黄金の部屋
日差しは暖かかった。
カーテン越しに差し込む光がやさしい色に部屋全体を染め上げる。
まるでイチョウの葉っぱのような黄色。
目がさめれば、もう見慣れた私の部屋。
小さめの、でも女が独り暮らすにはちょうどいいぐらいのワンルーム。
「彼の事を、もう思い出したくないの」
そう親と親友に言って引っ越したのは一年前のこと。
彼が出ていくと言っていたが、私から断った。
もう思い出すことも辛い場所で生活するのは、出来そうにもなかったからだ。
「紅茶でも飲もうかな」
なんて優雅を装うように言いながら、起き上がる。
最近、親友がイギリスへ彼氏と行ったらしくて、お土産にと、缶詰めの紅茶を沢山貰ってしまった。その内の半分くらいは親にあげたのだが、それでも相当の量が残っている。
唯一の救いは、私が紅茶を嫌いでないこと。
お湯を沸かしながら、ついでにとトーストも用意する。
これまたお土産として貰った、ジャムとともにいただく予定だ。
何にも予定の無い休日。
親友はラブラブ中で、他の友人達も忙しいみたい。親は二人でまた旅行だ。
だから、本当に暇でいる。
あれだけ集めた大量の文庫本もいつの間にか読破していたし、だからといって街にお買い物に行くのもめんどくさい。
私はトーストと苺のジャムを机の上に置く。
引っ越しした時に買った、小さめの机。暖色系のテーブルクロスを掛けたお気に入りだ。
ピーっと、甲高い音が鳴る。
お湯が沸いたみたいだ。
ヤカンは沸騰すると、音が鳴るタイプのもの。色はオレンジっぽい赤。彼と付き合う前に一目惚れして買い、別れた今でも愛用している。
むしろこの子の方が元彼氏より長く居て、なんだか可笑しい。
早速、カップを暖め、そこに紅茶を注ぐ。
ゆっくりと、慎重に。
カップに注ぐ紅茶は、紅というより、黄金色に見えた。
ふわりと広がる香り。
なんだか、あの頃を少し思い出した。
彼と何でもないことで笑っていた日々を。
今思えばとても大切だった、黄金色の日々。
涙がひとつ、カーペットを濡らした。
窓からの日差しは、まだ部屋を黄金に染め上げたまま。
あの色の懐かしい日々を思い出すよ。