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白銀の流星  作者: 世捨人
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63話

事件の翌日、マリアからの報告を受けた皇帝パウロとラクウェルは頭を抱えていた。


王都に居住している貴族や家族の3割、官僚の2割、商人等の市民も多数体調を崩していたのだ。


しかも、体調を崩した官僚は上級職ほど症状が酷く実務にも支障をきたしていた。


「お父様、これほど対象者が多いとは予想していませんでしたわね」


「まったくだ。しかし、体調を崩しただけでは処罰もできんしな。ラクウェル、どこから手をつけるつもりだ?」


「とりあえず体調を崩した者を実務からはずして、有能な者にやらせるしかないでしょうね。その後で貴族や官僚の制度そのものを見直す必要があるでしょうね」


「制度の見直しに手をつけるのか?」


「やるなら徹底的にやらねば意味がないでしょう?貴族制度も官僚機構も再編ではなく、一から考え直します」


「兄上の初めての政策ですわね。わたくしも応援させていただきますわよ」






同じ頃、ビクターの部屋では随行してきた役人達がつめかけてきていた。


「殿下、今回の件でかなりの賠償金を取れますな」


「今後の外交も我国に有利に運ぶことが出来ますぞ」


「ラクウェル殿下はこれで我国に頭が上がらなくなりますな」


「「「是非、交渉は我々にお任せください」」」


ビクターは同席していたハンスに視線を送った後で、厳しい顔で役人達を見やった。


「お前達は今回の公式訪問の意味を覚えておるのか?」


「それはマリア皇女様とのご婚約でございます」


「そう、俺とマリアさんの婚約でローレンシアとグランディアがより一層の友好関係を築くことだ」


「しかし殿下、この様な事件があったのですぞ、婚約などしなくても今後我国は有利に外交を行うことが可能です」


「ほう、お前達は王家の婚姻関係に口が出せる程偉くなったのか」


「い・いえ……決してそのような意図はございません。しかし、リンダ様が危険に晒されルイス様が解決したのですぞ。それなりの見返りを要求するのは当然ではございませんか」


「お前達は忘れているのだろうが、今回の公式訪問は俺だけだぞ?他の者は学院の友人宅に遊びにきているだけにすぎん」


ここまで黙って聞いていたハンスが口を開いた。


「つまり、貴方達に口出しをする資格はないということです」


「そういうことだ。この件はハンスに全てを任す。リンダの兄として言わせて貰うが、身を挺してリンダを守ってくれたラクウェルとルイスには感謝している」


「ではハンス様、是非我々に交渉をお任せください」


「貴方達は何故そんなに交渉したがるのですか?」


「これは外交上、千載一遇の好機なのです。今後の外交を優位に進めることは国益にかなっているからなのです」


「それならビクターや僕が交渉しても同じではないですか?当事者同士のほうが上手く話を纏められるとは思いませんか?」


「それは我々が交渉に慣れておりますから、より有利に話をすすめることができるからです」


「それは僕やビクターでは交渉が下手だと言うことですか?」


「い・いえ……決してそういうわけでは……」


「本音は自分達で交渉をして実績が欲しいんでしょう?そういう我欲が澱の餌になることをご存知ないのですか?」


「我々は我欲ではなく、国益を考えているだけです」


「とりあえずそういうことにしておきますか……確かに今回の事件は両国の関係にとって大きな問題であることは確かです。今回の件は全てエルザリア家の預かりとします。一番の当事者であるルイスの意向も聞かねばなりません。もっとも『皆、無事でよかったねぇ~』と言うのは分かってますがね」






一方、ルイスの部屋では未だに目覚めないルイスを心配してラン、フランソワ、リンダが集まっていた。


「ルイスったら何時まで寝てるんだろうね」


「ランちゃんがチューでもすれば目覚めるんじゃない?」


「フラン、そんなことで目覚めるわけないでしょ」


「だって~御伽噺ではこういうシチュエーションだとそうするわよ?」


「リンダちゃんの治癒魔術でなんとかならないの?」


「怪我とかだったら治せるけど魔力切れは無理ですわね~魔力を分け与えるなんて聞いたこともないし……」


「水の精霊のミストちゃんならなんとかできるんじゃないの?」


「それは昨日聞いてみたんだけど、身体を活性化させて自己治癒能力を高めることはできるらしいけど、それでも魔力回復には効かないって……だから目が覚めるのを待つしかないらしいわ」


「はぁ~やっぱり無理かぁ~」


「だから、ここはランちゃんのチューしかないわ」


「だから、なんでそうなるのよ」


「はぁ~キスかぁ~いいなぁ~」


「おお!?リンダちゃんどうしたの?」


「あの時のラクウェル殿下、かっこよかったなぁ~」


「「はあ?」」


「もうダメかもって思った時に、ご自身の身体を盾にしてわたくしを守ってくれようとしてくれたの」


「ほお……リンダちゃんはそれで好きになったと……」


「好き?よくわかりません……」


「おお~おとぼけ姫の初恋ね」


「おとぼけ姫ってランちゃん酷いですわ」


「それじゃあ癒しの女神様の初恋?」



    コンコン


「はぁ~い」


「ルイス君の具合はどう?」


皇帝への報告を終えたマリアが心配そうな顔をして部屋に入ってきた。


「まだ寝てるのよ」


「そう……早く目覚めるといいわね。ここはランちゃんのキスで……」


「ちょっとマリアちゃんまでそういうこと言うの?」


「あははは、冗談の一つでも言わないと大変なんですよね」


マリアは先程、父や兄と話した内容をラン達に打ち明けた。


「それにローレンシアの外交筋からどんな要求があるかわかりませんし……もちろん、できるだけの補償はさせていただくつもりなんですけどね」


「補償って?」


「リンダちゃんやルイス君を危険な目にあわせてしまったことに対する補償と、ルイス君には皆を助けてもらったお礼もしなくちゃいけないでしょ?」


「それなら問題ないと思うわよ。ビクター殿下やハンスさんがそんな要求させる訳ないし、ルイスは『皆が無事でよかったね~』で終わりよ」


「でも何も無しってのはいけないわ」


「それならお願いがあるんだけど……」


不意にベッドの方から声がした。


「ルイス!目が覚めたの?」


「うん、待っててもチューしてくれないから起きちゃった」


「ルイスまで……」


ルイスは、ルイスに飛びつき抱きしめるランの頭を撫でながら「心配かけたね」と優しく微笑んだ。


「ルイス君、グランディアを代表してお礼を言わせてもらうわ。本当にありがとう」


そう言うとマリアは深々と頭を下げた。


「いやぁ~皆が無事でよかったよ」


「うふふ、本当にランちゃんの言うとおりの言葉だわね。それで要求は何かしら?わたくし達にできることなら何でもしますわよ」


「え~とね、リンダちゃんの初恋を叶えてあげてほしいなぁ~なんて」


「ちょ・ちょっとルーちゃん何時から目が覚めてたの?」


「御伽噺のシチュエーションってとこくらいからかな」


「それじゃあ殆ど全部聞いてたの?」


「うん」


リンダは真っ赤な顔で俯いてしまった。



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