第1-4章
「「痛っ」」
あ~まだ頭が痛いな、というか今のは頭の中というよりは、物理的に痛かったし、それに俺以外の声も聞こえた気が・・・
恐る恐る瞼を開けると、俺と同じように額を撫でる彩音さんがいる。
「ほー創一いい度胸だな、私がお前の顔を覗きこんだタイミングに合わせてヘッドバッドとは」
「いや、完璧な事故だ! 偶然だ! 偶発的なことです!」
「いや、許さん、表に出やがれこの野郎」
「本当はそんなこと思ってもいないのに、さっきから心配で何度もそーちゃんの顔を覗き込んでいたものね」
「う、うるさい叶、別にそんなこと思っていない」
「頭で思ってなくても身体が勝手にそうするくらい心配していたんだもんね」
「だから、そんなことないって言ってるだろ! そういう叶はどうなんだ?」
「もちろん、心配していたに決まっているでしょ、薄情な彩音とは違ってね」
「な、別にそんなことも言ってはいないぞ! そのさ、ああ、心配してたさ」
「なら決まりね」
「ああ」
なんかよくわからないやり取りが始まったな、こういうのは巻き込まれる前に避難っと。
「創一!」
「そーちゃん!」
「は、はい!」
避難失敗、一気に事態の中心へとご招待。
「「どっちの方がそーちゃん(創一)のことを心配していたか決めて!」」
「はい!?」
なんですかそれは? まったくもって意味のわからない張り合い。いや、心配してくれていた事に関しては素直に嬉しく思うけれど、こんな無秩序なことには巻き込まれる事は誠に御免被りたいわけなので。
「「いいから、決めて!」」
想像以上の剣幕で迫られてきています。これは流石に身の危険を感じます。
「え~と」
息を飲んで審判を待っている。
「風呂入ってきます!」
全力回避、緊急避難、んでもって疾風迅雷の速さで自室に戻って着替え取って、電光石火のスピードで洗面所に篭る。
これで一安心か? まぁ早く風呂入ろうっと。
一抹の不安が残るので念には念を入れてこのハンドタオルを風呂場に持ち込んでおこう。
そして扉を開けた。
「あっ」
目の前にある普段と異なる景色に声を漏らす。
「えっ!?」
不思議な事に風呂場から声が返ってきた。
「――っ!」
返ってきた声が声ならぬ声に変わる。
「いや、その、これはわざとではない、断じて違うぞ気がつかなかったんだ、本当だ!」
言い訳をしているは単純、目の前にある光景とはさっき俺を襲った少女がシャワーを浴びていた。
うん。これ、なんてエロゲ!?
アニメとかそういうのでこういうシーン見たことあるけど、いつもわざとだろって思ってみていたけれど、いざ自分が体験してみるとわかるね、本当にたまたまであることが。
危険区域から逃げて来た事と、いつ追っ手(彩音さん、叶さん)が来るかわからない不安、そんな板挟みの状態だと、風呂場まで意識を回せないよ。
で、目の前の少女が。
「出てって―――――――!」
言葉の後に風呂場の中にあるものを投げ飛ばしてくる。
そして投げ飛ばされて数発目に飛ばされたおそらくシャンプーの容器が顔面に直撃、その勢いで仰け反り転んだ。でもって転んでいる間に扉が閉まる。
ああ痛かった。これは結構な威力だな、中身がまだほとんど入っているからなおの事威力か上がっていやがるぞこの野郎。
それにしてもなんと俺得な展開だったのに、あまりに咄嗟のことでちゃんと直視できなかったぞ、またこんな機会があったら隅から隅まではっきりと見てや――いや、本当にわざとじゃないぞ! 大事な事だからもう一回言うけど、わざとじゃない!
