第8話 落ち着いてくれよ
「………タナカ起きて」
起こされる。
「う、ああ、おはよう」
何度もやっているはずなのだがなかなか慣れない。
「………火の番お願い」
「わかってるよ」
少しずつだが目が覚める、辺りは真っ暗だ。そして火のそばにはアルフがいる。
「おうタナカ起きたか」
「ああおきたよ、おやすみメリベル」
「………おやすみ」
メリベルは眠るために寝袋に入っていった。
「よしじゃあ火の番をするか」
「ああそうだな、そう言えばはじめて冒険したときは2人だったけど、今は大分増えたな」
「そうだよな、初めはタナカお前誘って終わりだと思ってたんだけどな」
「確か冒険者は知り合いと組んでるのが普通なのに、寄せ集めだし」
「イリアとメリベルは同じ学校で同じパーティーだったはずだろ」
「すっかり忘れてた、まあでも他は寄せ集めだな」
「だな」
「そう言えば、ギルドに行ったとき冒険者の数が減ってた気がするんだが」
「簡単な依頼が減ったからコネやらがあるやつは止めたんじゃないのか、死にたくないし」
「なるほどな」
「俺らもこれからどうするか決めないとな」
「はぁだよな」
気が滅入ってきた、異世界に来ても就職なんかで悩みたくはなかった。だんだんと空気が重くなる。静かになった中でふと拾った女の子の方を向く。目が合う。
「えっ」
女の子が近くに寝ている、イリアを揺する。
「おいおい落ち着け落ち着け」
近づくと更に強く揺する。
「なによ、もう」
イリアが目を覚ます。それを確認すると女の子が必死に逃げようとイリアを引っ張る。しかしそれでも動こうとしないイリアを見捨てるしかないのかと思ったのか急に引っ張るのをやめて、この場から離れようとする。
「話ぐらい聞け」
だが逃げられる前に捕まえる。そして暴れられる。
「落ち着いてくれよ、もう」
暴れて体力が尽きたのか落ち着いたのか、やっと静かになる。
「でどうなってるのこれは」
「彼女が起きて、暴れて、イリアを起こした、以上」
そうとしか言いようがない。それ以上は女の子に聞くしかないがなにも食べていないし、また暴れられるのが嫌なので警戒を解くためになにか食べさせてやることにする。と言っても材料がないから黒パンと野菜、後荷物が入っている袋の隅に入っていた干し肉位しかないが。
「その干し肉大丈夫なのか」
「アルフも食うか」
干し肉を適当な大きさに切り、それとすぐに食べられそうな野菜を黒パンに挟んで出来上がりだ。ついでに余った干し肉を食べてみる。
「食えるな」
「ああ、そうだな」
できた物を女の子に渡す。女の子はそれを受けとるが食べようとはしない。と言うかこっちをにらむことで忙しそうだ。しかし、お腹が減っていた為か少しするとそれを食べている。
「で食べ終わったようだから聞くが名前は、何に襲われたんだ」
しかしそれでも話をしなければならないため話しかける。が女の子はなにも言い返さない。
「えっと、言葉はわかるか」
反応はない、だからなつかれていそうなイリアに頼む。
「イリア頼む」
「わかったわ、で言葉はわかるの」
女の子は首を縦に振る。
「じゃあ名前は」
答えない。
「何に襲われたの」
答えない。
「……もしかしてだけど喋れないってことはない、よな」
「タナカそんなわけないだろ」
だが女の子は首を縦に振る。そう縦に振る。
「アルフ確認していなかったが首を縦に振るって言うのは肯定ってことだよな」
「ああそうだな」
女の子はしゃべれないらしい。
「つまり質問の仕方を変えないとダメか、動物とか魔物に襲われてたのか」
首を横に振る。
「なら人とか」
首を縦に振る。
「タナカ周囲を警戒するぞ」
「だな、ついでに聞くと捕まってて逃げ出したとか」
首を縦に振る。辺りの闇が怖く感じる。
「その人の数は、ってこんな質問じゃダメか。えっとじゃあ5人以上いたら首を縦に、5人以下なら横に振ってくれ」
首を横に振る。そして片手で3本の指を出す。
「3人なの」
首を縦に振る。
「3人か、人数では勝ってるけど、今起きてるのは3人だし」
「メリベルも起こすの」
「いや何時来るのか分からないし、もしかしたら来ないかもしれないのに起こすのは」
「そうよね」
「イリアも寝てても」
「ここまで来ちゃったなら起きてるわ」
「助かる」
そうして夜が明ける警戒をし続けた。