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秋の空にひつじ雲


 俺のクラスメートが、今日亡くなった。

 近所の紅葉が真っ赤にすべて染まった日だった。


 特段仲が良かった訳ではない。むしろ悪いくらいだった筈だ。学級委員でもないのに、口うるさかったあいつの悪口を、俺らは裏で言っていた。なのに、そんなやつでもいなくなると急にクラス全体がしぼんだような気がした。


 あいつが病気に倒れてから、お見舞いに行くのは、先生が決めた事だった。

 順番で行く事になった。俺らは最後の方の順番だった。


「どうせ、あいつ元気だよ」


 そう言って、親友が笑う。

 俺もそう思っていた。あいつがそんな軟な訳が無い。病気にさえ噛みついて、挙句倒してしまうだろうなんて、馬鹿げた事も考えていた。



 でも、結局あいつは病気に負けてしまった。



 ノックをして部屋に入ると、部屋はあいつの貸し切りだった事を知った。

部屋は、真っ白で、漂う病院特有の匂いをはっきりと覚えている。あまりにも静かだったので、点滴の音も聞こえてきそうだった。

 そこの部屋の主であるあいつは、文庫本でも読んでいたらしく、本に落としていた目線をこちらへあげた。以前まで活発そうな色をしていた肌も、部屋の色が滲んだかのように白くなっていて、短かった髪も伸びていた。


「ひさしぶり」


 そう言った。


 それから何を話したかはよく覚えていない。席をはずしていたあいつの母親も、途中から合流した。


 先生と母親だけが話をしていて、俺たちはどこか居づらかった。そんな俺らに気を使ってなのか、「林檎とかみかんあるけど、食べる?」なんてあいつは言った。


 林檎の色と、あいつの心臓が重なって見えた。


 病室で静かにしているあいつを見て、叫びたくなった。



「それじゃあ長居したら悪いですし、そろそろ帰りましょうか」

 なんて先生が言った。


 皆席を立ち、母親とあいつに挨拶をして、一人ずつ部屋を去る。

 最後に残ったのは俺だけだった。


「俺も行くから」


 そっと立ち上がった時だった。


「あたしね、ひつじ雲って好きなの」


 窓を見ていたあいつはそう言って、瞬きをした。

 綺麗な横顔だと、ふいに思った。まつ毛がこんなにも長いなんて知らなかった。


 涙がこぼれおちた。


「じゃあね」


 そう言って、あいつの手を振る姿を思い出した。それが俺の見た最後の光景だった。


 亡くなったと知らされたのは、秋の、ある日だった。

 俺は、その日ひつじ雲が浮かんでいるのに気づいた。

 あいつを迎えにでも来たのだろうか、そんな事を考えた。



 一筋、涙がこぼれた。



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