そりゃあ俺も男だからこういう展開はいくらでも来やがれって思うけれど、あくまでも“来やがれ”であって、偶発的な状況だ。
流石に覗こうだなんて自発的には良心の呵責に耐え切れずできませんよ、マジで。
そんな疑いの眼差し向けられてもこれは事実ですから、覗きはしません。
オレ、ウソツカナイ、ホントウ。
よって今回の事故は不問に処するでファイナルアンサー。
という事で服を着直して今一度、逃げてきたはずの危険区域へと舞い戻るのであった。
足取りも重く、危険区域に踏み入った刹那、刺さるような視線を複数感じる。
そこにいる全員がジト目で俺の事を見据えている。
とりあえずその無言の言葉を翻訳してみると「この変態、死ね」とかって感じであろう。
「いや、なんだそのみんなの視線は!? あれは嬉しい事故であって事件ではないんだ本当です」
この短い時間の間に俺は何回言い訳をしているのだろうか、なんか悲しくなってきました。
「そうか創一そうっだたのか」
「あ、彩音さんわかってくれたんですね」
ああ、わかったさと言いながら俺の肩に手をポンと置き一言。
「男の欲望に忠実にしたがっただけだよな」
「全然わかってくれてない!」
「ああ、わかってるさ、全部理解しているさ、それでもなやって良い事と、悪い事があるんだ、わかるよな創一」
「わかってくれていないじゃないですか! それに話すらちゃんと聞いていないじゃないですか! あれは事故なんですてっば!」
半分涙目になりながら必死に誤解を解こうと努力を試みている。
「っぷ、アハハハ」
するとなぜか急に彩音さんを始め他の皆様方が笑い出した。
えっ何、わけがわからない、という風にキョロキョロ辺りを見回していたら、彩音さんが話を続ける。
「普通に最初から事故ってわかっていたぞ、お前にそんなことができるほど勇気があるとは思えなかったし、ただ、からかってみたら面白そうだからそうしただけだ。そしたら思いのほか必死に信じてくれって懇願してくるのんだから、なんか可愛くってついついからかい過ぎてしまった。いやぁ~ごめん」
男として情けないと思うと同時に、誤解されていなかったということに安心して、虚脱感に苛まれています。
とりあえず、「変態覗き野郎」とか「わざとのラッキースケベ」とかその他諸々、酷いあだ名が付かなさそうでよかった。
「本当にごめんな、覗き魔」
「うっ」
彩音さん、その言葉はストレートなだけに、ココロが、俺のココロがめっちゃ痛いです。
偶然とはいえ、結果的には見てしまった、という罪悪感にココロが押し潰されそうです。
現に今、俺心臓の辺りを強く押さえているし、その言葉聞いてから力が入らなくなった。
おかげさまで膝を床に着けて、項垂れているよ、まだ「変態覗き野郎」の方がマシだよ。
こんな情けない姿をしていることに見かねてだろうか、叶さんが声を掛けてきてくれた。
「ごめんね、そーちゃん。彩音はデリカシーとかそういうのがない、がさつな子だからしょうがないの。彩音、もうそーちゃんに覗き魔って言っちゃ駄目だよ」
「叶に言われたら仕方がないか、ごめん、創一。もう覗き魔って言わない、約束する」
叶さんに促された事によって彩音さんがようやくちゃんと謝ってくれた。
確かに謝ってくれたけど言いたいことがある。
覗き魔って言った! しかも二回も!
うん・・・・・・悪気がないってのはわかっているよ、それでもその言葉を聞く度にココロになにか刺さったような不快感があるんですよ、でも謝ってくれたから赦すけど。
「う、うん」
二回言われたことが気にかかって、ぎこちない返事になってしまった。
ガチャン、
突然廊下とリビングを隔てる扉が開いた。
その扉を開けたのは先程風呂に入っていた女の子。
「お、結霞風呂出たか、これで堂々と風呂には入れるぞ、創一」
「そうですね」
もう適当に答える。これに突っかかっていったら面倒くさそうだし。
それで、結霞ちゃんが「はい」と彩音さんに返事した後、俺と目が合った。
風呂上りで少し火照っている顔が更に赤くなる。
すると颯爽とキッチンに飛び込み(たぶん飲み物を飲んだ)、その素早い速さのままキッチンから出てきて、階段を登ったっと思ったら戻ってきて「おやすみなさい」と一礼してまた登って行った。
で、一連の動作を見終えたので「じゃあ俺は風呂入ってきます」と言い残してから、今度こそ風呂場へGO!!
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