第3-3章
もんじゃ焼き屋さんを出てどこに向かうのか行き先も訊かずに結霞ちゃんに付いて歩き続け、広い公園の脇を通り抜けようとした時聴こえて来たのは活気溢れる喧騒。
その発声源は公園の中一体何なんだろう? とわからず結霞ちゃんに視線をふったけれど、わかっていないようで俺と同じような表情を向けてきた。
二人の頭の上に浮かぶ?マーク。
公園だから子供たちが騒いでいるってのが一番最初に浮かぶ事なんだけど、響いてくる声の中に子供たちの元気なはしゃぎ声も入っているが、実際は元気あるけれど大人たちの声の方がウェイトを占めていた。
そのことが未知との遭遇を望んでいるこの好奇心くすぐってくる。
「行ってみないか?」
自分から任せるって言っておきながら、こんなことを言うのはどうかと思ったけれど気になるものは仕方がない。
「うん、行こう!」
嫌がったり、機嫌を損ねたような表情は見て取ることはできず、浮かんでいるのは太陽にも負けないような笑顔。
「よしきた!」
子供見たく軽石取りで公園内に入る。
こんなウキウキした気持ちで公園に入るなんていつ以来なんだろうな。中学生の頃には公園で遊ぶなんてことも殆どなくなっていて、ゲームで指ばっか動かしていたし、外で遊ぶって言ってもゲームセンターで泣けなしの百円で楽しむってことしかしていなかった気がする。結局は外でも中でもゲームをしていたってことか。
俺の記憶の中にある公園で遊んだ最新の記憶は小学5か4年生くらいだったかな? その前は結構公園で遊んでいた記憶はあるんだけれど、そうじゃなくなって行った理由は案外簡単で、そして逆らうこともできないような理由だったな。
それは遊具がなくなっていったからなんだけどな。この前まであったジャングルジムが次に行った時には更地になっており、また別に日に行ってみればシーソーがなくなり、とまぁこんな感じで遊具が減っていき最終的に残っていたのは、タイヤが半分埋まってるのと砂場くらいだったかな? こんなんだったらわざわざ公園に行く必要もないだろ? だから自然と公園から疎遠になって行ったんだったな。今思い出したよ。
責めてブランコくらいは残して欲しかったな。あの揺られてヒューンってなる感じが案外面白かったりするのに。まぁ安全第一の世の中になっちまったということでしゃーないですね。俺にはどうしようもないですから。思い出補正かけてものすごくいいものだったとして胸のなかにしまっておきましょう。
そんな公園にかすることを記憶の中から呼び覚ましつつ、植えられている人の背丈ほどある木の生垣を迂回して覗いた先にあったのは、所狭しとまではいかないが、公園の敷地いっぱいに広がっている人の群れ。
レジャーシートを広げて服を並べて座っている人や、その並べられているものを吟味している人、そんなので溢れかえっていた。
「へぇ~フリーマケットかぁ」
それであの喧騒が聞こえてきていたのか。
「みたいだね、たまにここで開かれているってのは聞いたことがあったんだけど私も始めて実物を見た」
その言い方だと珍獣を見つけたんですか? と聞き返したくなるけど、言わない。絶対変な人だって思われるから。
そんなお祭りみたいに盛り上がっている空間を興味津々、といったような面持ちで眺めている。
「行ってみる?」
「よし行こう!」
年下の子に気を使わさせてしまったことは大変申し訳なく思うが、おもしろそうだったんで、つい。
何列かになって真っ直ぐ平行に並べられているお店の間をゆっくりと眺める。
レジャーシート一杯に綺麗に畳んで並べられた洋服、小物などの雑貨を文字通り乱雑に並べた店主の大雑把な正確の伺える店、今はもう販売されていないゲームハードのソフトから最新のものまで並べられているお店、これは若干興味があった。
足を止めてソフトを眺めているとゲームの進化の歴史を眺めている気分になってきた。やたら軽そうないろいろな色のあるファミコンソフト、それの後継機の灰色の長方形のスーファミソフト、今では実物を持っている人の方が少ないのではないだろうか? 実際俺は触ったことすらないし。 今では姿を見るこのない据え置きハードの光ディスクソフト。この頃はあの配管工を生み出した会社の独壇場だったそうだからすごいことだ。長方形だったソフトの上部が丸くなったそれの後継機64、これがこの会社最後のカセット式の据え置き機だったそうだ。
