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第3-1章

第三章 初めての度に



翌4月6日、今日も見事な春日和となっており、天から降り注ぐ日差しは柔らかく暖かい。

そんな何をするにも最高の天候下、料理組一行で出かけてきた先は、最寄りのバス停から一本で行ける業務用の大型スーパー。

 昨日は約束を破ってしまったが今日はそんなことはなく案内をしてもらうこととなった。その記念すべき一店目がこことなったわけだ。

 店内に脚を踏み入れた時から思ってはいたのだが、全てにおいてサイズが桁違いになっていた。わかりやすく言うならアメリカンサイズなのだろうか? やたらとでかいポテトチップス、キロ単位で販売されている肉、エトセトラエトセトラ。

 引っ越してくる前位に使っていたスーパーとかもこういうところから仕入れているのかな~などと軽く考えてみたけれど、答えを知らないのでそこまでで終わってしまう。

 これはみんなとはぐれたら本格的に迷子になるという無駄な自信が湧いてきたけれど、実現しないように気を付けないとな。

「いつもここで買い物をしているんですか?」

 だとしたら帰るときも大変だろう、あんだけの人数分の食材って簡単に人を殺すことのできる重さになっているだろうし、女の子が持ちきれる重量ではないだろう。

「ううん、ここにはあまりこないかなぁ」

 叶さんが普通にそんなことを言ったけれど、それのおかげでもう一つ疑問が生まれてきた。

「じゃあ、普段はどこで買い物をしているんですか?」

 三人とも沈黙して悩み始めたが、彩音さんが最初に口を開く。

「そういえば、あんま買い出しとかいかないな」

 悩み始めたことにも驚きだったけれど、それ以上の驚愕の事実!

「えっ、だったら誰が買い物をしているんですか?」

 今度の質問には悩むこともなく三人揃って見事に回答。

「「「さぁ」」」

 ……。

「そういえば誰が買ってきてるとか考えたことなかったな」

「うん、そうだね。冷蔵室に行ったらいっつも食材があるからそれで料理の献立を決めていたからね」

「確かに」

 彩音さん、叶さん、隆也さん、なんで料理をしているのにそのことを知らないんですか。

「まぁ、ご飯さえ食えりゃそれで問題ないだろ」

 彩音さんが笑顔で問題ないだろ、というけれど、十分問題だろ、俺が心配性なわけじゃなくてこいつらが楽観視しすぎているような気がする。

「誰かが買ってきているところ見たことないんですか?」

 さっきから質問責めみたいになっているけれどしかたがないでしょ、これから先の食に関わる重要なことなんだからさ!

「「「ない」」」

「見事な断言ありがとうございます!」

 もう半ばやけくそです。いいや、もう気にしない。なんか面倒くさくなった。きっと大丈夫さ、こうして皆さん健康に生活しているのだから、きっと問題はない。

 自分に無理やりそう言い聞かせてこのことはもう忘れる。

「じゃあ、なんで今日はここに来たんですか?」

 生まれてきたのがこの根本的疑問ですよ。

「そりゃまぁ、買い物をするとしたらここだなってことでここにしました」

「基本的に適当ですね、彩音さん」

「こうして生きているから大丈夫だろ」

 元気の象徴とも思えるような輝かしい笑顔でそんなことを言っている、けれど。

「本当に大丈夫に思ってくるとでも思ったのかこの野郎!」

 遅咲きの反抗期に突入してやる! 一度は大丈夫と思ったけれど、やっぱり不安でしょうがないわ!

「とりあえず今日くらいは真面目にここで買い物していきましょうよ!」

 食で始まり、食で終わる。人間生きていく上で最も重要なものがそんな不明瞭なものでいいわけがないだろ。

「そんな創一に忠告~、その一、カートはこの人数より多く必要となります」

「えっ!?」

 今俺たちは五人、それでも収まらない量ってことですか?

