第1-5章
「はぁ~~~」
ただいま入浴中です。ほら、いわゆるサービスカットってやつだぞ、喜べ!
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まぁそうだよなだれも喜ばんよな、俺も男が風呂いる所を見て「喜べ!」て言われても絶対に喜べないもん。
見たとしたらのリアクションは「ああ風呂入っているんだ」
こんな見たまんまの事をそのまま言葉にするくらいしかできないしな。
こんなどうでもいいことは、頭の片隅からも追いやって、外に捨てておいて、リラックスタイムを堪能しましょう。
身体を伸ばし、頭の重さを浴槽の淵に預け、天井を見つめる。
天井には湯気が冷え結露してできた水滴があるだけで、特に眺めていて楽しいものはない、それでも天井を眺める。いや、何もかいからこそ天井を見ているのかもな。
ただのなんの変哲もない風呂場特有の天井、何もないから集中して見ることもない。
だからこそ、こんな素晴らしく無駄でありながら、こんなに素晴らしく充実してる。
けれど、たまには別の天井も見ては見たいとも思う、普遍的なものではなく星とか。
天井に星、つまりは露天風呂、いいね! たまにはそういうのも見てみたいと思う。
広がる夜空、輝く無数の星々、視界の隅に映る興味を阻む男女の仕切りの聳える壁。
うん、いいと思うよ、この先にはどんな夢と希望の詰まったシャングリラあるのか。
男が入ることが許されない、隔離された空間に存在する伝説のアルカディアの如く。
そんな夢のような桃源郷があるなんて素晴らしいと思わないか、露天風呂って最高。
高校での修学旅行やらの課外教室の際には、できているであろう友達と覗きに挑戦。
はぁ、こんな事考えていたりするから「覗き魔」なんて言われるんだよな、きっと。
なんだか非常に悲しくなってきましたし、現実的には修学旅行で覗きってできるか。
だいたい露天風呂を作るって決めて設計している時点で、覗きはできなくしてそう。
ということでこんな希望薄弱な未来の予定を立てても無意味だという結論になった。
そんなことより現実的な感じであれば今いきなり誰かはいってくるとか、俺みたく。
それならないとはいいきれないよな、未来は明るい希望を持ってそんな時節を待つ。
その待ち時間はあっという間になくることになった、風呂場の先脱衣場からの物音。
風呂特有の扉である曇りガラスにシルエットが映り肌色の占める面積が増えてゆく。
その影が一糸纏わぬ姿になったであろうことがわかり、息を飲み扉が開くのを待つ。
がちゃ、という音とともに扉が開き始め、ドアノブを掴んでいる腕から順に見える。
肌色が手首、肘、肩と順に姿を見せ、いよいよその人の全身全容があらわとなった。
「あっ」
扉を開け中へと踏み込んできた人が、中に俺が居たことに気がついてか声を漏らす。
「えっ!?」
先程の事件の鏡写しのような状態になったが、大きく異なることが一つだけあった。
風呂に入っているのは男、入って来たのも男、一体誰得展開なんだよ、この野郎が。
腐女子さんですか、そうですか? 俺は腐女子のことよく知らないけど、喜ぶのか?
俺は今かなり萎えています、とんだ闖入者ですよ、闖が付いてるから今すぐ帰って。
そんなもん俺はみたいと望んだ事は一切、一回も一瞬もないもで、おさらばしたい。
ちなみに本当にどうでも良いけど、今の闖入者は隆也さんでした、印象またダウン。
その闖入者は「入っていたんだごめん」と言い残しもうログアウトしてくれました。
そういや俺の公開処刑状態の時に隆也さんはいなかったな、だから気付かなかった。
うん、こんなの言い訳にもならんな、ただの隆也さんの不注意による、不幸な事故。
そんなことを体験して、嫌になったので、体をお湯に沈め、口から泡をはいてみた。
これで気分が変わったか、不幸は忘れようとしてか、今、肺にある空気を吐き出す。
空気を全て出し切ったら風呂から出ると決めたので、一区切りをつけるために吐く。
そして吐き終えたことをきっかけに、軽く呼吸を整えながら湯船から立ち上がった。
名残惜しくもこんな素晴らしく無駄でありながら、こんなに素晴らしく充実してる。
そんな素敵空間からあがってしまいました、本音ではもう少しだけ居たかったです。
過ぎたことを後悔してもただ、未練が残るだけで、有益なものが残るわけでもなし。
振り返ることもなく、一歩一歩歩みを進め、風呂場から上がり寝巻きへと着替える。
そして、着替え終え、もう危険区域ではなくなった(であろう)リビングへと行く。
辿りついたリビングでは、各々が各々のくつろぎ方で、憩いを堪能して座っている。
テレビを見ている者、ソファーで携帯をいじっている者、トランプをする二人組み。
個人個人が好きな事をしている、その中でテレビを見ていた孝也さんに声をかける。
「風呂、上がったんで入っていいですよ」
「うん、わかった、入るよ」
この言葉を皮切りに横に置いてあった着替えを取り、立ち上がり、風呂場へと行く。
すると、食器の片付けが終わったのか、彩音さん、叶さんがキッチンから出てくる。
「あ、そーちゃん、上がったのね」
「はい、今出ました」
「渡しておきたい物があるから、ちょっと待っててね」
その言葉と彩音さんをのこして階段を上り、どこかの部屋へと入っていったようだ。
