第4-6章
古めかしい洋風な外観だった博物館だが、内装までも古いと言う事は無く、最近立てられた建物のように壁紙も白く、掛けられた絵画を引きたててくれそうだった。
そして、博物館と言うから、人が少なくて静かな場所なのかと思っていたが、予想以上の盛況ぶりだった。場所を気にしてか大きな声で話す人はいなかったけれど、博物館と言う場所にしては十分に賑わいを見せていた。意外な事に来ている人の層も十代、ニ十代の若者が多く、密かに博物館ブームでも来ているんじゃないかと思わされるほどだった。
入口から一番最初に見えてきたのは、建物の中心にあたる大広間のような場所だった。
吹き抜けの天井は高く、三階分ぐらいはありそうで、大きく開けた広間の中央には、様々な色で華やいでいる奇天烈な形をした棒やら球体やらを組み合わせた現代アートと言えばいいのだろうか? それが天井にも届かんばかりに聳えていた。
芸術と言うものには疎く、知識も興味もない俺だが、その大きさに圧倒され、思わず足を止めて見上げてしまっていた。
「ほぉ、これは凄いね」
鵜川さんの感嘆にも同意できそうだ。
「うん、凄いね」
どこら辺がどのように凄いかなんて訊かないでね、芸術の凄さなんてよくわからないから、感じたままに凄いとしか言えないんで。
「一回くらいは来てみたいな、なんて思ってはいたんだけど、想像以上にミュージアムしてるみたいだね」
「鵜川さんも初めて来たの?」
地元の人だから一度くらいは来た事があるのかと思っていたけれど、意外だった。
「まぁ、ここは最近できた場所だからね、ほら、丁度オープン企画的なモノもやっているみたいだよ」
そう言いながら指差した場所にあった立て看板には、『あの漫画家の原画がここに!!』などと言った安っぽい謳い文句が書かれていた。
それの細かい内容を確かめてみたら、ここら辺出身の漫画家さんの絵を扱ったスペースを三階の特設スペースに設けているそうで、肝心の漫画家さんも結構有名な人で、博物館にこれだけの人がいた理由にも見当がついたわけだ。
若者たちは皆この漫画家が目当てって言う事だったのか、そりゃファンなら一度くらい原画を見てみたいんだろうな。正直言って俺は漫画は読めればそれでいいし、特に好きな漫画家なんていないから、こういう風に偶然でもない限りわざわざ見に行こうなんて思わないんだけどな。
というか、俺の事なんかどうでもいいんだった。肝心の結霞ちゃんはどこに居るんだ? この中に入って行った、と言う事は鵜川さん情報で確認が取れているが、俺はこの目でまだ見ていないんだよ、早く見つけないと!
そうして辺りを見回し始めてすぐに、エスカレーターに乗って上のフロアへと移動している結霞ちゃんの後姿を見つける事ができた。
「見つけた! 我が大天使!!」
「確かに可愛いけど、ただのシスコンだね」
なんとでも言うがいい! 可愛いものはそれだけで正義なんだから、それを脅かすものが現れないように見張るのが俺の役目なんだ。
……自分でこんな事を言っておいて何なんだけど、気持ち悪いな、俺。まぁ、いいや。今日一日は幾らキモがられようと、このスタンスを貫いて見せる。
そんな決意をして、シスコンのキモい野郎が、結霞ちゃんが通った後のエスカレーターに乗り込み、ストーキングする。
ごめん、やっぱり決意揺らいでもいいかな? いざ、文章にしてみたら自分がただの変態くそ野郎にしか思えなくって辛いんですけど。『結霞ちゃんの残り香クンカクンカ』とか言っていそうで怖いから、さっきの決意は無かった事に。いつも通りの俺で追いかけます。普段からそんなんだろ、なんて言われたら……もう、何も言い返せないけど。
ニ階には目をくれる事もなく二人が登って行ったので、俺たちも多少距離を取りながら三階へと至り、エレベーターを降りて、すぐ目の前に設置された立て看板に記されていた『原画展こちら』という案内に従いながら進んで行く。
辿り着いた場所は特設スペースと言うくらいだから、多少は豪華なのかな、と期待をしてみたが、特に派手さもなく、入口に簡素な看板があるくらいで他の展示物と大差がないように感じ取れた。
てか、下手したら普通に通り過ぎてしまいそうなくらいにシンプルな作りなんだけど、こんなんでいいのか? まぁ、こうしてオープンされているのだから、企画者はこれで納得していると言う事なんだろうな。
こんな風に来館者に要らぬ心配を与えてくれる特設スペースの入口を通り抜け、辺りを見回してみる。
特設スペースと言うだけの事はあり、広々とした空間の中に幾つもの絵やフィギュアが展示されていた。
そして、これを見たいがために集まった人々が熱心に壁に掛った絵などを見つめていた。で、その見つめている人達の中には、結霞ちゃんと吉田くんの姿も当然のようにあった。
真剣な眼差しで額に収まっている絵を見つめながら移動していく吉田君、何かを話しかけながらその後を追って行く結霞ちゃん。
これは何なのと訊いたのだろうか? 吉田君が絵を指さしながら語り出し、結霞ちゃんが笑顔を浮かべながら相槌を打ち傾聴する、と言う、見ていて微笑ましい限りだった。
「普通に仲が良さそうでよかった」
思ったままの感情を吐露し、鵜川さんにも同意を得ようとする。
「そうだね」
簡潔に一言だけ告げて、二人の様子をよく見ているようだった。
その眼差しはなんていえばいいのか、俺とは違うものが見えているような不思議な感じに見えてしまい、もう一度鵜川さんが見ている先を確かめてみる。
その先に居るのは結霞ちゃんと吉田くんの二人。先ほどと何ら変わった様子ものなく、壁に掛けられている絵を見つめながら談笑をしているようだった。
きっと丁度別の物を見ていた時に俺が鵜川さんの方を見ただけなんだ、と言う事にしておいて、妙な違和感を流し去る。
そして、数十分経ち、展示を観終えたらしく、移動していく姿が見えたので俺たちも移動する事にする。
原画展の後は各フロアにある展示物を一通り見て回っていたのだが、二人ともこれはなんだろう、と言った感じで、飾られている物が何なのかわからないで見ていたりなどしていた。
博物館に来る俺、カッコいいみたいな所を見せたかったのかもしれないが、中学生が楽しめそうな所は最初に行った原画展だけで、その後は早々に博物館を後にすることとなった。
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