第8話 何も無かったのだが
夜、未だに一緒に寝ているベッドの上、
「母様、お話があります」
「何かしら?畏まって」
何時もと違う事を悟った母様はそれだけで明日何が起こるか理解できたようで、希望で目が潤んでいるようだった。
あの母様がこれ程まで分かりやすい反応とは・・・、よっぽど待ち望んでいたのかな?
「僕についてです。母様は僕が異常だとは思いませんでしたか?」
以前からどうやって切り出すか迷って、この言葉を選んだ。
「そうねぇ、正直、そう思ったわ。時々私が分からない単語を話すし、物覚えも早い、というよりは既に理解しているようだったし、私がいない間にどこで学んだの?」
さすが母様、鋭い。
「理解するのは簡単でした。前の世界に似ている事が多かったですから」
「は?」
母様であっても予想外だったらしく、唖然としている。
「記憶を持ったまま転生してきたのです」
それから、前世の自分と転生してきてから自分が元居た世界に共通することが多く、学ぶのには苦労しなかった事などを告げた。
そして、
「私はお母様が好きです。息子ではなく一人の男として。そして一緒に冒険したいです。ですから明日・・・」
それ以上は言葉に出来ない。あいつに知られる可能性は極力低くしておかなければならない。
「ふふふ、複雑ね・・・。息子が転生者で、私が好きで・・・」
やさしい母の顔そして女性の顔、どちらも目の前にあった。
「確かに貴方から向けられる眼差しに男としてのそれを感じる時が何度かあったわね。体を拭いてもらっている時とか一緒に寝る時とかも、ね?」
やっぱり母様には敵わな・・・母様に頭を撫でられた。
「顔が赤いわよ、ユウア」
言われてすごく火照るのが感じる。
「こんなにウブで可愛いと将来が心配で仕方がないわねぇ。そうだ・・・名前・・・、教えて貰える?」
「今は・・・できません。全て終わらせてから・・・でいいですか?」
少し残念そうにしている母様。
「そう。でも前世の記憶があるなら、生活に不自由させたかしら?」
「お母様が居てくれたので全く思いませんでした」
即答したが、「本当に?」と返された。
「お、お風呂が無いのと料理が塩味のみなのは正直つらいですっ」
「正直ね、本当に・・・、私の・・・子供には勿体ないくらい・・・」
反論しようとしたが強く抱きしめられて、何も言えなくなった。
「私は貴方の母で、なのに商品として育てていて・・・、それでも貴方は分かっていて私を好きでいてくれる・・・。でも私は・・・貴方の想いに応えることは・・・」
分かっていたことではある。
今はそれでもいい、今は・・・。
二人は長い間抱きしめ合っていた。