つよがりとクッキー
「よく我慢したね」
そう言って、彼女は僕にクッキーを一枚くれた。
そのクッキーは最近流行りの、美味しいクッキーだった。流行りものに疎い僕でも知っているぐらい有名だった。
「私は、君が我慢してくれることが一番嬉しいから」
そればっかり、彼女は言う。
クラスで、「綺麗で、気に食わないから」なんていうとある女子の嫉妬から始まった苛めは、なかなかに酷い物で、僕は毎日怒りを必死に抑え込んでいた。
少しでも気を緩めてしまえば、すぐさまにでも苛めっ子を殴りにかかるだろう。もう、ボコボコにしてやる。
「それじゃあ、駄目だよ」
お見通しなのか、クスクス笑う。
「大丈夫、大丈夫だから」
言葉を彼女は繰り返した。
その様子を見て、「強がっているのは君じゃないか」と当然のように思う。
落ちているイチョウの葉っぱを眺めていた。
無言だった。
お互い、どこかで相手の言い分は理解しているのだ。だから、無言でも居心地の悪い空気は無かった。それでも、やっぱり無言というのよりは、会話があった方が良い。
そう思っていた時だった。無言を打ち破るように、いや、解くように彼女は優しい声で言う。
「それじゃあ、もう遅くなるし、帰ろうか」
伸ばした彼女の手には、あざがあった。それが、悔しかった。
「……ああ」
恥ずかしかったけれど、手を握る。
風が冷たくなったせいか、冷えてしまった彼女の手を、やさしく温めてあげたかった。
そして手のように、いつか、彼女のつよがりを解いてあげたいと思った。
「今度は一緒に、クッキーを買いに行こう」
どちらともなく、口に出た約束。
それがただ、楽しみだった。




