第22話 高性能ではあるのだが
数日後、「これだ!使役魔法だ、これならリタさん対策になりそう。止まった後独断でフォローしてくれる存在がいればいいんだ」って事で、その他いろいろ調べる為に図書館に向かった。
・・・リタさんと手を繋ぎながら。
リタさんに図書館行くって言ったらこうなった。
若干外が怖いので、行くと伝えたらついて来てくれるかなーなんて、そこは思惑通り。
で、部屋の外に出たら魔力感知でそこかしこに六人パーティーらしき団体が。
でも何故か殆どのグループが止まっている。
校舎に入っても同じ・・・その中にあの変態シコ男の魔力がっ!
一人一回のみと聞いてはいるのだが、やっぱり嫌だし、他にも変な奴がいるかもしれないので、警戒だけしておこう。
って、後ろから隠れてついて来る!?
先手を打つか?
いや、まだ練習して魔法の問題点を探していないから、ここは逃げるべきだ。
「大丈夫、話は付いてるからいきなり襲われることはないよ?」
「へっ?」
不安を感じとったのかリタさんはそう言った。
一体何時の間に、そして何を話したのだ。
さらに、話がついているならわざわざ手を繋いで歩く必要ない・・・。
何事も無く図書館に着いた。
後ろは気にしない。
中には受付らしきものは無く、本も無く、グループ用机と一人用机が仕切で区切られて沢山あるだけのようだった。
リタさんに促されて、グループ用の大きな机のところに行った。
六人用の机には角の四ヶ所に、小さな金属板があった。
「これはサーチブックで、この金属板に学生証を付けるとブックオフィスで本を探せるんだよ。出るときは同じように学生証を付ければ出られるよ、一回入って出てみて」
探せる?入る?出る?
まあやってみるか。
俺はアイテムボックスに仕舞ってあった来賓証を取り出して金属板に当てた。
すると瞬時に場所が移り、六人用の机一つと本棚が大量にあった。
すごい量。
検索システムとか無いのかな・・・無い!?
辺りにはそれらしきものは無かった。
転移魔法とかはあるのに中途半端だ・・・一体どれだけ探し出すのに時間が掛かるのだろうか。
取り合えず近くの本棚の本を適当に取った。
背表紙にはタイトル、表紙には内容が記載されていた。
タイトルは『俺様』、内容は『俺様』。
・・・。
何故か本が開けないっ!
隣だ。
『ワシの孫』
『ワシの孫が可愛い過ぎて思い出を書き綴ったのじゃ。ある日を境に口を利きいてくれなくなり、数年後ワシを置いて逝ってしもうた』
・・・。
本が開けないっ!
隣!
『角命!』
『さあ君もこの本を読んで、角の素晴らしさを学ぶのだ』
(注:読み辛いので文書は全て脳内変換してあります)
・・・ここって図書館だよね?
周りを見ると、棚にジャンル『自著伝』と書いてあった・・・。
学校の図書館になんでそんなジャンルが。
一旦出ようか、リタさん待たせてるし。
『角命』を持って出たら横にリタさん。
あれっ?何で手を繋いだままなんだ?そして本は何処に行った?
「ふふっ、戸惑ってるね。そんなユウアちゃん滅多に見れなさそう。本は持ち出そうとしたら自動でアイテムボックスに入って、十日後に自動で返却されるんだよ。本と学生証をくっ付けたら、有料で複製もできるんだよ。そしてそして本を探している間は長いけど、何と!?出たら時間が経っていないんだよ。すごいでしょ」
確かにすごい、すごいのだが・・・。
「検索はできないの?何で中で読めないの?中で本が読めたら現実で時間が掛からないのに」
「・・・実はあまり使わないし、知らないんだよね」
そう言ってリタさんは頬を掻いた。
ストーカーっぽい団体以外では、図書館には数名しかいない。
この世界ではあまり本って読まないのかな?
