60話
グランディア武術を見た翌日、グランディア王城の中庭でマリア主宰のお茶会が催された。
王城の調理人が用意したお菓子が並べられ、ルイス達が持ってきた皇室献上用のお茶も用意されていた。
ルイスは給仕の人達にお茶の淹れ方を丁寧に教え、お茶の種類毎の効用も教えていった。
「ルイス君、わざわざ給仕の者達に指導してもらってありがとうね」
「いやマリアさん、別に大した手間でもないし、どうせ飲むなら美味しいほうが良いでしょ?」
「そういってもらえると助かるわ」
今日のマリア達は先日の夜会とは違いカジュアルな服装で、次々と集まってきた子女達に囲まれて質問攻めにあっていた。
「マリア様、そのお召し物はローレンシアで購入されたのですか?」
「ラン様、その髪飾りは素敵ですね」
「リンダ様、かわいい~~~」
姦しく騒ぐ子女達を横目に男子組はテーブルに座って寛いでいた。
「ラクウェルは武術はやらないのか?」
「護身術程度だな。才能がないのかマリアが5歳の時に負けてからは真剣には取り組まなくなったな」
「ラクウェル殿下、僕だってルイスに勝ったことないですよ?ビクターには負けませんけどね」
「ハンス煩い、お前達兄弟が強すぎるだけだ」
「ビクター達が羨ましいよ。俺には真面目に相手になってくれる者がいなかったからな。わざと負けたり手加減されたりばかりだった」
「確かに皇太子殿下に怪我でもされたら大変だもんな。俺達が近くにいればいつでも相手してやれるのにな」
「ビクターは怪我とかしなかったのか?」
「俺はいつも傷だらけだったぞ。ハンスは手加減なんかしなかったからな」
「手加減したらビクターが怒るからじゃないか」
「ラクウェル、随分仲良くなったようですわね」
突然背後から声をかけられハンス達が立ち上がろうとしたら「そのままで」と優しく微笑む皇紀アリスが立っていた。
「ラクウェルもマリアも良い友達にめぐり合えたようですわ。特にマリアがあのように楽しそうにするなんて留学前には考えられませんでしたわ」
「学院では身分を考えなくて済むからじゃないですか?」
「それにランちゃん達は身分を知っても何も変わらないし、武術の実力も隠す必要なかったですからね」
「そうですわね。グランディアでは武術も学問も天才と言われ並ぶ者がいませんでしたから、最初は随分驚いていましたわね」
「ルイス、俺達は学年が違うからよくは分からんが、みんなの成績はどうなんだ?」
「え~と学科はマリアさん、リンダちゃん、ランちゃん、フランちゃんが満点で、武術はマリアさんとランちゃんが互角で次点がフランちゃん、魔術はリンダちゃんが一番かな」
「すべてに競争相手がいるわけね」
「競争っていうか、皆それを楽しんでるみたいですよ」
「その全てを超えてるのがルイスってわけだな」
「あはははは、僕はみんなより少しだけ多く勉強や練習する時間があっただけだよ。領地では他にすることなかったからね。でも、夏休み明けからはマリアさん達には難題があるみたいだよ」
「ルイスさん、難題ですか?」
「はい、栄養学で調理実習が始まるらしいんです。フランちゃん以外は厨房に入ったことがないらしいですから……」
「それは難題ですわね。なんでそんな科目を履修したのやら」
「え~とその場のノリで……女の子らしいことの一つや二つとか言ってましたけど」
「その場の光景が見えるような気がするな」
「卒業まで5年あればなんとか……」
「ビクター兄さんと兄さんは試食よろしくねぇ~」
「「ええっ!?」」
「だって僕の味覚が狂ったらルイスブレンドが困るでしょ。体調崩したら薬作ってあげるからね~」
「マイク、お前に学院内での毒見役を命ず」
他人事だと笑って聞いていたマイクは慌てて反論した。
「ビクター先輩、いや王太子殿下、公私混同はなりませんぞ」
アリスとラクウェルは顔を見合わせてケラケラと笑っていた。
「皆様はいつもこのような会話を?」
「はい、ラン達のことが絡むとこんな感じですね」
「マリアが楽しそうなのが良くわかるわ」
「羨ましいな」
「ではラクウェル、俺達が国に帰ったら通話水晶を使って仲間に入れよ」
「良いのか?」
「当たり前じゃないか。友達になったんだろ?」
「そ・そうか友達だもんな」
ラクウェルは少し照れた顔で頷き、アリスは穏やかな笑顔でそれを見ていた。
「あら、そうそう、そういえば学院では魔術も必修科目でしたわよね」
「はい」
「マリアは大丈夫でしたか?あの子いくら練習しても魔術はダメだったのよね~」
アリスの問いに皆の視線がルイスに集まった。
「マリアさんだけじゃなくって皆魔術は使えるようになったんですが、力加減というか……制御がまだまだ未熟ですね」
「力加減ですか?」
「ランちゃんの場合だと調理実習で火の魔術を使ったら鍋が溶けたとか……マリアさんの場合だと、そよ風を起こそうとして竜巻で吹き飛ばしたり……」
「それは危険ですわね」
「ええ、意識を集中しているときは大丈夫なんですが、気を抜くと魔力を使いすぎちゃうようですね」
「そんなので皆様に迷惑はかからないんでしょうか?」
「授業中は僕や先生が居ますし、寮で練習する時はリンダちゃんや精霊達が結界を張ってるんで問題ないですよ」
「あらルイスさんはマリアが精霊の加護を受けてることを知っておられるんですね……ん?精霊達?」
「マリアさんだけじゃなくってランちゃんやフランちゃん、リンダちゃんも精霊と契約してますよ」
「なんだか凄い疎外感があるな」
ラクウェルの呟きにマイクも頷いていた。
「ラクウェル、武術や魔術は国を治める能力とは関係がないぞ?国民に平和をもたらし安寧な生活がおくれるよう考え実施できる能力こそが大事なことなんだ」
「ビクター、そんなことは分かってるよ。でもな正直羨ましいとは思うぞ?」
「そう思うのなら今からでも練習してみればどうだ?何も国で一番強くなる必要なんてないんだからな」
「そうだな。何事も考えてるだけじゃだめだな、行動しないとな」
「そうそう」
「お~~~~ビクター兄さんが真面目な話をするの初めて見たよ」
「こらっルイス、俺だって偶には真面目な事を言うんだぞ」
「まあまあビクター、難しいことは僕に任せてお前は決断だけで良いよ」
「おおっハンスまで、なんて兄弟だ」
「あらそうだわ、決断といえば……ラクウェル、あなたリンダさんとあまりお話をしてないんじゃないの?」
「ええっ!?なんですか母上、急にそんなこと」
「好みじゃないの?」
「いや、決してそのようなことはない」
「それならリンダさんを誘って庭園でもご案内して差し上げなさい」
「ええ~~~俺が?」
「なんでも人が手配してくれると思ったら大間違いよ。さっきビクターさんに自分で行動することが大事だと言われたばかりでしょうに」
キョロキョロと救いを求める目で周囲を見回すラクウェルにビクターは「頑張れ」と声をかけた。
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