第2-1章
第二章 不快感と幸福感とエトセトラ
――ジリリリリリリリ、
ん、あ、ああ、目覚ましか、確かここら辺に置いといたはずだ、こそだ、届け俺の腕! この思いと一緒に!
朝っぱらから変なこと言ってすいませんでした。
――ジリリリリリリリ、
うるせぇな、早く止めよう。
カチ、
よし、止まった。
ちなみに目覚ましの位置は、ベットの頭側の所に置いてある小物とかを入れる高さ80センチくらいのやつの上に置いてあり、手を伸ばせばギリギリ届く所に置いてある。
すなわち、今このベットを真正面から見たとしたら、ベットから腕が一本生えているという奇妙なものが見れるぞ。
そんで、眠気眼を擦りながら、身体を起こす。
まだ頭がボーっとしているけれどずっとこのままでいると、入学式遅刻ということになるので、頑張って立ち上がった。
とりあえず喉が渇いていたので、制服へと着替える前にキッチンへとお茶を飲みに行くために部屋を出て階段を下りる。
流石にこの朝の早い時間にはまだ誰もいないのか。
何気なくリビングを見渡していると一枚の紙に目が引かれた、机の上に置かれているだけのただの紙切れに。
で、その紙に文字が書かれていたのでそれを読む。
え~と、なになに。
『貴方にはこれから一つ目の大きな選択の時節が訪れる。
そこに至るまでの道のりの途中で、幾つもの初めて出会うこととなる。
貴方が正しいと信じる行動を取ればいい。
どんな結果になろうとも。
そして、一つ目の大きな選択を終えた時、貴方はこの世界の真実の末端に触れるだろう。
急いで理解しなくていい、遅くてもいいから理解すればいい。
その真実は貴方しかわからない。
貴方が見たことはこの世界の真の理。
まだ一部、いずれ全部知ることになる。
どれだけの時間が掛かるかも知れぬが。』
ん? またこんな感じの詩か、一体誰がこんなの書いたんだか。
前のやつもそうだけれど、こういうのに全く興味がないのになぜかこれが頭に残るんだよな。
って、確か前にこんなのを見たときは夢だった気が。
まぁただの偶然かな、誰かしらが書いたやつが置きっ放しになっていただけだろうな。
うっ、なんだ、突然頭痛が、、、、、
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
う~あ~、ああ、はぁ。
不快な頭痛を伴っての目覚め。
身体を起こして、頭を軽く押さえる。
不快さ自体はもう残っていないが感覚ある。
目覚まし時計はセットしておいた時間の五分程前。
鳴かれてはうるさくてしょうがないので今のうちに停止。
不快さはもうないとはいえ、気持ち的にモヤモヤ感が頭にある。
気分転換と目覚めたばかりの喉の渇きを潤すためにキッチンへと行く。
部屋を出て、階段を下りた所で先程の悪夢との違いに気がつくこととなった。
そこにはもう何人かの人がいた、「おはよう」と声をかけられたのできちんと返した。
声を掛けられたという事でわかると思うけれども、さっきの誰もいないのが夢で、今が現実。
現実とは認め難くとも事実だからしょうがない。
目の前に沢山の兄姉弟妹がいようと、本当の事。
昨日の昼過ぎ頃に壊された、もしくは新しくできた生活環境。
頬をつねってみても、いくら現実逃避を試みても醒めなかった現実。
まぁ、朝からネガティブな気分にはなりたくないし、このことを考えるのはここまでにして、早く朝ごはんを作るとしますか。
それで、キッチンの扉を開けた時に気がついた、というよりは思い出した、俺以外にご飯を作る人がいたことを。
「おはよー創一」
目の前にいた隆也さんが挨拶をしてきたので返事。
「あーまだ寝ぼけているみたいだし、顔洗ってこよっと」
キッチンに背を向け洗面所へと向かおうとしたが、肩を掴まれて静止。
「ちょっと! 朝第一声から無視しないでぇ!」
こんな感じで掴まれたのよ。
で、そこに別の声。
「おはよう、そーちゃん」
「はよー創一」
「おはようございます、叶さん、彩音さん」
顔を洗いにいく途中だったことを思い出して、洗面所へと向かうことにする。が、両肩を後ろから掴まれている感覚に阻まれて進まない。
この状況が続くのも面倒なので振り返って満面の笑顔で返事。
「じゃまです☆」
「うっ」
その場で隆也さんが項垂れて地面に両掌を付けている。
何でこんなことになっているのか原因の究明はさておき、顔を洗いに行くとしますか。
で、数分後、顔を洗い終えてキッチンへと戻る。
「あ、隆也さん、おはようございます」
流石にさっきのはからかいすぎた感があるので、これ以上気分を落とさせない為にも返事をしておく。うん、俺って大人。
「あ、うん、おはよう」
元気取り戻したみたい、単純で助かったな。
「そんなことより皆さん何しているんですか?」
この質問に叶さんが「今みんなの朝ご飯を用意していたのよ」と答えてくれた。
ああ、そうか、今、朝だもんな、昨日まで一人で暮らしていたから他の人の分の朝食を作るなんて発想がなかったな、いや~盲点、流石叶さん。
「で、何を作っているんですか?」
「朝食はいつも、ご飯と味噌汁と+αで適当なものを付けているよ、今日は昨日買いすぎていたじゃがいもでふかし芋を作ってみたのよ」
彩音さんの言葉通り、鍋から芋のふかされているいい匂いがしてくる。
「この感じだと俺がもう手伝うことはもうなさそうですね」
炊飯器からはご飯が炊けたという音楽が流れてきて、味噌汁にはもう味噌が投入されており、じゃがいもはもうそろそろで出来上がりそうな状態だった。
「それでも、最後の盛りつけくらいは手伝わせてください」
