闘だよ、この場で関連あるのはその間はどんなものであれ身の安全は保証される」
「それは……それが良さそうだな」
「よろしいならば決闘者はこちらはリヒターだ」
「………なら私が」
「いやタナカの方がいい、そっちの方が色々と楽だろう、だからお前は剣を作るだけだ」
「………分かった」
「火事場と材料は提供してやろう」
「待て、私達もついていって」
「構わないとも、話しは終わりだついて来い」




