第4-7章
博物館を出たその足で赴いた先は近くにあるファーストフードのお店だ。百円でそれなりの物を食べる事ができて、空腹を満たす事も出来てしまうという、中学生や決して懐に余裕のあるとは言い切れない俺みたいな奴にとっては大助かりな場所だ。
時刻的にはお昼の書き入れ時を過ぎているお陰で、店の中からはみ出んばかりの行列などは存在せず、数分も待てば注文できるくらいには空いていた。
俺たちは見つからない様に店の外から結霞ちゃん達が注文を終え、ニ階に上がって行くのを確かめてからレジの前へと着いた。
「何か食べたい物があったら頼んでいいよ。付き合ってくれているし驕るから」
「ん、いいかい?」
「こんなので申し訳ないけれど、心ばかしのお礼だからさ、ほら好きな物を頼んじゃって良いよ」
レジ前でこんな事を言うのは今更ながら失礼だと気が付いたけれど、事実だから仕方がないだろ、実際安さだけが取り柄みたいな物なんだからさ。店員さんが俺の事睨んでいたりしないよね? 怖くてそっち見れないよ。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰うかな」
「おう、任せとけ」
さあ、なんでもジャンジャン注文してくれちゃっていいぞ。だからってハンバーガー百個とかは言いださないでくれ。俺と俺のお財布が号泣するから。誰も平和になれないから。それに、もしそんなことを実際に言ったとしたら、責任を持ってきちんと食べるまで帰さないから。人のお礼の気持ちを無下にするんですか? って問い詰めて意地でも食わせてやるから。
そんな多少ブラックな事を考えながら、何を注文するのかを待つ。
「それじゃ、ポテトと林檎ジュースでお願いね」
「了解」
普通は普通でつまらないなどと理不尽な事を思いながらも、妙な事を言われなくて一安心しておく。これでスマイル下さいって言えとかだったら、ちょっと困るくらいで普通に頼んじまうから結果的には俺の心が少し傷つくのと、店員さんに迷惑をかけるだけで悪いことずくめになっただろうけど。
それで、鵜川さんの注文に俺の分のハンバーガーと珈琲を加えて代金を払い終えてから頼んだ品々を受け取って歩き始める。
ニ階に上がるなり二人がどこに居るのか見回してみたら、階段から遠い部屋の奥の方に陣取っているのを発見できた。
さて、ここからはどこに陣取るかが結構重要だな。見つからない事を重視してなるだけ遠い席を選ぶのか、危険を冒して会話を聴き取る事ができるくらいには近い席にするのか。
さあ、どちらにするか。これは結構重要な選択肢だ。見つかり難い方を取るのなら二人の表情を窺うくらいの事は出来るかもしれないが、会話を聴き取る事まではできたりはしない。近くの方を選んだなら、会話を盗み聴くことはある程度できるだろうが、この騒がしい室内では全てを聴き分ける事は困難そうだ。いやはや悩む。
「創一早おいでよー」
そんな風に悩んでいる間に鵜川さんは近場の開いていた席について俺の事を呼んでいるではないか。しかも結構大きめな声で。
これはちょっと一言申しても良いだろうか、良いだろうね、良に決まっている。こんな三段活用まで決めて告げたい事はたった一言だ。ふざけるな。
いや、そんな大きめな声で言ったら普通に結霞ちゃんにまで聴こえるから、このストーカーばれたら家に帰ってからちょっとばかし気まずくなるからやめてよ! あっ、ストーカじゃなくて監視の間違いだ。大差ないだろと言われたら反論できない所がおっかない。
だから、見つかるまいとトレイを手にしたまま、その場で即座に屈み、ペンギンよろしくのよちよち歩きで鵜川さんが取った席にまで歩きます。
周りからの視線がめっちゃ痛いけれど、もう知るか! こちとら本気でストーキングしているんだよ。今更幾ら好奇の視線を浴びようが気持ち良いだけだからな。ただの変態にジョブチェンジしてやるぞコラ。
で、俺にこんな醜態を晒させた当の本人は、俺の事を見て「何をしているんだい」と笑っていやがりございますよ。よし、いつか辛子と山葵と生姜とタバスコしか入っていないたこ焼きを作って食わせてやる。このくらいのささやかな仕返しくらいは許されるはずだ。
まぁ、食べ物を粗末にしたくないからやらないけど。
「あのね、俺たち今隠密活動中なんだよ。なのに、俺の名前をあんなにも声高らかに呼んでくれちゃって何考えているの?」
「何も考えていなかった。ごめんね☆」
てへぺろっと言った感じで頭を軽く叩いて舌を出して茶目っけ醸し出して誤魔化しているけれど、可愛いからいいや。許す。なんか、怒る気力が一気にそがれたから、もう気にしない。
それで、嘆息交じりに着いたこの席は曇り硝子越しで向こうに座っている結霞ちゃんたちの姿を捉える事ができなければ、耳を澄ましてみたって周りの喧騒に二人の声が呑みこまれてしまうような場所で、言ってしまえば偵察する上では最悪のチョイスではあったが、見つかり難さという点で言えば良い判断だった。そんな言い返す言葉が特に見つからない場所のせいで、文句も付けられずここに腰を落ち着ける運びになりました。
そして、この場所じゃあ密偵やら探偵やら、取り敢えず結霞ちゃん達を監視する事はできなさそうなので、大人しく鵜川さんとの雑談に興じる事にした。
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どうも337(みみな)です。
この度は『なんでこんなに兄姉弟妹が!?』を読んでいただきありがとうございます。
久しぶり(一年ぶり)の更新となりました。
次回の更新はこんなに時間を開けることはない、と思いたいです。
最後に他にもいくつか小説を書いていますので、よかったら読んで下さい。
では、ありがとうございました。