7話
ルイスは手に入れた長剣の手入れをしながら昔のことを思い出していた。
ルイスの母カレンが原因不明で体調を崩し、療養の為5歳のルイスを連れて領地に帰っていた頃のことである。
床に臥せっている母を心配したルイスは、大人達の真似をして魔狼の森の入り口近くで薬草採りをしていた。
薬草採りに夢中になっているうちに、森の奥深くに迷い込み気がついた時には方向すらわからなくなっていた。
歩き回っているうちに1軒の小屋をみつけ近づいて行くと、中から老夫婦が出てきてルイスを小屋の中に入れてくれた。
「坊や、こんな森の深くで何をしてたの?」
「母上がご病気になられて心配だから薬草を探してたの」
「それで迷子になったのかの?」
「うん」
おじいさんがお茶をいれてくれ、おばあさんがお菓子をだしてくれた。
「さあお茶でも飲んで、少し身体を休めなさい」
「あとで森の出口まで送ってあげるからの」
「ありがとうございます」
しばらく母の様子などを話すと棚にあった小瓶をルイスに持たせてくれた。
「これは身体の中を綺麗にしてくれるお茶じゃ。
母君に飲ませてあげると良い」
「おじいさんは薬師なの?」
「薬師というわけではないが、森に住んでおると薬草には詳しくなってのお」
「僕に薬草のことを教えてくれませんか?」
「それは構わんが、お家の方が心配なさるんじゃないかの?」
「毎日少しづつなら大丈夫です。お願いします。母上を治してあげたいんです」
必死に頼むルイスに微笑みかけおじいさんは頷いた。
「わたしたちのことを他の人に話さないと約束できるなら教えてあげよう」
「ありがとうございます。絶対誰にも話しません」
おじいさんが外に向かって口笛をふくと、大きな白い魔狼が小屋に入ってきた。
不思議と怖さを感じることもなく、ルイスは魔狼に近づき頭を撫でてみた。
「ほお、こりゃ驚いたわい。坊やは怖くないのかい?」
「うん、この魔狼の目はすごく優しいから怖くないよ」
おじいさんはルイスに薬の入った小瓶をもたせた。
「シロ、この子を森の出口に送ってやってくれ」
シロと呼ばれた魔狼は伏せをしてルイスが背中に乗るのを促した。
「坊や、明日からシロが森の入り口で待っておる。気をつけて来るんじゃぞ」
「はい、明日からよろしくお願いします」
それから5年の間1日もかかさず森に通い、様々な知識をおじいさんから習い、おばあさんからは武術を教えられた。
王都に帰る前日に老夫婦にこれまでのお礼を言い王都に帰ることを伝えた。
「おじいさん、おばあさん今日までありがとうございました」
老夫婦は優しい笑顔でルイスの前に立ち手をかざした。
「ルイス、そなたは習った知識を人々に役立てることにだけ使うことを誓えるか」
「はい、誓います」
「ルイス坊や、そなたは習った武術を愛する者を守ることにだけ使うことを誓えるか?」
「はい、誓います」
ルイスの両手両足に輝く紋章が現れ身体に浸み込んで見えなくなった。
「今のは?」
「神の加護じゃよ。ルイスの心を神が受け入れ加護を与えてくださったのじゃ」
「ルイス坊や、いつも心を正しく持つのですよ」
「はい、わかりました」
不思議な剣をみつめて、自分だけが抜けるのは神の加護ではないかと思い当たり目を閉じて老夫婦の顔を思い出し感謝の念を抱いた。
翌朝の夜明け前、ルイスは人知れず武術の鍛錬をしていた。
森であばあさんに習った型を一通り終え、昨日手に入れた剣を振って手ごたえを試してみた。
始めは軽く振っていたが、徐々に力を入れていき最後には身体を魔力で強化して振ってみた。
ズズーーーーン
剣から凄まじい衝撃波が飛び出し、遠く離れた塀を粉々に打ち砕いてしまった。
物凄い音に屋敷から護衛の騎士達が飛び出してきて周囲を警戒しながらルイスに声をかけた。
「ルイス様、ご無事ですか?」
「ああ、ごめんごめん。魔術の力加減間違えちゃって……驚かせて悪かったね」
「そうですか、それなら良いのですが……塀は早速修理させますのでご安心ください」
「本当に悪かったね。朝っぱらから大きな音させちゃって」
ルイスはなんとか誤魔化しながら屋敷へ戻り汗を流した後、朝食をとりに食堂に向かった。
「おいルイス、朝っぱらから何やったんだ」
「兄さん、昨日もらった剣を思いっきり振ったら衝撃波が飛び出して塀を壊しちゃったんだよ」
「やっぱり普通の剣じゃないようだな」
「魔力で強化してないときは、普通に使えたから大丈夫だとは思うけど、扱いには充分気をつけるよ」
「そうしてくれ。屋敷まで壊されちゃかなわんからな、あはははは」
朝食を済ませた後、ルイスは隣に住むランの屋敷を訪れた。
「おはよ~ございます。ランちゃん起きてますか?」
「ルイス様、おはようございます。ラン様はフランソワ様と倉庫にいらっしゃいますよ」
ルイスは倉庫に行きランとフランソワを探した。
「ランちゃん、フランちゃんおはよ~」
「ルイス様、おはようございます」
「ルイス、さっさと使えそうな剣探しなさい」
「ああ、みんなに渡す剣を探してるの?」
「そうよ、今日寮に戻る時に持って行くんだから、できるだけ状態の良い物探しなさい」
「はぁ~い」
ごそごそと倉庫の中を探し回り、長剣30本、レイピア38本と巨大な大剣を1本を選び出した。
「ルイス、そんなでっかいのどうすんのよ」
「いやぁ~シンカからの留学生……え~っと……ガリア君だったっけ」
「ああ~~~、それ似合うかもしんないね」
ランは、倉庫から運び出した剣を1本1本丁寧に手入れして寮に届けるように執事に言い渡した。
「ルイス、お昼たべたら寮に戻るわよ」
「えっ僕は兄さんと一緒に夕食後に……」
「私が戻るって言ってんだから一緒に戻ればいいのよ」
「フランちゃんも一緒?」
「何言ってんのよ。フランはハンスさんと一緒に決まってるでしょうが」
「ああ、そういうことね。じゃあ兄さんが寮に戻る時誘いに寄るように言っとくよ」
「あ・あの~ランちゃん?」
「なにフラン、不満?」
「そういうわけでは……」
ルイスはニヤニヤ笑いながらフランソワを弄ってるランを残し帰っていった。
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