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第1-3章

 叶さんだった。

「負けちゃいましたね」

 おどけた様に訊いてみる。

「そうね、負けちゃったわね、残念ね」

 俺に合わせた様に軽く返してくれた。

「そうですね、まぁでも後はほとんど煮込むだけだし、楽そうですね」

「楽だからって手を抜いちゃ駄目よ」

 そう言ってから俺の顔を覗き込んでくる。

 うぉ、顔近! なんか、こういうのもたまにはいいな。

「あ、はい」

 自然と従うようにうなずいていた。

 こういうのが姉って奴なのかな? そんなこと不意に思ってみたが、わかんねぇや。

 姉がいたことがないからさ、この仕草が彩音さんの友達に対する対応なのか、弟に対する対応なのか、まだ出会ってから一日目だからさ、そんなことの判別はつかないけれど、まぁそんなに焦って決める必要はないな、時間はまだまだあるんだしな。

 ゆっくり気長に見定めていこうか。

 今はこんな事考える必要はなかったな、料理に集中しないとな。え~とまず鍋はどこにあるんだ、あ、あった。ん、なんでだ?

 鍋をみて浮かんだ疑問を投げかけてみる。

「何で、鍋の大きさが違うんですか?」

「それはね、甘口と辛口を分けるために二つ用意しているのよ、大きい方が辛口で、小さい方が甘口ね。大きさが違うのは甘口を食べるのはほとんどが小さい子達だからそのサイズなの」

「へぇ、なるほど」

「それじゃあ早く作りましょうか」

「はい」

 その返事を皮切りに鍋に油をひいて、食材を順々に入れて、水を入れて、灰汁抜いて、ルー入れて、それでカレー完成っと。

「いくらカレーといってもこの量は結構大変ですね」

「そうなのよね、この量だと私の力だけだとちょっと大変なのよね」

「そうですよね、俺も疲れましたから、それにしても業務用のカレールーなんてあるんですね、大きさに結構驚きました」

「私も最初は凄いなぁと思ったけれど、こっちの方が安いのよね」

「へぇ、そうだ、明日学校終わった後にここら辺案内して貰えませんか? 買い物をする場所とか知っておきたいんで」

「ええ、いいわよ」

「よし、じゃあ明日はお願いします」

 これでコンビニ弁当生活からの脱却が決定されたな。

「お願いされました。それじゃあカレーを器に盛りつけといてね、私はみんなを呼んでくるから」

「はーい、わかりました。さて、今のうちに隠し味でも」

 隠し味鍋に投入完了!

 それにしてもやっぱり叶さんはいい人だな、うん。じゃあさっさとカレーを盛り付けちまいますか。

 確かそこに置いておいたって言ってたなっと、え~と・・・ そうだ忘れてた。

 そのに広がっているのは皿が二十枚前後置いてある景色だ。

 いや、これは流石に一人で全部やるにはかなり骨が折れるぞ、叶さんいい人だよな、そうだよな、そうだよ、だからこれはきっと、わざとじゃなくてみんなに集合を掛けるという重要な任務に思考がすでに向かっていて、このことに気付かなかっただけだ。

 はぁ~、しょうがないやるか!

 空元気になり自分を奮い立たせ盛りつけ(戦い)に挑む。

 それにしても炊飯器の量も凄いよな、5機置いてあるぞ。

 ・・・静観していないで、手を動かさんとな。

 と、取り掛かろうとした刹那にガチャンと扉の開く音が聞こえたのでそちらに目をやると、二人の姿があった。

「よっ、お困りか?」

「そう、思うなら手伝ってくれませんか、彩音さん」

「そのために僕たちが来たんだから大丈夫だよ」

「ナイス、隆也さん」

「んじゃあ、早くやるぞ、私がご飯盛り付けるから、ちゃっちゃとルーかけろよ」

「「はーい」」

 二人の助っ人の甲斐もあって盛りつけ作業はスムーズに行われて、全員分の盛り付けが終了した。それをキッチンとリビングの間にあるテーブルの上に置くようにと言われたのでそこに。置いた

「なんで普通に食卓まで運ばないんですか?」

「ああ、こういう個人個人のやつはここに置いて各々で取るようにしているんだよ、食卓に持っていって、そこの席にカレーだけ置いてあるってのは、なんか嫌だろ、それに余っていたらこっちに置いてあるほうが片付けが楽だからな」

 質問に彩音さんが答えてくれた。

「へぇーなるほど」

 確かにそうだな、食卓でみんなで食べてるときにふと目線を送った先にカレーだけ置いてあって誰もいないって光景は余り良いとは言えないな。周りの席は埋まっているのにそこだけぽつんと孤立したかの如く空席、しかも誰にも手を着けられていないカレーがある、うわっ、虚しっ。

