第14話 変な奴が現れたのだが
突然だった。
いきなり玄関が開いて男が入ってきた。
「サリア~居る・・・か・・・!?」
突然の事に驚いて唖然として男を見つめてしまう俺。
通常なら人が家に近付けば魔力で感知出来るのだが、この男からは魔力が感じられない、いや、意識すれば辛うじて分かるくらいか。
男は16歳位だと思うが、何だその羨まし過ぎる身長は。
俺今120cm位、サリアさん135cm位、男は恐らく180cm位畜生!
しかもグレー髪細マッチョで顔も・・・ゲジマユ以外悪くないとは思う。
そんな男も俺に視線を向けて固まっている。
「ザ、ザイ兄さんいきなり入って・・・」
サリアさんの兄さんか。
サリアさんが話しかけているのを無視してお兄さんが俺に近付いて来た。
流石に銀色くまさんと比べると迫力は劣るが、その眼差しに危険を感じて退くかどうか迷っていたその時、
「俺と結婚してくれ」
場が凍った。
「ふぉっふぉっふぉ、ユウアちゃんが本当の孫になるのかのう」
「黙れじじい」
あれ?この人俺が男だって知らない?サリアさん言ってない?それともじじいのおふざけか?
「僕はお「ザイ兄さん、いきなりそれはないです。手順と順番を守って下さい。言っておきますがあたしが先ですからね!」・・・」
「いや、いくらサリアでもそれは譲れん。俺達は運命で繋がっているんだ」
「・・・その運命、千切りますよ?」
「お、脅されても屈しない・・・屈しないぞー」
「それにあたしの妹であり娘でもあるユウアには指一本触れさせません」
「ならば夜にでも忍び込んで・・・」
「残念でした。あたしが毎日一緒に寝てるので不可能です」
「な、う・・・うらやましいっ」
「へへーん、ユウアちゃんの抱き心地、眠ってる顔、吐息。全てザイ兄さんには一生手に入りませんよ」
「くっ、けしからん。けしからんぞー。ならば妄想で補うまでだ」
「可哀相なひと。精々卑しく妄想してなさい。ユウアちゃんのすべすべお肌、ユウアちゃんのぷにぷに頬、ユウアちゃんの柔らか太股、ユウアちゃんの・・・」
「ぐあぁぁぁやめろぉーーー」
「ザイ兄さんがユウアちゃんを諦めるまで何度だって言います、っていうかユウアちゃんで妄想するな!」
「畜生っ、そして酷っ。そ、そうだユウアちゃんに聞いてみよう、そうしよう」
「あっ、何あたしに断り無くユウアちゃんに話し掛けているんですか、汚らわしい。ユウアちゃん、はっきり拒絶してあげなさい」
「ちょっ、おまっ、拒絶一択かよっ」
「ユウアちゃん、ほらっ!・・・ユウアちゃん?」
「・・・・・・えっ?何?」
ごめんなさい、二人の会話に危険信号出てたので、これまでに集めた大量のアイテムを眺めてました。
ふと周りを見渡すと、目の前にすごい形相の一人、でっかい胴体、そしておじーちゃん村長は部屋の隅で体育座りしてブツブツ言ってる。
何この状況。
「だーかーらー、うザイ兄さんに『近付くな変態』って言ってあげなさい」
「な、違うっ、俺は変態ではない・・・多分。そして『う』を付けるな。ユウアちゃん、今話していたことは俺とユウアちゃんがけっこゴフッ」
強烈な金蹴りだった。
いやぁ、こんな強烈なサリアさん初めで見た。
・・・目で追えなかった。
サリアさんの人物像が崩れていく・・・いや、こっちが素か。
ちょっと怖い。
「ええっとー、仲いいですね」
「「どこがっ!!!」」
いいハモり頂きました。
さて、場を納めるには何て言えばいいだろうか。
何の話だっけ、拒否ればいいのかな?
俺としてはサリアさんの味方で確定、怖いし。
「取り敢えず、自分より弱い男には興味ありません」
これくらい?
酷く拒絶したりするとストーカーとか強攻策に出る可能性があるから、若干希望を持たせてと。
120cmの子供に弱いって言われ、首を傾げるお兄さん。
「そうですよ、ユウアちゃんはあたしよりも強いんですからね、図体だけのザイ兄さんがゴミのように沢山纏まっても不可能です」
サリアさん言うねぇ、ゴミって・・・。
「それに、ユウアちゃんはこれから学校行くのでもっと差が付きますけどね」
「どこの学校だっ!」
「王都ですよ」
「爺っ、俺は今から王都の学校に行く。父上と兄上に伝えておいてくれっ」
そう言って家を飛び出した。
あの歳で学校に行って無かったのかよ。
俺は王都ではなく一番近い学校に行く事に決めたのを二人には既に伝えてある。
学校に行くのは年齢的に、そしてこの世界の事をもっと知っておきたいから。
でも王都なんかに行ったら、貴族とかのゴタゴタに巻き込まれそうだから絶対に嫌。
・・・サリアさんは恐らくお兄さんの性格分かってて、誘導したってところか。
「流石お姉様」
「うんっ、だってあたしのユウアちゃんに虫が着いたらたら追っ払うのは当然。ああ言ったら兄さん飛び出すの分かってたしね」
何時の間にサリアさんのモノになったー!?
