第3-2章
その約束を実行するために今日の残りの時間は結霞ちゃんとのデートとなる。なので彩音さんに嘘も付いていはいない。色的にはグレーゾーンだけど。
「それで、どうすればいいんだ? 俺は何にも考えないできちゃったんだけどさ」
それに恋愛経験ゼロ野郎の俺がなんか言った所で参考になるのかのも怪しいとことだし。結霞ちゃんに一任した方がよさそうな気がする。
「う~ん、ご飯食べようと思うんだけど創一はもう食べた?」
「あっ、…まだだぞ、いいな食べに行こう」
本当はもう食って来たけどそんなガッツりとしたものではなければ食べられそうだし。
「近くにもんじゃ焼屋さんがあるんだけどそこでもいい?」
「お、おう」
まぁ一人前くらいなら食えるかな?
ということで本日二回目のランチを頂きに移動することとなった。どうにかこの移動中に少しでもカロリーを消費して少しでも食える状態にしておかないと。
「そういえばさ、明日はどういう経緯でその相手と遊ぶことになったんだ?」
好きだどうこうって話はしたけど、そのことについては訊いていなかったな。
「うん、あのね、吉田君って言うんだけどその人が誘ってきてくれたの。だから良いよってオッケーしたの」
「ほぅ、なるほど。向こうから誘ってきてくれたんなら、割かし可能性はあるんじゃないか?」
何とも思っていないような相手なら誘うことすらしないだろうし、脈は少なからずあるのだろう。
「そ、そうかなぁ」
緩んだ笑顔で地面の砂を軽やかに蹴って、スキップ交じりで少し先を歩いていく。
なんか見ているこっちまで浮き足立っちまうような気がするよ。幸せと幸福が溢れだして輝き放っているかのように生き生きとしていて羨ましいよ。ホント、俺も恋愛ってモノをしてみたいな。
「楽しそうだな」
「うん、楽しみだよ」
スカートをふわりと翻して暖かい日差しをその身に浴びた姿はとても目を向けられないほどに輝いていた。
思わず俺が惚れそうになるくらいに素敵だった。
これだけ魅力的なら絶対に大丈夫だろう。なぜだか俺の心の中も暖かくなっていた。
「ん? そういえばなんかオシャレしてる?」
あまり自信がなかったので大きな声では呟かなかったけど、結霞ちゃんの耳にまで届いていたみたいだ。
「やっと気がついたの? いつ言ってくれるのかなって気にしていたのに」
そんな風にむくれている姿もとても愛らしな、と無意識のうちに思っていた。
「あぁ、わるかったな。そう言うのに全然気が付かないんだよ」
それに、知り合ってから日も浅いわけだし、そんなはっきりとはわからなかったけど、なんとなく変わったなぁ位の感覚だったんだけどね。
「でも言ってくれたか許す」
「それはどうも」
何気ない簡単なやり取りだけど、とても満ち足りたような気持ちになってきてた。
上機嫌の結霞ちゃんの後を付けてその後も少しだけ歩き、止まる。
「ここだよ」
紹介されたのは取り分け特徴があるわけでもない、普通の感じのお店。
「それじゃあ入るか」
で、店内の様子は特別変わった様子もなく、鉄板が中央に据えられたテーブルがいくつか並べられている。店員さんに案内され適当な場所に通される。
「なに食べえよっかな~」
先ほどの元気がまだ残っているからか、上機嫌でメニューに目を通している。
さて、俺は何にするか。第一次昼飯を食べてから、なんだかんだで一時間近く経過していたのである程度は腹にはいってくれそうだけれど、メニューに載っているもんじゃは全部が全部器から山のように盛り上がっており、普段なら嬉しい量なのだろうが今はこれだけでも断念させられそうだった。
でもどれも美味そうなんだよなぁ。できれば空腹のときにくればよかったと少しだけ後悔。
「創一、決まった?」
「ああ、決めたよ」
どれでもいいから適当に目に付いた料理を注文することにした。
「すいませーん」
結霞ちゃんの声を聴きつけて、店員さんがすぐさま駆け寄ってきてくれた。
「めんたいチーズ一つ下さい」
今度は俺か。
「えーと、海鮮もんじゃ下さい」
ということで注文終了。
さて、ここからが本当の勝負の始まりとなるわけか。写真通りのあれだけのボリュームを無事食することはできるのでしょうか?