「全部おき終えたし、叶さんにOKだすね」

 振り向き扉へ向けて歩き出す。

「おー頼んだ隆也」

 その背中に手を振る。

 次に扉が開いたときには、叶さんでも、隆也さんでもない人が入って来た。

 最初に入ってきたのが、小学3~4年生くらいの男の子、次に入ってきたのがえみちゃん、目が合って「おにーちゃん」っと手を振ってきたので、振り返しました。また、心拍あがってきてます。落ち着きます。落ち着け、落ち着いた。

 えみちゃんに弱いな俺。

 で、男の子とえみちゃんが二段になっているテーブルの下の段にある甘口カレーを取って行く。

 その二人以降にも沢山入ってきた、中学生くらいの女の子、大学生くらいの男、タメくらいの女子、本当に沢山いる。

 そのみんなが俺を見て好意と好奇の混じったような眼差しで見てきた。

俺も同じようにみんなのことを見ているから、文句なんていうことはできないけど、よかったのが、あからさまに嫌悪感を出している人が見受けられなかったことだ。

 ある程度は歓迎されているんだろうな、だったらいずれ馴染むこともできるだろうな。

 そんなこんなで眺めていたら、料理組み以外のみんながカレーを取り終えたので自分の分を取りにかかる。

 で、料理組みこと彩音さん叶さん隆也さん俺が各自のカレーを手に持ち席へと移動を始める。

「叶さん、これって席って決まっているんですか?」

「いいえ、決まっていないわよ、だから適当にあいている所に座っていいのよ」

 わかりましたっと短く返事をして空席を探したら丁度4人分のスペースが空いていたので、そこに座る事にした。

 真ん中辺りにわざわざスペースを開けてくれているってことは、みんな気がきくな、この三人とは結構仲良くなったからこの方が気が楽で助かる。

 という事で席に着いた。右隣に隆也さん、正面に彩音さん、俺から見て彩音さんの右隣に叶さん、で、俺の左隣に女子中学生。

 うん、なんかいいね、自分も少し前までは中学生だったけれど、高校生になってから中学生みるとなんか気分が大分違うな、ほんの一ヶ月くらい前のことなにかなり懐かしく感じる。

って言っても、まだちゃんと高校には行っていないんだけどね、学校見学と手続きで行ったそれっきりだからな。

 明日が楽しみであり同時に不安でもあるよ、高校では受験勉強がんばった分、沢山友達作らんとな、てか作る! 作りたい! 作ってみせる!

「じゃあ、みんなご飯もったな、よし! いただきます!」

 彩音さんがしきって声を掛ける。その声に一同続いて。

『いただきます!』

 こうして待ちに待ったディナーのスタート! そして久しぶりの手作り料理!

 やっぱりコンビニ弁当よりお手製の方がなんか良いよね。

 そしてカレーを一口食べる。

 うん、やっぱ良いね美味い。

「え、これ美味しい」「いつもより美味いぞ!?」「確かに」

 叶さん、彩音さん、隆也さんが驚きの表情を表す。

 その表情を見てしたり顔をする俺。

「クックックック」

 思わず不気味な感じに笑っちゃった。

「創一、一体何をした!」

 彩音さんが人差し指をバシッと向けてくる。

「フッ、それはな」

「それは?」

「隠し味をいれたのさ!」

「な、なにぃ!? なにをいれたんだ!」

 そんな棒読みみたいになるなら無理にその変なテンション続けなくていいのに、ってそんなこと思ってないで続き続き。

「それはな」

「それは?」

 生唾をごくりと飲み込む。

「インスタントコーヒーだ!」

 これでようやくこの妙な小芝居がエンディングを向かえる。

「えっ!! マジか!! ちょっとヤバイ!」

 ん? なんか俺が想像していた返答とは若干違うし彩音さん以外の人も驚きの声を漏らしていたな、それにトーンがなんかマジだし。

「そんなことないですよ・・・?」

 彩音さんの視線が俺を捕らえていない、てか、叶さんと隆也さん、他の人も俺ではないどこか一点をみている。

 視線の先は俺の隣の中学生。

 俺も合わせて隣へと視線を送ると隣の子が俯いている。

 そして、顔を上げ、俺のことを見つめる。

 お、なんか目が少しとろーんとしてるな、うん普通に可愛いと思います。

 黒髪、ショートヘア、運動部に入っていそうな雰囲気、いいと思います。

「そーちゃん逃げて!」

 逃げろってなにから逃げればいいんだ? 辺りを見てもそんな危険因子は見つからな――

 刹那、視界が縦に動いた。

 うわっ、なんだ!? 何が起きた!? なんで床が頭の下にある? 俺、どんな状況になっているんだ? それに腹付近に何か重みが・・・ 

 !?!