俺も反論するだけ無駄だってこと学んでいるので反論しませんできません。
それにあのお兄さんの小さな魔力を覚えたから逃げるのは容易いので、もう会うことは無いだろう。
でもサリアさんとは別れてからいずれまた会いたいなぁ。
「ユウアちゃん、出ていく支度をするのじゃ」
・・・はい?
復活したおじーちゃん村長にいきなり言われた。
「ちょっと祖父様いきなりどういうこと!?」
「いや、そろそろ村人達を嘘八百で抑えるのが苦しくなってきてのう。それにあのバカ孫が今日来たのは恐らくバカ息子の仕業じゃ。そしてバカ孫はバカ息子に何かしら報告はして行くじゃろう。あれで意外と律儀でな。そしてあのバカ息子はお主の母をかなり嫌っておったからすぐに何か起こすかもしれん。・・・済まんのぅ」
一体何を村人に言ったのか問い詰めたいが、嘘を言ってまで俺の為に今まで押さえてくれてたのだ、ここは感謝すべきだろう・・・じじい言ってごめんなさい。
「何時でも出られるようにはしてありました。直ぐにでも出られます。今まで本当にありがとうございました・・・」
涙腺が緩む。
今はクーラ52で予定よりかなり早いが、準備はほぼ出来ている。
銀色くまさん倒してから毎日数時間、何時の間にか破壊箇所が修復されている迷宮で何度もアイテム集めして毎日大漁だった。
お金もかなり貯まったし、荷物は全部アイテムボックスの中だし、この家はおじーちゃんが管理して、村からは少し遠いが冒険者に使ってもらう事になったし、最寄りの学校までの迷宮も教えてもらったし、後は・・・。
「ユウアちゃん・・・」
サリアさんが抱きしめてくれた。
な、涙が止まらないー!
サリアさんのこの温もりを明日から感じられなくなるのはすごく辛い、一番辛い。
「大丈夫ですよ、お姉様。寂しいですがきっとまた会えますよ」
「うぅ、そこはずっと一緒に居たいって言って欲しかったな・・・。無理したらダメよ?知らない人に付いて行ったらダメよ?寂しいからって他の女性と一緒に寝たらダメよ?後は、後は・・・」
「あはは、そうだ」
俺はアイテムボックスの中からペンダントを取り出した。
トレントの森で手に入った糸に魔力を込めながら丹精込めて編み込んだ紐に、同じくトレントの森で手に入った銀色毛玉入りクリスタルをどうにか加工して取り付けた物。
お別れの時に渡そうと思って作っておいてよかった。
お守りになる、かもしれないから。
「ううーあたしまだ何も用意してなかったよ」
「お姉様には十分大切な物を頂きましたよ、とっても大切な思い出・・・今までありがとう」
「・・・うん、こちらこそありがとう」
先程の兄弟のやり取りと今のしおらしさのギャップがすごくいい、いいなー兄弟。
「ユウア・・・」
サリアさんは俺にそっと口づけをした・・・ってええー!?
「お、お姉様?」
「・・・今はお姉様でもいいかな?すぐに出るの?」
「?もう少しくらいなら大丈夫ですよね?」
「はっ、早く行きなさい。そうしないと・・・あたし・・・別れたく・・・というか・・・と、とにかく行きなさい。そして少しは男っぽく成長・・・したらダメっ、絶対!」
それはどうかと。
「元気でね?・・・行ってらっしゃい」
「うんっ、行ってきます」
「も、もしかしてユウアちゃんは男じゃったりするのかい?」
タイミング悪っ!
「そうですよ、おじーちゃんにもお世話になりました。ありがとうございました。これよかったら食べて下さい」
出したのはでっかいお肉のブロック沢山、野菜果物てんこ盛り。
口をぱくぱくしているおじーちゃん村長と苦笑しているサリアさんを置いて俺はさっさと旅立った。
あ、ベッド持ってくるの忘れてた。
家に戻った。
読んでくれている方々に感謝です。
そして次回から第2章に移ります。
ただ、更新は不定期になると思います。
これからも宜しくお願いします。