第2-3章
入学式は特に深い感慨を味わうこともなく終了を迎えた。
その後に待ち構えている出来事といえば大事な自己紹介。
担任教師が先んじて模範的な紹介をしてから生徒に託す。
何の捻りもなく素直に出席番号順にアピールを行ってく。
終えた紹介タイムでは奇抜なことを言う人は出なかった。
一人くらいそんな人いないかなぁ、と抱いた期待は瞬殺。
俺も逃げの紹介をしたので責めることはできないけれど。
どうせなら記憶に残るようなことをすりゃよかった後悔。
こんな雰囲気の中で弾けられるほどの肝は持ってないし。
なので本日のお悩みタイムはここにてお開きに致します。
ご来場いただき誠にありがとうございいました。
またのご来場を心よりお待ちしておりせんがね。
そんなこんなで本日の予定は無事終了となった。
強いと言って残ったものは下校する事くらいだ。
そんなつまらないことに辟易していたら掛る声。
「緋山君?」
「はい?」
突然呼び止められどうしたらいいのか分らない。
「下校のついでにちょっと街の方に行ってみない? ここら辺のことまだあんまり詳しくないんでしょ?」
「ぜひお願いします!」
天から湧いた幸福とはまさにこのことだろうか。
一人で探索するつもりだったので、大喜びです。
「緋山って引っ越してきたのか?」
後ろで話しを聴いていた日向に突然尋ねられた。
「そうなんだよ、だから正直言ってかなり助かる」
「それじゃあ、うちのとっておきの場所を紹介してあげようじゃないか」
「ほう、それはどんな場所なんでしょうか?」
もう一度振り向き、後ろからの声の返答を待つ。
「……な、ナイショ」
「鵜川さん、絶対に考えなしに発言してたでしょ」
わかりやす過ぎるくらいに目が泳いでいますよぉ、といってやりたかったけれど、面白かったし可愛かったので放って置いた。
「そんなことないよ、例えば…ゲーセンとか?」
「俺に疑問詞を投げかけられても答えられないから」
この周辺の土地勘皆無の俺でも答えることのできるような、大変素晴らしい回答を頂きました。
沈黙、フリーズし始めた鵜川さんのことを放っておいて、水月さんが続きの話しを始める。
「う~ん、そうだな」
俺がひとりで行こうとしていた時の目的は、安いスーパーなどといった物を探索することだったけど、この点は叶さんか彩音さんに聴けば解決できそうだし、だったら。
「普段みんなが遊んでいる様な場所を案内して欲しいな」
叶さん関係で何かあったような気がするけれど思いだせないし、まぁ、いっか。
「ほらっ!! やっぱりうちの素晴らしきアイディア、ゲーセンの生かされる時が来た」
凍りついていたはずだが、どっかからの熱で溶かしたようだ。勢い余ってが元気までも回復されたようで。
さっきは反対的なことを言ったけれど、その場所に関しては賛成であったりする。いかんせん去年は遊びというものは切り捨てて、代わりに知識を詰め込んでいたので、学生らしい遊びというものは大分久方ぶりとなる。
遊びに誘われなかったのをそういう風に言い訳してんだろ、といわれるかもしれんが最初の頃はそうでもなかった、けれど親が亡くなった後ということもありそんな気にはなれず、大丈夫になった頃にはもう誘われることはなくなっていた。
なので勉強で忙しんだ、ということにして(実際にそうだったし)、それまでに築いてきた交友関係をないがしろにしたおかげで、この高校に入れたと言ってもいい。
後悔はないか? あるに決まってるだろ。
友達が遊んでいる中、俺は一人虚しく勉強中。けれどそれでよかったとも思っている。お陰でここに入れたわけなのだから。
だからこそ、さっきは茶化されていたけれど〝高校デビュー〟をしたかったんだと思う。
中学時代の担任の先生の話しじゃ、この学校を受験する生徒は他にいなかったそうなので、全クラス含めて知り合いは一人もいない状態からのスタートとなるわけだ。
去年の後悔の念が胸の中で燻っていたからこうして水月さんに話しかけて、そのお陰で今遊びに行かないか? 誘われているわけだ。
なんだこれ、初日から上々じゃねけかよ俺の高校生活。
こんな風に胸が熱くなるような思いを抱いていることはつゆ知らず、どこに行こうかと話し合ってくれていた。
「それじゃあ、適当なファミレスに行ってから適当にぶらぶらすると言うことでいいかい? 創一?」
「ん? あぁ、いいぞ」
それじゃあ、という言葉のまえに鵜川さんと水月さんが何かを話していたようだったけれど、こっちはこっちで別のことを思っていたせいで聴いていなかった。
ついでにさっきの思考時間は、この間の一秒、ということはなく普通にそれなりの時間が経過していたみたいだ。だから二人の会話を聞きそびれたわけだし。
「どうする? 詩昏君も来る?」
その会話から察する所、あまりノリはよろしくないみたいだな。
「まぁ、たまには行くか」
「よし! 行こう!」
話しかけた水月さんではなく、鵜川さんの元気な声を合図にして四人仲良く教室を出ることとなる。
表には出していないけれど、こんな学生らしい帰宅をするのが久しぶり過ぎて胸中では鵜川さん以上にはしゃいでいる俺がいる。
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