そんな心配するなら食わなきゃいいなんて言われそうだけど、二人きりで食べに来ているんだから、そんな空気の読めないようなことはしたくないので注文した。
そんなことを思ってはいるけれど、実際食べてみたいって気持ちのあるから挑戦はしてみたかったのですよ。
そして届くメニュー。
写真通りに山盛りに盛られている具材。これ食いきれるかな? まぁ物は試しって言うし、やってみましょう。
そんで数十分後…
「「ご馳走様」」
二人仲良く食べ終えましたとさ。
店の外見や内装はいたって普通なのに、もんじゃは思ってた以上に美味しいかったので、思わず食が進んでいました。そして見事完食。自分で自分を褒めてあげたいです。
そんなどこぞの言葉を借りるくらいの達成感を腹の中に重たく感じ取りながら背もたれに身体を預けて少し休憩する。
「なんか創一物凄く疲れたように見えるんだけど?」
「そ、そんなことないぞ! 超元気!」
アピールしようとそれっぽい動きをしたかったけれど、いかんせん腹が重たくって辛いです。なので声だけでそれを伝える。
「そう、じゃあ次の場所行こうよ」
「いや待ってくれもう少し休んでからにしよう」
五分でいいから食休みを頂きたかった。
俺は元々大食らいではないから今日のこの昼飯の量もよく食べ切れたなって驚いているんだから。
そんなことを思っているけれど口には出しやしない、別のものが口から出るかもしれないけれど。
てか、デートで昼食を取った時にさ、男が女の子の方よりも飯を食わないのってなんか申し訳ない気がしちゃうから、それで無理して食ったんだけどね。
「うん、わかった。私ちょっとお手洗い行ってくるね」
「はいよ」
遠ざかっていく背中をボーッと視線だけでボーっと追って行く。
身体にかかってくる程よい暖かさ、頭もボーッとしてくる、満腹になったせいで眠気が身体を乗っ取ろうとしてきているみたいだけれど、抗えない、逆らいきれない、意識がドンドン暗く深けっていく。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
船を打って首が動いている感覚、急に身体がビクッとジャーキングを起こして意識が戻らされた。
目の前にあるのは見慣れないテーブル。
あぁそうだ、もんじゃ焼きを食べていたんだとはっきりとしていない頭で思い出した。一体どのくらいの間眠っていたのだろう? 目の前にいるはずの結霞ちゃんに目線を合わせてみたのだがそこには誰もいなかった。
あれ? まだトイレから戻ってきていないのかな?
そう思いながら乾いた喉を潤すためにグラスに注がれている残り少ない水を一気に飲み干す。飲み終えてグラスをテーブルに戻した時にさっきまでなかったものが置かれていることに気がついた。
一枚の紙切れ。
伝票かな~と宛をつけながら掴んだ紙に書かれている文字に目を通す。
『貴方に訪れる一つ目の選択。
信じたままに進めばいい、信条をもって通ればいい。
受け止める想いの総量。
想像の範疇のできごと。
全ては真実だから。
貴方が導き出す真だから。
間違いなんかではない、すべてが正解になる。』
なんだこれはって、またこんな感じのよくわからないやつか。家の中だけでは飽き足らず屋外にまで進出してきたのか?
ということはこのあとに来るのって…
そこまで思考が回った時にはもう遅く、表現し難い不快感に蝕まれていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「……、…いち、創一」
誰かに呼ばれているような気がする。
そうかもう俺の所に天からのお迎えがやってきたのか、短い人生だったな。
などと考えたけれど実際にはそんなことはなく、心地よいリズムで揺すられていた身体の動きが止まり、戻ってきた意識とともに瞼を開ける。
ぼやけた視界の中に浮かぶ一人の輪郭。次第に靄が晴れ視力を取り戻した目で最初に入ってきたのは結霞ちゃん。
「どうしたの? 大丈夫?」
心配層に俺のことを覗き込んでいた。
「何がだ? なんも異常はないけど?」
質問を質問で返していた。
「だって私がお手洗い行ってただけのほんの少しの時間で熟睡していたから心配になっちゃったんだもん」
「えっ!?」
眠っていたという感覚はある、けれどそんな数分間だったようには感じられなかった。見ていた夢の内容ははっきりと覚えているし、身体の疲れも飛んだような気がする。それに体感では数時間は寝たように思える。
「疲れているんだったらもう帰る?」
「いや、そんなことはないぞ。心配させてごめんな、なんでもないから」
そう言って結霞ちゃんの頭に軽くポンッと掌を置く。
今日の目的は結霞ちゃんのデートの予行演習なんだからさ、こんなところで引き上げちまったらなんの意味もなくなっちまうしな。そんなもったいないことはしたくないし、俺もなんだかんだで楽しみだったりもするから、俺自身のためにも中止にはさせたくなかった。
「よし、それじゃあ次の場所に行くか!」
心配をさせた分明るく振舞って早く次の場所に行こうと急かしてみる。
「そうだね、どこか行きたい場所ある?」
「そうだな…」
悩んでは見たもののここら辺のことは何一つ知らないから、どんなものが近くにあるのか、検討もつかなかった。
昨日行った街の方だった帰宅途中で通った範囲ないであればわかるんだけどな。
「お任せします。結霞ちゃんの行きたい所に行こう」
「う~ん、わかった。じゃあついてきて」
ということでおまかせコースでデートの再会です。