ちなみにこの情報は立ち止まってソフトを見ていた時に出品者の兄ちゃんに説明されたことだ。というか気がついたら座り込んでその話を傾聴していた。
ほかにも色々な話をしてもらった。プレステは元々スーファミの付属機器になる予定だったとか、今にして思えば信じられないようなことも教えてもらった。
そんなものには興味がないのか結霞ちゃんが「私も適当に見てくるね」と言い残して姿を消した。
デート中なのにこれは流石にダメだなと思い直して店員さんに別れを告げて結霞ちゃんの捜索に入る。
思いのほか長々と話していたようで辺りを見回してみても姿は見当たらない。
結霞ちゃんは身長がそれほど高いというわけではないので、この人ごみの中では頭が飛び出ることはないので見つけ出すのには一苦労しそうだな。
とりあえず行動をしなければ見つけられるものも見つけられないので動きますか。
見わたす中に映るのは広い公園を埋め尽くすほどの人の数。やっぱり一筋縄では見つけられそうにないようだ。
何気なく視点を落として品物を眺めながらも歩き続ける。
そして一つのお店のとある商品に焦点があった。
雑多に並べられた小物の群れの中に埋もれていた一つのキーホルダー。それが目に止まった。
豪快に広げられた両翼、優美に伸びる身体、そして最も特徴的なのが両腕と首がないこと。
そう、目に止まったものとはルーブル美術館に保管されている、サモトラケのニケをモチーフにしたキーホルダーだった。
確かニケは勝利の女神としても有名だった筈だ。
明日は結霞ちゃんにとっても〝勝負〟の日なわけだから、これはうってつけなプレゼントではないだろうか? 値段も五十円と良心的に設定されているし。
いや、でもだったらヴィーナスの方がいいのかな? あっちは恋愛の女神だったような気がするし。けれど女の子相手にほぼ裸の女の人のストラップなりキーホルダーなりを渡すのはいかがなものなのだろうか?
少しだけ悩みはしたけれそ、ヴィーナスは見当たらなかったのでニケの方にすることにする。
意味するところの方向が若干ずれていなくもない気がするが、プレゼントにおいて大事なことは、相手を思う気持ちが一番重要だと思います。
だから、たまたまこれを見つけて、意味的にも使えそうだったからだとか、ヴィーナスを探すのメンドくさいからだとか、値段が安いからってことは一切ありませんから。
結霞ちゃんのことを思ってこれを選んだんだ。嘘じゃないからな、本当だからな。
とまぁ言い訳もしておく。
お土産を見つけたことはいいのだが、本命の結霞ちゃんの姿が未だに見当たりやしない。
一体何処に行ってしまったのだろうか?
再び周辺をくまなく見渡しては見るものの、流れる人が多くその姿を捉えることができない。
立ち止まり考えを巡らす。まっさきに思いついたのは携帯で連絡を取る、ということなのだが、そういえば結霞ちゃんとアドレスを交換していたかったことを思い出してすぐさま断念。
次なる一手を見出そうと、捜索も兼ねてあたりをもう一度見回してみる。
おっ、いいもの発見。
結霞ちゃんは見つけられなかったけれど、捜索するにはもってこいの場所を見つけた。
そこの場所に向けて足を進めていく。
その場所とはアスレチック。
流石大きい公園ということだけはあって、その広さに見合っただけの規模の今時珍しい遊具が配備されていた。されていてくれてることは今の俺にとって嬉しいんだけれども、こっからが俺にとって難関になるんだよな。
別にアスレチックに登ることはできるけれど、その行為を今するのが難関というかなんというか…
フリーマケットに出店している親御さんたちの子供が元気よくはしゃいでいらっしゃる中に、この高校生の図体が侵入するってのはなんか、恥ずかしいです。
高いところに登るってことは辺りを見渡しやすくなるけれど、それと同時に周りからも見られやすくなるということだから、周りからどんな目で見られるのか少しばかし不安が募る。
2~3秒フリーズしながら黙考、そして決める決断。
網目に組まれたロープに手をかけて登り始める。
最上部にいたり見渡す全景、溢れかえる人々。
その軍勢の中からたった一人の少女を探す。
いや、これ人多くないか?
