第1-2章
と、まぁ、長々と愚痴を聞いている内にタマネギも全部切り終えました。
「それにしても創一はよく目にしみないな」
目を赤く充血させている隆也さんが訊く。
「んまぁ、ちょっとしたコツがありましてね」
「え、何? 僕にも教えてよ」
「それはね・・・」
「それは?」
食い入る様に俺のことを見つめている隆也さんに向けて親指を立て、グッドポーズをしてから一言。
「企業秘密です」
「そんなぁ~教えてよ」
だから縋り付くな、気持ち悪い。
「いつか気が向いたらね」
さっさと手を洗っちまうか。
「いいじゃん、教えてよ」
「はいはい、いつかね」
「いつかって、いつ?」
「一万年と二千年くらい経ったら」
「そんなに生きていられないよ~」
つっこむ所そっちなんだ、んまぁこんな七面倒くさい話を切り上げてリビングに戻ろうっと。
「それ以前に無視も止めてぇ、少しは構ってぇ」
未だにしつこいな、こいつ。
「八千年過ぎても放って置く」
で、どうにか振り切ってリビングへと舞い戻る事ができた。扉を閉める直前に「創一~」と俺のことを呼ぶ声が聞こえた気がしたが、これは幻聴だろう。
それにしてもあの二人もよくこの人とつるんでいられるな。
「創一、おつかれ~」
「おつかれさま、そーちゃん」
と、そこにあの二人が、ソファーから声を掛けてきた。
「彩音さん、叶さん、本当に疲れましたよ!」
「あ、やっぱりね」
「確信犯だったのか!」
彩音さんの無責任な発言に肩を落とす。
「それでもあんまり隆也君を嫌いにならないでね」
叶さんのフォローに「なんでですか?」と訊き返してみる。
「あの子は、あれでも兄らしくあろうとしての行動だから」
「あんな情けないのがですか?」
「うんん、違うよ、あれが普段。頑張ったのが最初の二三言葉目くらいまでかな」
口の下に人差し指を当てて視線だけを上にして思い出しながら話していた。
「兄らしくであの『僕は作ってないし』ってどんな兄を想像していたんだか」
「さぁ、よくはわからないけれど、兄だから上の立ち場っぽくなりたかったのじゃないかな」
「なんか、小さい人だな」
「まぁ、それがアイツだからな」
彩音さんがにかっと笑う。それにつられて叶さんも笑う。
「そうね」
それにつられて俺も笑う。
「そうなんだ」
この会話を聞いていたら隆也さんはどう思うのだろうかな、その時のリアクションも見てみたいな。
そうか、今なんとなくわかった気がする。二人が隆也さんとつるんでいる理由が。
俺が何かを得心したかのような顔をしたこに気がついたのか二人が。
「それだ」
「そういうことよ」
何がわかったかと言うと、あの人をからかうのは結構面白い。それをわからせるために二人っきりにしたのだろうな。
それじゃあ今こと二人に言うべき言葉が決まったな
「じゃあ次から俺もサボります」
「それがいい」
「そうね」
ちなみに誤解を受けないようにするために言っておくがこれはイジメではないからな、断じて違うぞ。そうだな例えるならばクラスの中に必ずいじられキャラってのがいるだろ、で、それが今回のこれににどう繋がるかと言うと、そのいじられキャラの明確な確認と、いじる側の結託だ。
だからイジメなんかではない、ただのからかいってことだ。そこんとこ間違えないでくれ、これ結構重要だから。
そんなこんなで話していたら「みんなぁ~」と情けない声と一緒に扉が開けられ、隆也さんがリビングに入ってくる。
「どうした、隆也?」
彩音さんが最初に答える。
「もうタマネギも切り終わったし、手伝ってよ! と言うより変わってよ!」
赤く充血させた目で近寄ってくる。タマネギを切ったことを知らなかったら、目を血走らせて襲ってこようとしている変人にしか見えないな。
「そうか、それは大変だったな、だが、断る」
すぐさま却下。当然の如く悪びれた風もない。
「そんなの平等じゃないよ」
「それじゃあ平等にじゃんけんといこうじゃないか。二人とも異議ないか?」
「「異議なーし」」
見事にハモっての俺と叶さんの返答。
「よし、それじゃいくぞ! 最初はグー、じゃんけんポイ」
そこに出された手は、三人がパー、残りの一人がグー、そしてその残りの一人とは、なんと・・・俺です。
ハッ、どうせ人生なんてこんなもんですよ、子宮から出てきて、産湯に浸かり、言葉を発する事ができるようになり、歩けるようになる。
小学校入学前夜にはランドセルを背負って、始まる新たな世界に思いを馳せ、卒業式が近づけば友達との別れを憂い、中学入学に期待と不安を抱く。
初めての部活動と言うものを体験し、三年目には受験と言う戦争に対面しながらも、高校へと近づき、脚を踏み入れる。
その先を三者三様、十人十色の道を進む。
そんな運命の上でこのじゃんけんも存在しているのだろうな、俺は人生に導かれるようにしてここで敗れた。
だから、この敗北は俺のせいではない、全ては運命のせいだ、運命を呪ってやる。
という大仰な話は全てどうでもいい無駄話で、そんなたかだか十五六年生きたくらいじゃあ人生を語るには経験が少ないってことくらいはわかっているさ。
まぁ、言いたいことを一言で纏めれば悔しいです。
「んじゃあ、鍋はもう一つあるし、もう一人を決めるよ」
敗北に打ちひしがれ、両手の平を地面につけ悔しがっている俺を無視してもう一人を決めにかかっている。
「最初はグー、じゃんけんポイ」
またもや一発で勝敗が決した。
二人がグー、残り一人がパー、俺の後を追うかのような敗北を帰した。
そして、その敗者とは・・・
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