第101話 迷惑をかけたな
意識が戻る。見たことのない白い部屋だ。いや似たようなのは見たことはあるが、そことは違う。視界がふらついている。体を起こす。微かにだが声が聞こえる。
「くそっなんなんだよあいつは」
怒っているようだ。
「何で無理矢理火まで吐かせたのに」
体を動かす、寝かせられていたところはベッドの様なところだ、体を下ろし立ち上がる。視界は未だにふらついている。足音が近づいてくる。
「アダマンダイトのパイルバンカー何てあり得ないだろう」
辺りを見渡す、ベッド以外なにもない。後は白一色だ。いや何やら赤い点もあるがそれだけだ。
「けどまあ、あいつさえいなくなれば問題もなくなる、と言うか始めからこうしてればよかったな」
壁が動く、その先には1人の少年。
「起きてる、だと全身大火傷をおってるのに」
「………起き……ててわる…いか」
声がかすれている。自分の声のような気がしない。だが聞きたいことを聞く。
「…ここ………はどこ………だ」
「どこでもいいだろう、疫病神」
「なら………龍……は」
「死んだよ、お前のせいでな」
「よかっ……た」
龍は倒せたらしい、後はみんなに会うだけだ。だが龍を倒した安心感なのか睡魔が襲う。なにかが引っ掛かるが睡魔の方が強い。
「くそっなんなんだよこいつは、あの女が吹っ飛んでから動きは違うし。誰がこいつを送り込んだんだ」
「んっ」
睡魔でぼんやりとした頭が回り始める。ここと似たような場所に来たのは異世界に転送される直前女神は自称する何かと会話したときだ。そこと似たような場所で、龍に火を吐かせたとかをいい、見たこともない少年がイリアが死んだことを知っている。もしかしたらあの場にいたのかもしれないがこんな少年がいたらすぐにわかると思う。
「お前は………誰だ」
始めに聞かなければならないことを聞く。
「僕、ああいってなかったか神だよ」
神らしい。
「あの龍を送ったのも僕だ」
つまりイリアを殺したのは、こいつだ。
「おま…えが」
意識がはっきりとする、こいつが、こいつこそがイリアの仇だ。殺意を向ける。だがそいつは余裕にしている。
「おお怖い怖い」
「お前が」
そいつに向けて歩き出す。かなり遅い。
「そんなボロボロな体で何が出来るって言うんだ」
嘲笑うかのようにそいつが言う。
「ほらほらここにいるぞ」
そいつに向かって歩く。だがそいつはポケットから銃を取り出す。
「ほら、スタンガンだ」
撃たれる、倒れる。
「はっはっはっはっはっ、早く死ねよ」
痛みはそれほど感じない、意識を手放しそうになるが怒りで押さえ込む。体を起こそうとしたときに何かを掴む。これはたしか。
「何でナイフなんて、くそっこいつ魔力がないから所持品まで転送したのかよ」
リズからお守りがわりのように託されたナイフだ。かなり安いナイフだといっていたが研いでいたのか刃がとても綺麗だ。それを逆手持ちして立ち上がる。
「くそっ、来るなよ、こいつが見えないのか」
銃を構えているようだ、がスタンガンだろう、死にはしないはずだ。少し寒い。
「こいつは本物だぞ」
何かをわめいている。視界が薄れる、だがそいつだけは見えている。
「来るな」
左腕の感覚はもうない、他の感覚も薄れてくる。しかも睡魔がひどい。立っているのもままならない。何が流れている感じもする。
「来るなよ」
ナイフを持った右腕を振り上げる。銃声が遠くの方でする。
「な、何で」
睡魔がかなりひどく、感覚もほとんどない。
「イリ………アの………かた、き…………だ」
ナイフを降り下ろす、何かに突き刺さり、どこがが濡れていく。自分がどうなっているかわからないがやってやったという達成感はある。多くの足音が聞こえる。ひどく騒がしい。イリアの仇を取ったんだ、もう睡魔に身を任せてもいいだろう、そう判断し意識を投げ出す。だが投げ出される直前に声が聞こえた。
「迷惑をかけたな、タナカ」
どこかで聞いたことがある声だったが思い出す前に、意識を手離した。