「一体なんなんですか?」
「まぁ、待ってろ、見てからのお楽しみってやつだ」
「そんないい物なんですか?」
「いい物にするかどうかは創一しだいだな」
ん? なんだそりゃ? いい物にするかどうかは俺次第ってどういうことだろうか。
「そんな意味わからないみたいな顔するな」
「あ、ばれてました」
「もうすぐで答えが到着するんだし、それまで待て」
「わかりました」
ドタドタドタ、会話が終わるタイミングを丁度見計らったかのように叶さんの登場。
「はい、そーちゃん、これ」
差し出された物を受け取る、それはただの本、変哲もないよくある普通の日記帳だ。
「これ、ですか・・・・・・・?」
「そうよ」
「なんでまた、日記帳なんですか」
「それはね、ここに住んでいるみんなは、毎日日記をつけているの、もちろん私も彩音もね」
彩音さんに視線を向けると、もちろん書いているぞってな感じの表情を返してきた。
「だから、創一も付けろってなことでこれを用意しました、はい、パチパチパチパチ」
「へぇ、そうなんですか」
「うん、だからそーちゃんにも日記を付けて欲しいなって思ったから用意したの」
「それはわざわざありがとうございます。でも、俺日記を書いたことないから何を書いたらいいのかさっぱりなんですけど」
日記を書くってこと事態は別に、嫌とかじゃないけど、内容が全然浮かばないから。
「内容は何でもいいのよ、その日にあった出来事をそのまま日記に書けばいいの、覚え書きと同じよ」
「そんな感じでいいなら、できそうです」
「ちゃんと、毎日付けるのよ」
「はーい」
「うん、よろしい」
そのまま自然な動作で叶さんに頭を撫でられた。
正直、内心かなりびっくりしていたけれど、そんな悪い気もしなかったから、されるがままに撫でら続けた。
年上の人に撫でられるってなんかいいよね、と俺の性癖を暴露した所で、もう眠くなっていたので「もう寝ます」と言ってから、階段を上る前に「おやすみなさい」と挨拶して「おやすみ」と返事を返されてから階段を上る。
階段を上りきった所で欠伸をしながら、両腕を天井に向け伸ばし、欠伸中の目を瞑った状態でも自分の部屋のドアノブを掴む事ができるくらいに馴れた廊下を言葉通りに進み、ドアを開け、マイルームに帰還。
目尻に溜まった涙を拭いて、左手に持っている日記帳を勉強机の上に置く。
さてと、ホントは今すぐにでもベットへと飛び込み、お休みになりたい所だけれども、叶さんと約束した手前、零日坊主(手つかず)は流石に罪悪感があるので、椅子に座り、卓上の日記帳を開く。
さて、何を書くか、まずは日付だな。おまけで天気も書くか。
『4月4日木曜日、晴れ』
で、問題はこの先だな、覚え書きみたいでいいって言ってたから、今日の出来事をそのまま書くか。
『昼過ぎ頃に家を出て、これから通うことになる雨峰高校へと行き、色々と手続きを行った、何枚かの紙に判子を押して、サインするだけでそんな手間の掛かるようなものではなかった。』
学校のことはこれくらいかな。
『手続きが終わってからは、すぐに帰る事にした。これから毎日通る通学路、道が狭い割には自動車が通るから気を付けないとな、交通事故はマジ勘弁。で、もう少しで家に着くって所で「俺に兄弟がいたらどうなっていたんだろう」と普段考えないような事を考えてた。』
別に一人子に不満が溜まっていたてことは、なかったんだけどな。たまに、一人で寂しいって思うくらいで、ここまで露骨にいたらって思ったことはなかったな。
『それで、帰宅したら沢山の兄姉弟妹とのご対面からのえみちゃんによる「おにーちゃん、おかえり」という特殊攻撃(妹属性付与)を受けて、殺されて、リビングで目覚めて、二発目の特殊攻撃に耐えて、彩音さん、叶さん、隆也さんと会って、大人数分の料理作り。』
えみちゃんはなかなかの強キャラだからな(そう感じるのは俺だけかもしれないけど)、これからも気をつけないと、それとこれからは料理作りが楽しみになりそうだな、誰かに食べてもらえるってことは結構嬉しいし。
『作ったメニューはカレー。味は美味しくできたんだけれど、食事中に結霞ちゃんによる大きな事件、俺気絶。起きてから彩音さんと叶さんの「どっちの方が俺の事を心配してたか」と、どうでもいいことに巻き込まれかけ、風呂に行ったら結霞ちゃんとの二回目の事件。』
本当に結霞ちゃんには酷いこと(同時にいいことだったけど)をされたり、酷い事を(何度も言うけどあれは事故です)したな。
『リビングに戻った時の冷たい視線。で、その後に風呂へ、で、興を削ぐ闖入者(隆也さん)。』
あれは酷かった。
『風呂を上がってからこの日記帳を渡された。』
よし、これで終わりっと、ただ単に今日の出来事書いただけだけど、これでいいのかな、一応最後に締めの言葉でも書いとくか。
『明日から始まる高校生活、新たにできた家庭、なるべく早く馴れて楽しい生活が送れるように。』
よし、完璧。
じゃ寝るか。
ベットに潜り込んで目を瞑り一日の終わりを感じる。
「って、なに馴れてんだよ俺!!」
勢いよく身体を起こし叫んでた。
普通に考えればあのおかしな奴等の事を糾弾するべきなのに、沢山の兄姉弟妹との生活に馴染んでいるし!
まぁいいや、明日になればどうにかなるさ。
下から「何かあったの?」みたいな声が聞こえた気がしたが気にしないで眠りにつく。