「ま、とにかく、訓練が終わったら迎えに来るね。でも変なのが来たら直ぐに逃げること!いい?」
そう言ってリタさんは行ってしまった。
急に心細い。
まあ、本を読みますか。
で、変なのはやっぱり来た。
「わたくし、オイスター・ノインヒラガキと申します、可憐なお嬢様。よろしければご一緒してもよろしいでしょうか」
「嫌です」
こいつ、おそらく貴族。
紫色の髪をした美少年、凛とした赴きの中に少しだけ幼さを残していて、お姉さま方がきゃーきゃー言って来そうな感じ。
無視すればよかった。
けっ!どうせ俺は男っぽくないですよ、美少年なんて消えてしま・・・こいつっ!いきなり俺の手を取ってきやがった。
勿論痺れさせたのだが、鳥肌が立った。
「ふふふ、そう反応されると余計に燃えますね」
・・・逃げようか。
「そうだ、どうですか?お近づきの印に。これは貴族ですら滅多に手に入らない貴重な品なのですよ」
そう言って取り出したのは厳重に包装されたトリュフチョコレートみたいなものが入った高級そうな木箱。
おおー、チョコレートだ美味しそー。
・・・。
なんて言うわけ無いだろ、この大根役者が。
話がいきなり飛んだし、あからさまだし、何より演技だってのがばればれだ下手くそ!
第一他人から貰った物を真正直に食べるかっての。
大方睡眠薬とかが入っているとかだろう。
先程から俺は目を輝かせて箱を見ているのだが、勿論演技だ。
そして、大根男よ、俺の演技をとくと見よ!
「これっ!いいの?いいの?」
「勿論ですよ」
ハイテンションで俺は一つを手にとって・・・
「はい、あ~ん」
「あ~ん」
こいつ、慣れてやがるっ!
よくあ~んってやっているのだろう。
そして馬鹿か?馬鹿なのか?
何度か租借した後で口が止まり、何処かに走り去っていた。
本気馬鹿のようだ。
同時に俺をストーカーしていた奴らも、追いかけて遠ざかった。
厄介払い出来ただけ良かったかな?
置いていった残りは貰っておこう。
アナライズで見たところ、惚れ薬入り。
・・・お互い事故に合わなくてよかった。
それよりもアナライズって一般的ではないのか?
まあいいか。
惚れ薬を魔法で取り出して仕舞い、一つだけご馳走様でした。
そして本を借りるだけ借りて部屋で読もうと思い、ブックオフィスに入った。
「くそっ」
ある程度離れて止まって、薬を飲んでそう吐いた。
飲ませようとした薬はかなり高価な惚れ薬で、飲んだのは止める鎮静薬。
計画ではどうにか飲ませて持ち帰る算段だった。
「・・・あなたが、こんなに演技が下手だとは思いませんでしたわ。あれでよく自分なら可能だ、なんて言えましたわね。そういえば昔から貴方は相手が寄ってくるばかりで口説いたことなど皆無でしたからねえ」
「ひっ!」
大根男はあのデコ女に意見していた男で、一応婚約者同士だったりする。
力関係はご覧の通り。
そして、デコ女は相手とのやり取りを行う道具で一部始終を聞いていた。
「そうねえ、神日まで迷宮に籠って損失分を稼いで貰いましょうか。でもその前に」
そう言って大根男を殴り倒し、アレを思いっきり踏みつけた。
「ぎっ、やっ、やめ・・・」
言葉にならない叫びが響いた。
そして数分間ねじり踏んでデコ女は去って行った。
「ううっ、ちくしょ・・・おっ、お前らはっ」
表れたのは先程のストーカー達。
しばらくお待ちください。
・・・。
もうしばらくお待ちください。
・・・。
「災難だったな」
「そ、そういうお前も俺を殴っただろうがっ。そもそも何でお前が親衛隊のあいつらと。答えろルナティック」
大根男の元に現れたのはあの変態のシコ男。
「その名を呼ぶな。本位ではない」
「ふっ、襲ったのは事実。皆にばらしてもいいのだぞ?」
「ふんっ、既に教えた」
「なっ!」
「そして彼らが常に俺と共に行動する限り、俺を止めてくれる。だから貴様の脅しはもう通じんぞ。むしろ俺と言う駒を失った事を教えても良いのだぞ。次は何をさせられることになるのやら。最悪捨てられるかもしれんなあ」
「くっ、何が望みだ」
「なあに、そちらの動きを逐次教えてくれればいいさ。それに、二度目は無いとは言っているが、正確には襲う気力が出ないだけで、無理やり対象にすることも可能なのだぞ?」
「・・・わかった」
「全く、あの女のどこが好きなのやら」
「・・・」
「ま、これから頼むぞ」
そういって、ルナティックは場を離れた。
「・・・貴様たちに彼女の何が分かる・・・」
大根男は呟いた。
その想いが語られることは・・・多分ない。