「その二、人間一人分を担いで帰る気力はあるのか~」

「……」

 いや、無理です。辛いです。もはや拷問できますよ。

「その三、お金はそんなに持ってきておりません」

 それはどうしようもないな、俺も持ち合わせは殆どないし。

「その四、面倒くせ~」

「絶対それが一番の要因だろ!」

 前の三つは作業的に言ってたけれど、四つ目はめっちゃ感情を込めてやりたくないオーラをムンムン漂わせていた。

 けれどそこまでして頑なに嫌がるということはそれほどに信じられない量なのだろう。そしてそれを体験したことがあるからの拒絶なのか。

「じゃぁ今回は普通にここを見て回るだけでいいですよ」

 腑に落ちてはいないけれどそこまでの苦労もしたくないので今日はそうする。

 なのでこれからこの業務スーパーの観光ツアーを開催してもらってぐるりと一回りする。

天井まで伸びる商品、数え切れない品数、それに驚きもしながらも一通り見終えることができたけれど、もうお腹一杯です。今後は来ることはないでしょう。

 そして今は近くにあったファミレスにて昼ごはんを食べることになったで注文した奴が来るのを待っている最中です。

 ちなみに家の方にいる人達の昼食は昨日の晩御飯の残りと朝ごはんの残りがあるのでそれを適当につまむだろう、ということで心配する必要はないみたいです。

 で、昼食を無事食べ終えることができた。なんか最近はご飯を何のアクシデントもなく完食し終える度に安堵感を覚えるようになってきていた。それほどまでにあの出来事が鮮烈に記憶に残っているということなのだろうけれど。

 グラスに残っていた水を飲み干して一休みする。

「あ、そういえば俺、この後用事があるんで先に失礼しますね」

 財布から自分の分の代金を抜いて、テーブルの上に乗っける。

「創一、まさかデートか?」

 面白半分、茶化し半分、つまりはそんなことはありえないといった感じで彩音さんに訊かれる。

 まぁ、男と女同士で出かけているならそういうことになると思うし。

「はい、デートですよ、楽しんできます」

 爽やかスマイルでウキウキ感を醸し出して、ドヤっと言ってやっる。

「彩音さんもデートしてきたらどうですか?」

「よ~し、創一今すぐ表にでろやぁぁ!!」

「そうします!」

速攻で立ち上がり、店内から抜け出す。

幸いなことに窓際の席で彩音さんが窓側の方に座ってたので、通路側に座っている叶さんという壁があったので、追いつかれる前に脱走して姿をくらますことに成功した。

 その後も追いつかれることもなくバスに乗り込むことに成功し、揺られること数十分、大きめの公園の前のバス停で下車した。

 整備の行き届いた綺麗な公園で中央には白い噴水が設置されている。待ち合わせスポットに最適なお陰か同じ様に何人もの人たちが噴水の縁に腰を掛けて、各々の待ち方で時間を潰している。携帯と睨めっこをしている人、本を読んで愉しんでいる人、空や景色を眺めて暇そうな人。そんな人たちが沢山いる。

 その中に混じっている携帯を操作している女の子が待ち合わせの相手。

「お待たせ」

「ううん、待ってないよ、それに時間丁度だから」

 爛と輝く元気な笑顔がそこにはあった。

「ならいいんだけどね」

「ちゃんと時間通りに来れて偉いね、創一お兄ちゃん」

「なんか、その言い方だと俺の方が年下みたいじゃないか」

「そんなことは今日はいいの。あっそうだ、今日一日は創一って呼ぶね」

「まぁ、デートなんだしいいんじゃないか?」

「うん、じゃあ、行こう」

「ああ、そうだな」

 俺の腕を引いて意気揚々と先行していく結霞ちゃん。

 なんでこんなような俺得状態になったかというと、それは昨晩のことだ。


 相談があると言われたので、立ち話もなんだから部屋の中へと案内した。

 ベッドに結霞ちゃんを座らせ、俺は勉強机の椅子に腰をかける。

「で、相談って何なんだ?」

 相談をされるなんてことは初めてだから期待に応えることが出来るかどうかはわからないけれど、信頼に添えるように最大限努力するつもりではある。

「うん、その…ね」

 座ってから、もぞもぞと指を動かして俯いてしまった。

 何か言いづらいことなのかな? だったらそんな大切なことを俺に相談しようとしているのだから俺も頑張って相談に答えよう。

「待つからさ、自分のタイミングで言っていいよ」

「あ、いえ、大丈夫です、今から言います。ふぅ」

 息を一つ大きく吐き出して決意ができたのか唇が動き始める。

「……なんです」

「え? なんていったの?」

 決意はできたのだろうけれど、発せられた声があまりにも弱々しくて俺の鼓膜を全然振るわせてくれなかった。

「だから、……なんです」

「もっと大きな声でお願い」

 一番肝心な部分が聞き取れません。これじゃあ俺もどうしようもありませんよ。

「だから、好きなんです!!」

 吹っ切れたかのようにさっきまでとは比較にならないほどの大きな声でのカミングアウト。また囁き声でつぶやくと思って近づいていた俺の耳には大ダメージ。けれどそんなダメージよりも大きな衝撃があった。

