6話
初めての休日の朝、ルイスは朝食後食堂でお茶を飲んでいた。
「おはようルイス、いつも早いな」
「おはよ~兄さん」
ハンスはテーブルに用意されていた朝食を食べながらルイスに話しかけた。
「ルイス、父上がな次の夜会からはお前も出るように言ってたぞ」
「ええ~~~~めんどくさいから嫌だよ~」
「そうは言ってもお前も15歳になったんだから参加しなきゃ拙いぞ」
「僕は嫡男じゃないんだから兄さんだけでいいんじゃないの?」
「お前だけじゃないぞ。ランちゃんやフランちゃんも出なきゃいけないんだぞ」
「そっかぁ~、でも夜会に出ると身分がバレちゃうね」
「そうだな。だが悪いことばかりじゃないぞ」
「そうなの?」
「お前のクラスにいるような馬鹿がおとなしくなったぞ」
「ま、しかたないか。いずれ出なきゃいけないんだろうし」
「そういうことさ。今日は何か用事があるのか?」
「午後からルーベシア商会が来るくらいかな」
「それなら午前中は鍛錬に付き合ってくれ」
「いいよ。じゃあ着替えて鍛錬場でまってるよ」
「たのんだぞ」
ルイスは練習着に着替えた後で鍛錬場に行き、身体をほぐしながらハンスが来るのを待っていた。
「待たせたな」
ハンスは身体をほぐしながらルイスに声をかけた。
「はじめよっか」
ルイスはハンスを見て軽く言い、ハンスは頷いたとたん猛烈なスピードでルイスに襲い掛かった。
残像が残るほどの拳撃をくりだしたが、ルイスはすべて紙一重で見切りかわしていった。
一旦距離をとりハンスはニヤリと笑い今度は蹴りを混ぜた攻撃をくりだした。
一瞬ハンスの手に力が加わったと感じた時、目の前にルイスの拳が止まっていた。
「くっそぉ~ やっぱりルイスには敵わんか」
「兄さんの攻撃パターンを知ってるから偶々読めただけだよ」
「いや、あの攻撃を凌がれてしまっては如何しようもないぞ」
「兄さんこそ魔力で強化もしないであの速さは異常だよ」
「それはルイスも同じじゃないか」
「僕は兄さんと相性が良いだけだよ。実際兄さんはランちゃんより強いし、僕はランちゃんに勝ったことないもん」
「それはルイスが本気ださないだけじゃないか。
いつまで力を隠しておくつもりなんだ?」
「できれば一生かな……僕は大好きなお茶をのんで過ごせればいいからね」
「本当に欲が無いな」
「あはははは、僕は兄さん達の手助けができればそれでいいんだ」
「そうもいかんだろう。これからルイスには婿養子の話が山ほどくるはずだぞ」
「ええ~~~~面倒だなぁ~」
「あははははは、俺も嫌ってほど縁談がきてるしな」
二人は顔を見合わせて溜息をついた後、鬱憤をはらすように木剣で打ち合いを始めた。
昼食の後、ルイスを訪ねてルーベシア商会の社主が訪れた。
「ルイス様、お久しぶりでございます」
「パトリックさんもお元気そうでなによりです」
ルーベシア商会はブランドに拘らず品質重視で王族からの信頼も厚く王室ご用達の有名商社である。
パトリック・ルーベシアは商品の目利きとしても有名で、商用で訪れた折に出されたお茶に興味をひき『ルイスブレンド』というお茶を世に送り出した人物である。
「ルイス様、この度は学院入学おめでとうございます」
「ありがとう。今日はわざわざお祝いを言いに来られたのですか?」
「いや、実はですねアリシア商会から『ルイスブレンド』を扱いたいと申し出がございまして如何したものかとご相談に参った次第です」
「そういう話なら兄も呼びますので少々お待ちください」
『ルイスブレンド』は魔狼の森で採れた薬草をルイスの考案した調合で出荷され、ここ数年で有名になった商品である。
ハンスが部屋に入ってきて事情を説明した。
「パトリック殿、アリシア商会はエルザリアが出荷元であることを知ってるのか?」
「いえ、それは知らないと思います」
「それならば無視しても良いのではないか?」
「はい、それならばそのようにいたします。
一応お耳に入れておかねばと思いましたものですから」
「パトリックさん、アリシア商会が扱えば商品を買い占めて高い値段で売っちゃうでしょ?
そしたら一般の人が買えなくなっちゃうからね」
「パトリック殿、そういうことだ。あまりしつこいようだと仕入先を話しても良いぞ。
エルザリア家を相手に事を構える気はないだろうからな」
「お気遣いありがとうございます」
「なに『ルイスブレンド』は我が家にとっても大事な収入源だからな」
「そういうわりには僕の小遣いは増えないんだよなぁ~」
あははははは
「それとこれはルイス様への入学祝いでございます。
どれでもお好きな物をお選びください」
パトリックは後ろに控えた従者が持ってきた箱をあけた。
箱の中には数本の長剣が入っており、ハンスとルイスは興味津々で手にとって眺めていた。
綺麗な装飾が施された剣の中に1本だけ、何の装飾もなく安物にしか見えない剣が混ざっていた。
ハンスが手にとり鞘から抜こうとしても抜くことはできなかった。
「パトリック殿、この剣は?」
「その剣は不思議な言い伝えがありまして、剣が使う人を選ぶというのです。
私共の店に引き取られて100年の間、誰も抜くことができないのです」
「ただ錆付いて抜けないんじゃないのか?」
「そうかもしれませぬな、あはははは」
ルイスが手に取り、柄と鞘を持ち引っ張ってみるとあっさりと抜けてしまった。
「あれれ?ぬけちゃったよ」
ルイスはもう一度剣を鞘に戻し、抜いてみた。
「やっぱり普通に抜けちゃうよ」
どれどれとハンスが試してみると、どれほど力をいれても抜けないのだ。
「ルイス様が選ばれたようですな」
もう一度ルイスが抜いて刀身を見てみると、錆どころか傷一つなくとても美しい姿をしていた。
「パトリックさん、これ貰っちゃてもいいの?」
「もちろんでございます。他の人に抜けない剣なぞ商品になりませんからな。
それ以外にも1本いかがですか?」
「いや、これだけでいいよ。なんだか凄く手に馴染むんだ」
「さようでございますか。他に何かご入用はございませんか?」
「今はないよ」
「では、私共でお力になれることがございましたら、いつでもお申し付けください」
「今日はありがとね」
「パトリック殿、アリシア商会が何かしてきたらいつでも言ってくるんだぞ」
「ありがとうございます」
パトリックを見送り、ハンスとルイスは不思議な剣をじっくりとみたが特に変わったところは見受けられなかった。
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