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鷹の爪  作者: NormalSlime
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入学偏---------1

「――それでは、これにて入学式を終了します」

 生徒会長がそう言ってお辞儀をすると、大きな拍手と共に教師が壇上に上がった。

「――えー、それでは保護者の皆様並びに新入生の皆さん。この度は真におめでとうございます。それでは、今後の予定について説明いたします。保護者の皆様は、生徒達が退場した後のご退場とさせていただきます。ご了承下さい。新入生の皆さんは、在校生が全員退出したらそれに続いて《グローリー》から順番に退出をして下さい」


 教師が頭を下げて壇上から降りた。その合図を皮切りに、在校生が一斉に立ち上がり体育館から出て行く。特に緊張した様子等は無く、楽しげに笑う声が漏れてくる。

 それを聞きながら、黒爪昴(クロツメ スバル)は一人溜息を零した。やっと終わった、と。そう息をつく暇も無く急き立てられるようにして、立ち上がる。規則正しい列を作って、余所余所しく退場していく。

 自分の前の生徒を見ると、どれもこれもが自信に満ち溢れた目をしていた。それもそうだろう。《グローリー》の生徒達は、全て将来が約束されたエリート達。それに一歩遅れているという感じだが、決して落ちこぼれてはいないのが、《サーテイン》。


 そして――。


 昴はチラリと自分の周りにいる生徒を見た。別段、絶望していたり暗い訳ではないのだが、前を行く生徒達と比べると何処か、垢抜けた感じがしている。キッチリとした雰囲気は無く、どちらかというとがさつな感じがする。その中に、昴は居た。


 昴が入学した、国立風宮学園では生徒の実力に合わせてクラス分けがされている。《グローリー》、《サーテイン》。そして、最も下級のクラス《ウィード》。昴は、この《ウィード》に属している。クラス分けされたからどうだという事ではないのだが、やはり今までの雰囲気を見ていると、上下関係があるようにも感じられた。


 勿論、不良だからという訳ではなくただ単純に実力でクラス分けされた結果なのだ。だから、下級のクラスでも、真面目で努力家の生徒はいるし、はたまた《グローリー》でも才能だけでやっている性格の悪い生徒もいる。


 昴はどちらかといえば前者なのだが、昇格に興味があるわけでもなかった。


「何か、胃が痛む……」


 これからの学園生活を想像すると、昴は少し憂鬱な気分になった。自分から望んでこのクラスに入ったとはいえ、《ウィード》を告げられたときからある程度の覚悟はしていた。謂れもない非難で、難癖を付けられるぐらいは日常だと思っておかなければならない。


 《グローリー》のほとんどは、中等部でも成績優秀だった奴ばかりだ。決して、全てが当てはまるわけではないだろうが、高飛車で傲慢な生徒がいない訳が無い。


 そんなような事を考えながら列を成して歩いていく。

 ――暫くすると、列がまばらになっていく。この辺りからはクラス毎に教室を分かれていく。昴は同じ《ウィード》のクラス証をつけた生徒の波の中に紛れていく。

 押されるようにしてクラスの中に入る。


 流石は、全国でも有数のクラッドが集まる場所である。内装は普通の学校と比べて、かなり良質である。何処もかしこも、徹底的に管理されていて塵一つ見当たらない。純白の粉をあたりに撒き散らしたかのように真っ白である。


(凄い……。ここまで完備されてる学校も珍しいな。どれどれ――)


 昴は一度目を閉じて、薄く開く。そのまま、教室の中を見渡す。歪んだ景色に、僅かに見える色のついた波紋。今の昴には既に周りの人間はしっかりとした、形を持っていなかった。見えるのは、それぞれの物質が持つ、魔力。


(うん、耐久力もそこそこあるな)


 一通り見渡すと、昴はもう一度目を閉じる。そして開けたときにはいつもの風景があった。そして、いつの間にか、昴以外のほとんどの生徒は自分の席を見つけて座っている。昴は周りから見れば、ずっとこの教室を凝視していただけだ。当然、一人だけ浮いている。


 楽しげな会話こそ少ないが、周りでは新しい友達を作ろうとそこかしこで会話が生まれていた。


 昴は慌てて、時間を見る。


「そういえば、HRがあったんだっけ……」


 制服のポケットから、入学時に貰った出席票を取り出す。そこには、全員の生徒の座席や出席番号などが記載されていた。

 昴は自分の席を探す。直ぐに名前は見つかった。比較的前列の、左端の席だ。心の中でガッツポーズをする。こういった席は一番、勉強に取り組みやすい。真ん中の席のほうが見やすいのだが、隣がいるとどうも集中出来ない。その点で言えば、多少見づらいがこの席は上々の場所だった。

 昴は早足で席に着く。座席は横一列で一続きの長テーブルで、一定の間隔で席が並べられている。隣には誰か生徒が座るのだろうが、必要以上話をしないようにして、壁のほうを見ていればそこまで問題ではなかった。


 昴の隣はまだ空席だ。ぼんやりと時計を眺めながら、教師が来るのを待つ。

 すると、後ろからポンポンと肩を叩かれた。


「よっ!」


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