「好きってまさか俺を!?」

 始めて告白されました、しかも年下の中学生から。嬉しいけれどなぜか犯罪的な香りを感じてしまうのは気のせいだろうか? 年齢的には二つしか離れていないわけだから問題はないのだろうけれど、高校生と中学生って響きだけをきくと、ねぇ。

「あ、いえ、違います」

 さっきまでの弱々しさなどは消え失せてはっきりとした声で断言。

 ですよね、そうですよね、俺が告白なんてされるわけないですよね、わかっていましたよ、そんくらい。だけど涙が出ちゃいそう、だって男の子なんだもん。はぁ。

「だからって創一お兄ちゃんが嫌いだってことじゃないからね!」

 目に見えて落ち着いていた俺に気を使ってそんなフォローをしてくれた。

 うん、いい子ですね結霞ちゃん。なんか元気出てきました。

「リアルでそんなツンデレ風のセリフを聞けて俺はもう満足だよ」

「私、そんなつもりで言ったわけじゃないんですけど、それにちゃんと聞いてくださいよ」

「あぁ、そうだね」

 さっきちゃんと聴くって決めたんだからそこは守らないとな。

「で、何が好きなんだ?」

 俺のことじゃないってわかってから少しだけ気持ちが落ちているけれど、そんなことは気にしない。

「その、クラスの中に好きな人がいるんです」

 またもじもじと小さくなってしまう。

「ほう、なるほど、いいことじゃん」

 俺なんか男友達ばっかしか遊んでいなかったからそんなこと考えたこともなかったな。というか思い返してみれば片思いすらしたことがなかったな。

 マジかよ俺、どんだけ枯れた生活を送ってたんだよ。よし、高校に入ったんだし彼女を作ろう! できれば夏までに。

 俺の内心とは関係なく話は進んでいく。

「本当にそう思います?」

「うん、別に普通のことだと思うけどな」

 むしろ俺の方が少人数の方なのかな? まぁそうだとしても、だからなんだって事なんだが。

「でも中学生で付き合うどうこうってまだ早いのかなぁって思うところがあるんです」

「ちゃんと節度をわきまえた上で付き合うのなら、何の問題もないとは思うけどな」

 なんの責任も負うことのできない中学生の内にコトに及ぶのは流石に問題があるとは思うけど、好き同士が一緒に居る分には責めるような要素もないわけだし。

「そう…だよね、付き合っても問題ないよね?」

「ああ、問題ないな、それにいい人生経験にもなるだろうしな」

 こんな偉そうなことを付き合ったこともない奴がほざいておりますが、気にしないでください。

「よし、決めた! 私告白する!」

 目標が定まったからか不安げだった瞳には活力が戻っており、普段の明るさを取り戻したようだった。

「おぉ、頑張れ、俺も応援するからな」

「うん、ありがとう」

 へへっと快活な笑顔が俺に向けられた。見ているこっちも思わず微笑んでしまいそうなそんな表情だ。

「ということで創一お兄ちゃん、付き合って」

 その、素敵スマイルのまま俺に飛び込んできた魅惑の言葉。

 うん、本気にしますよ?

「え~とそれはどういった意味でしょうか?」

 さっき告白するって言ってからのこれだからどう受け止めたらいいのでしょうか? ご返答お早くお願いします。

「明日デートの予行演習に付き合って欲しいの」

「あ、ああ、そういうことね、オッケー問題ない、大丈夫だよ」

 なんかおんなじ意味のことを何回も連発しているな、焦りすぎだろ俺。

 胸の中によぎってきた残念感の振り払って話を進めにかかる。

「じゃあ、昼を少し過ぎたあたりからでいいか? 叶さん達のと約束があるからさ」

「うん、いいよ、私の方もそのほうが助かるから」

「オッケー、じゃあ場所は?」

「ここからバスでなん駅か行ったところに大きな公園があるのそこで待ち合わせしよう」

「了解しました」

 これで明日は予定が一杯になりました。

「ほかには何かあるか?」

「う~ん、特にはないかな。じゃあ明日ちゃんと来てよ」

「任せなって」

「任せた、じゃあねお兄ちゃん、お休みなさい」

「ああ、お休み」

 これが昨晩の出来事だ。



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