ここにきて何もしないのもなんか嫌なので。
「ええ、お願いするわね、そーちゃん」
「了解!」
ということで盛りつけ委員に就任しました。
「じゃあもうそろそろできそうだし、僕は皆を呼んでくるね」
そして、キッチンから去って行ったのだった。
その後、丁度よくご飯が炊き上がったのでそれをお茶碗に盛り付けて、キッチンとリビングの仕切りとなっているテーブルへと乗せ終えた頃にまた丁度よく味噌汁とじゃがいもが完成したので、また盛り付けテーブルに置く。
で、全部を乗せ終えた時を狙ったかのようにキッチンの扉が開いて皆が入り始めてくる。
順番は昨晩と同じく、最初に入ってきたのが、小学3~4年生くらいの男の子、次に入ってきたのがえみちゃん、また目が合って「おにーちゃん」っと手を振ってきたので振り返した。
今度は心拍数上がってないぞ、多少慣れてきました。
「創一、なんかボーっとしてない?」
「ん、いやそんなことはないですよ」
「ならいいけど」
彩音さんに不振がられてしまった。まあ、とりあえず、いいや。
入ってきた人から順々にテーブルからご飯と味噌汁、ふかし芋を持って食卓に着く。
何人か目で昨日なんだかんだあった結霞ちゃんが入ってきて、目が合った。すると急に顔を赤くして目を反らす。
「ずいぶんと嫌われちまったな」
「彩音さん、茶化さないください」
強がってはみたものの、だいぶ落ち込んでいました。
そりゃ、まあ、俺が女の子だったとして、初対面であんなことがあった相手を好きになれっての方が無茶苦茶で難しいってことは理解しています。けれどもあんなあからさまに拒絶というか、嫌われた素振りをされると誰でも落ち込むのではないのでしょうか? 落ち込むでしょう。これからもっと仲良くなって「お兄ちゃん」とかって呼ばれてみたくないですか? 一つ同じ屋根の下で暮らしていくことになるのだろうし、だったら兄妹っぽいことしてみたいじゃん。あっ言っとくけれど俺はロリコンとか、妹趣味とかはないから、純粋に兄妹としての関係に憧れているだけですから、ここ重要。
落ち込んだ原因の結霞ちゃんも朝食を持って席に着いた。
よそっておいたご飯もほとんど持っていかれ、人も大体来たそうなので、調理組も朝食をとることにした。席は昨晩と同じ所が空いていた。よく見てみるとみんな座っている場所は大体同じだった。決まってないって言ってたけれど大体同じ所に座っている。
というこことは? という疑問を持ちながら恐る恐る隣を見てみると隣にいたのが…結霞ちゃん。
「お、おはよう結霞ちゃん」
なるべく不快にさせないように笑顔であいさつをする。
「おはようございます」
俺に一瞥もくれることなく、ぶっきら棒に、お前なんかに興味はありませんよ、といった風に返す。
「うっ」
またもや傷つきました。傷心旅行行こうかな…
そんな現実逃避をする時間はないことは百も承知なので、現実である今日このあとの入学式のことを考えよう。
考えると胸の中がもやもやしていて、不安が積もっているけれど、同じくらい、イヤ、それ以上に期待していることも自覚している。
初めての場所。初めての環境(この家はどうなっているのでしょうか? 不思議でしょうがないです)。初めての高校生活。初めて会う人(ここにもいっぱいいるから、どうにかなるだろう、きっと)。そんな初めて尽くしの生活がもう手を伸ばせば届く距離にあることに驚く。昨日は色々なことがありすぎてここまで思考を回すことができていなかった。あ~不安だけど楽しみだな。
期待を抱きながらご飯を食べ終えた。食器をシンクに持っていった所で叶さんが「食器は私たちが洗うから、学校の準備してきて」と言ってくれたので、お言葉に甘えさせてもらう。
正直な所受け入れるかどうか少し悩んだ。自分が使った食器を他人に洗わせて、自分は悠々と学校の支度。そんなことをしていいのか、という罪悪感が心の中にあったから。けれど断った所で「そーちゃんは今日入学式当日なんだから、しっかり準備して万全な状態で学校に行かないとダメ」などといった内容のことを言われる気がして結局手伝わさせてもらえないだろうから、時間を最も有効に使うためにも受け入れることにする。
学校の支度をするために自室へと戻ってきて、制服へと着替えることにする。雨峰高校の制服は明るめの群青色のブレザーで、左胸のポケットの所には学校の校章である切り立った山の峰を模したワッペンが施されている。学校指定のワイシャツは水色となっており、制服は青系統に統一されている。
全身新品の制服へと着替え終えた。まだしっくりと馴染まない制服、これから三年間の長いとも短いとも感じれる学校生活を共にしていく相棒。この制服が馴染んできた頃には、すっかり自分は学校に馴染めているのだろうか? 学校は楽しめているのだろうか?
制服に袖を通したことでより現実味を帯びてきた学校生活に浮足立っている。ようやく入学できるのか、今日から俺も高校生か、大丈夫だ、ちゃんとできる、努力はきっと報われる。自分に言い聞かせて冷静になる。
準備は万端だ、後は出発する時間が来るのを待つだけだ。
そしてその出発時刻の三十分前。叶さん、彩音さん、隆也さんを始めとする、高校生組が登校時刻となった、新入生の登校時刻はまだ先なので先輩たちを見送ることとなった。ちなみに、あの三人は俺とは違う高校に通っているらしい。
そして出発時刻。ローファーを履いて歩きだす。
高まる鼓動を原動力に、この先の未来を熱源体にして。
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