69話
国王の執務室での話を終えた一同は、王城の祭壇の間に場所を移した。
急遽呼び出された王妃やビクターとマリア、リンダに今までの話を説明していると、祭壇の間の扉が勢い良く開けられ二人の妙齢の女性が戦装束に身を固め腰にはレイピアを差し、片手に長剣を持って飛び込んできた。
「あなた!敵はどこです!」
「澱が現れたのですかっ!」
祭壇の間にいた一同は、息も荒く駆け込んできた公爵妃達に唖然としながらも彼女達に落ち着くよう促した。
改めてレジアス公爵から事情を話し納得した公爵妃達は落ち着きを取り戻し、少し不満そうにつぶやいた。
「お城から『急ぎ神剣を持って登城せよ』と使いの者が着たからてっきり……」
「私の勇ましい姿を子供達に見せれると張り切って参りましたのに……」
場が落ち着いたことを見計らって国王バレルが口を開いた。
「さて、ルイスの進言通り神剣継承を行うことに異存はないな」
一同が首肯するのを見てバレルは言葉を続けた。
「それでは早速はじめるとするか。まずはエルザリアの剣の継承からはじめる。見届け人には、この儂と「その役、我等が」……何者じゃ」
突然の声に国王は振り向き驚きの声をあげた。
一同が目を向けた先には腕組みをした赤い髪の大柄な美女が立ち、その横には3人の女性が微笑みながら立っていた。
全員が緊張した顔をしている中、ルイスだけは笑顔で手を振っていた。
「心配にはおよばぬ、我等はルイスの友じゃ」
「陛下、彼女達は四大精霊王です。見届けていただくには最高の者ではございませんか?」
ルイスの言葉に驚いた国王達は跪き頭を垂れた。
「畏まる必要なぞないぞ。我等はルイスの友として見届けにきただけじゃ。そもそも本来ならルイスの師が来る予定であったのじゃが……」
「ねえねえサラちゃん。貴女が偉そうに喋ってるから皆畏まってるんじゃないの?」
「我が偉そうじゃと?ノームが砕けすぎておるのじゃ。もう少し精霊王としての威厳をもたぬか」
「ノームもサラマンダーもいいけがんにしときなよ。さっさと継承させて神剣の扱いを教えなきゃいけないんだから」
「そうそうシルフィードの言うとおりよ」
格好良く登場したわりにはグダグダになった精霊王達に深く頭を垂れたまま国王は静かに語りかけた。
「本日は神剣の継承を見届けてくださること感謝いたします。それとわが娘リンダの救っていただきましたこと深く感謝いたします」
「バレル王、リンダを救ったのは私達ではありませんよ。ルイスが頑張ったからですわ。そもそもリンダを守るべき私の配下ミストが不甲斐無いばかりに危険な目にあわせてしまったことを詫びておきます」
「お詫びなどととんでもないことです。上位精霊の加護をお授け下さっただけで感謝しております」
「ではさっそく継承をはじめよう」
まちくたびれたシルフィードが勝手に開始宣言をしたが、ビクターが質問をした。
「精霊王様、俺は継承式は始めてなのですが、正式な手順をお教えくださいませんか?」
「ん?今の持ち主が譲り渡すとの意を込めて新しい持ち主に手渡すだけだぞ。剣が認めれば抜けるようになるだけだ。本来ならば見届け人も必要なく当事者だけで可能なんだ」
「へ?それだけ?」
「ついでに言えば継承に血縁も関係ないぞ。剣が心清き者と認めれば良いだけだからな。その点お前達は精霊の加護を受けているから問題ないがな」
「シルフィード、ぶっちゃけすぎです。もう少し建前というものも考えなさい」
「ウンディーネはうるさいなぁ~。分かりやすく簡潔に話しただけじゃないか。お前ら、さっさと継承しなよ風属性の者は私が使い方を教えてあげるからさぁ~」
「それなら火属性は我が自ら教えてやろう」
精霊王達のやりとりに少し呆れながらバレルは一同を促した。
「それでは精霊王様達をお待たせするのも失礼だから、さっそく継承を行う」
現在の所有者が上座に並び、継承されるものが下座に傅きそれぞれ神剣を手渡した。
「新しい継承者よ、神剣を抜いてみよ」
サラマンダーの声に全員が剣を手に取り抜き放った。
「問題はないようだな」
ひとり唇を噛み締めながら俯いていたランのもとにノームがトコトコと歩み寄り手をとった。
「ランちゃん、あなたも皆と一緒に戦いたいんでしょ?」
「はい……でも私には……」
「ランちゃん、自分の手を見てごらん」
ノームに握られていたと思っていたいた手にはいつの間にか美しいレイピアが握られていた。
「ノーム様、これは?」
「精霊神殿にリアちゃんの折れた剣があったでしょ。それを打ち直したよ。もちろんルーちゃんの剣と同じように四神の加護も新しく付け直してあるわよ」
にっこりと笑うノームを呆然と見ていたランの目からは大粒の涙がこぼれていた。
「ランちゃん、ルーちゃんがランちゃんのこと忘れてるわけないじゃない。それにリアちゃんも二人の婚約祝いだって張り切って加護を与えてたわよ」
「え~とノーム様、先ほどから名前をお出しになられてるリアちゃんって?」
「リアちゃんはリアちゃんよ。ルイスの師匠のおばあさん。え~っと、貴方達の祖先というか……愛の女神っていうか……」
「もしかしてフローリア様のことですか?」
「そうそう、たしか本当の名前はそんな感じだった」
「それじゃあルイスの言ってた先生、森の老夫婦って……」
「そう、アーちゃんとリアちゃんよ。それからリンダちゃんは戦闘向きじゃないからってこの短剣をあげるわ。守りと癒しの短剣。あなた向きでしょ」
突然名前を呼ばれたリンダは驚きながらもノームから短剣を受け取った。
「その短剣は結界を張ることができるわ。結界の中には強い癒しの力があるの。もし、誰かが傷ついたら結界の中で癒してあげれば良いわ」
「ありがとうございます。わたくしでも役に立てるなら皆を守ってみせます」
精霊王達は一同の決意を表情から読み取り頷いて精霊王を代表してウンディーネが継承の終了を宣言した。
「これにて無事継承は終了いたしました。最後にアーサー様からのお言葉を伝えます。『澱』は人々の負の感情を餌にして成長します。人間から負の感情を完全に取り除くことはできないでしょうが、善政をすることによって負の感情を抑えることはできます。皆様が人々の手本となり、これからも善政を行うことを信じています。しかし、万一『澱』が現れたときは人々を守る為に最善をつくしてください」
ウンディーネの言葉に一同は首肯し「おまかせください」と力強く返事をした。
この先、幾度も『澱』が現れ人々が混乱に陥った時、ルイス達の思いを受け継いだ者たちが立ち向かっていった。
最後に澱との決戦を予定していたのですが、どうしても澱を根絶することができませんでした。中途半端の終わり方になってしまい申し訳ありません。