すぐさま折れかける心。一応探してはいるけれどそれらしき人物を見つけることはできなかった。
諦めかけていたその時、下から湧いてくる声。
「創一、何してるの?」
探し求めていたマイエンジェルがそこにはいた。
若干変なテンションになっているけど気にしないでもらいたい。そんだけ精一杯探していたんですよ。
「ここで結霞ちゃんのことを探してたんだけど」
おかしいのは内面だけkにしておいて外面はいつも通りに。
「それよりも早く降りたら? 迷惑そうに見られているよ」
「えっ!?」
周りを見れば小さな子ども達が、そんなところに座っているんじゃねぇよ、退けこのデカ物っと言わんばかりの視線で俺のことを見上げていた。
俺がちょうど座っていたのがこのアスレチックの入口の最上部、幅にして人一人分の場所だったので後続が使用できない状態になっていた。
そのことに気がつきすぐさま降り、「ごめんね」と小さく謝ってからその場所を明け渡す。
「よし、結霞ちゃん見つけ。こら、探していたんだからなっ」
「いや、見つけたのは私だからね! それに元々こうなったのは誰のせいだったっけ?」
そんなこと誰に訊かれるまでもなくわかっていますよ。
「勝手にいなくなった結霞ちゃんのせいだと思います!」
必殺技責任転嫁発動により俺へ罪が結霞ちゃんに移る。
「創一が私のことをないがしろにしてお話していたのがいけないんでしょ! 私たちは今デート中なんだよ、それで女の子を放って置くってどうなの?」
「…ごもっともです」
必殺技の熟練度が足りなかったのか失敗に終わった。
叱られてシュンとなっているこの姿を見たら、まさか俺の方が年上には見えないだろうな。
けれど、年下の子に叱ってもらうというなんとも言い難い貴重な経験をさせてもらいました。ありがとうございます!
なんか変態を見るような目線を感じた気がするがするが気のせいだよな、きっとそうだよな。うん、そうだなそうだと信じておこう。
大切なことだから一言いっておくが俺はロリコンでもドMでもないからな。てか、相手は中学生とは言え、年齢では二つ下。高校生と中学生って響きだけを聞けば危ない感じがあるかもしれなが、付き合っている奴は付き合ってるだろうしなぁ。まぁそこはなんとも言い難いところですな。
「ほら、もうここにはいないで向こうに行くよ。創一が余計なところをフラフラとしそうだから」
「はい」
本当はそれこそがデートってものではないでしょうか、と言い返したかったけれど、迷惑をかけてしまった手前、そのことを言い出せずに引っ張り出される。
口ぶりは迷惑そうに行っていたものの、俺をひっぱているその表情には小さく綻んでいるように見えるが、差してきた夕日と被り、輪郭しか捉えるとこはできなかった。
動き出した脚が再び止まる。夕日を跳ね返したかのような赤信号が、ゆっくりしていけと言わんばかりに二人の動きを止める。
引っ張られるために繋がっていた手、いつの間にかデートらしいことをしているじゃないか。
そのことに気がついてまだこうしているのか、繋いでいることを忘れているのか、そんなことはどうでもいいか、結霞ちゃんが今この時を楽しめていればそればそれが俺にとっての理想だから。
下にある顔を見てみれば綻んだ柔らかい表情、それが茜色に染め上げられていた。
自然と俺まで表情が緩む。
信号は青に変わり、メロディーとともに歩き出す。
行き先も知らぬ目的日向けて。