 さっき隣にいた女の子が俺の腹に跨るように座っている・・・

 そうか、そういうことかようやく状況が理解できた。この子に押し倒されてこんなことになっているのか、合点が合った。

 って合うか! それよりも俺はこの後なにをされるんでしょうか? 期待と不安と恐怖と畏怖とその他諸々が心中で交じり合って、ぐっちゃぐちゃになっています。

 期待を余裕で押し黙らせる危険因子が目の前にいます。どうしましょう。

「子供たちに目隠して!」

 叶さんがそんな指示を出しているってことは、子供には見せられないような事をされるんですか? これはどうしたものか。

 逃げろって思っている奴もいると思うけれど、できれば俺もそうしたい! でもできない(泣

 実は今、倒された時頭ぶつけてフラフラしているんですよ。こうやって意識保っている方が難しいんじゃないかって思うくらいには、それに頭の中がパニック中プラス彼女によって両肩を押さえつけられている。

 諦めて意識を失うのも一つの手かもしれないが、それはそれで不安だからやだ。

 ここまでの経緯を軽く確認すると、カレーを一口食ったら押し倒されて、身動き取れない。

 なんでこうなった!? 自問自答しても答えでないから諦めよう。

 自問自答を諦め、彼女に視線を送ると、俺の両肩を彼女が両掌で押さえていることもあり、顔の距離が近く、身体も密着している。

 すると、彼女が俺の左肩から手をどかしてくれた。開放してくれたのか? と一瞬思ったが、そんな幻想は彼女の右手によって壊された。

 どかした右手が俺の頬に小指から人差し指へと順に妖艶に、妖しく触れてくる。

「もぅ、創一ったら、可愛いんだから」

 そう言ってから笑顔を見せ、そのまま顔を近づけてくる。

 近づき顔と顔とが触れ、唇が重なるかと思いきや、通り過ぎる。

 俺のファーストキスが、危うくカレー味になる所だった、間一髪の所でセーフだ、いや今の状況は完璧にアウトだけどさ。

 通り過ぎた顔は唇が重なる事はなかったが、互いの頬と頬とが触れ合う。

 すりすり、すりすり、その擬音から想像される通りに、すりあわさっている、否、すりあわさせられている。

「本当に可愛いんだから」

 その言葉を伝えるために、顔を上げ視線を混じわらさせる。

 と、その視線が別のものを捕らえる。

「もぅ、創一ったら」

 色香を含んだ笑顔が向けられる。

「子供みたいね」

 今までの言葉からの不可解の台詞。

「カレーがついてるわよ」

 今の言葉で理解できた台詞。

「とってあげるわね」

 そしてまた顔を近づける。

 おい、何をするきだ! っと声を上げる寸暇すらなく。

 ぺろん、

「とれたよ、創一」

 口の横に付いていたカレーは彼女に舐めとられた。

 もう、限界、

 南無阿弥陀仏。

 またもや気絶。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あ~頭いてぇ、さっきは酷いような、嬉しいような目に合ったな。

 地面が柔らかいってことはまたソファーにでも寝かされているんだな、確かめてみるかっと。

 目を開いた先に広がった景色はリビング。

 ご名答っと、ん、それにしても誰もいないな、前の時はえみちゃんがいてくれたのに、それにあんな大人数いたはずのキッチンからも物音一つしていないぞ。

 みんなで買い物とは考えにくいし、一体どうしたんだろうか。

 あっ! 机の上に紙が置いてある、たぶん置手紙かな?

 さて、なんて書いてあるのか、え~と、なになに。


『貴方にはこれから幾度として選択の迫られる時節が訪れる、それは逃げられるものでも、遁れられるものではない、この世界で生きて行く上の理、生きる為の必然。

 拒む事は許されない、それが貴方がここにいる意味だから、けれど失敗は赦される。

 それが貴方に覚悟を与える、貴方に成長を与える、だから臆さないで、けれど些事と捉えないで、それでは唯の愚者にしかなれないから。

 貴方の選択で世界が変わる、正になるか負になるか、それは貴方次第。

 恐れはいらない、自身を信じて、その答えが最良でなくとの最善を尽くしたのなら間違いではないから。

 だから、自分を信じて、自信を持って』


 ん、なんだこりゃ? 置手紙じゃなくてなんかの詩か?

 内容は要するに貴方の選択は正しいから、その選択に自信を持って行けってところかな。

 へぇなるほど。

まぁ、俺は詩とか俳句とかそういった類のものはまったく興味がないから、これ以上の深い感情輸入とかはできないけれどな。

 それにしてもこれが置手紙でもないとすると、みんなはどこにいるんだか。

 この階からはなんの物音も聞こえないし、二階もあんな人数がいるんだとしたら静か過ぎるし、ホントどこ行ったんだか。

 うっ、なんだ突然頭が痛いというか、重いというか、何かよくわからない不快感が・・・


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


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