58話
マリアから皇帝が呼んでいると伝えられたラクウェルは、ビクターを誘い貴族の夫人達に囲まれていたリンダを連れて皇帝のところに向かった。
リンダが去ったのを切欠にラン達も場を離れ、ルイス達に合流した。
「マリアちゃん、この着こなしは成功だったわね」
「そうですわね。皆さん興味津々ってとこでしたわ」
「交流館のグランディア店の良い宣伝にもなったんじゃない?」
「そうですわね。ただ自分の懇意な商人を使って利権を欲しがってる貴族が多くって困ってますわ。商人達も利益を餌にして貴族の推薦を得ようとやっきになってるみたいですし……どうしたものかと」
「マリアさん、それは意外と簡単なことだよ」
ハンスの言葉に少し驚いてマリアは振り向いた。
「どういうことですの?」
「皇族や国が直接経営しようとするから貴族が口利きをしようとするんだよ。僕達がやったように商人が経営するようにすれば貴族も口利きできないだろ?僕達はあくまでもルイスブレンドの出店の為に建物を用意してルーベシア商会に店舗を貸してるだけなんだ。あとはルーベシア商会が商人同士で商品を手配し経営をしているんだ。外交筋を通して信用のおける商人を紹介はしたけどね」
「なるほどね。あくまでも商人のお店なのね」
「そうそう、他の商人がやりたければ勝手に自分でして頂戴って躱せば良いんだよ」
「そういうことなら母上と相談してクルーズ商会に丸投げしますわ」
「建物ならルイスブレンドで出資しても構わないしね。そしたらグランディアでもティーサロンができるしね」
「ええっ!?グランディアでもあのお菓子が食べれるようになるんですか?」
マリアの声に子女達が集まってきた。
「「マリア様、あのお菓子って何のことですか?」」
「ちょっと貴方達、皆様に失礼でしてよ」等と批難を浴びながら子女達は興味津々でマリアの答えを待った。
「あら皆様、興味おありですか?ローレンシアに4国の商品を集めた交流館というものが出来たのはご存知?」
子女達はコクコクと頷いた。
「その建物の1階にあるティーサロンで新しいお菓子と美味しいお茶を頂けるようになってましてね、4国の素材を組み合わせたり新しい作り方で、これまでにないお菓子が開発されましたの」
「これまでにないお菓子ですか?」
「そうよ。口で言うのは難しいわね。それはお店ができたときのお楽しみね。お茶も凄いわよ、太りにくくなるお茶とか気持ちが落ち着くお茶とか色々あるのよ」
「太りにくくなるお茶ですか?そのような夢のようなお茶があるのですか?」
「驚きでしょ、そのお茶はこちらの皆様のお陰で輸入できることになりましたのよ」
「そのティーサロンはいつごろできるのでしょうか?」
「まだわからないわ。わたくしは商人ではありませんからね。早くできると良いですわね」
貴族の子女達は少しガッカリしたように肩を落とした。
「でも、お茶は近々輸入開始されますわよ」
「わたくし達でも購入できるようになるのですか?」
「そういうことね。確かクルーズ商会が輸入代理店になったはずよ」
マリアはハンスに視線を送った。
「はい、マリアさんの言う通りです。今ローレンシアのほうで増産体勢をとっておりますので、もう暫くのご猶予をください」
ハンスは優雅に一礼してみせて、子女達は「ほお~」と頬を赤く染めたが、それを見ていた子息達は厳しい目でハンス達を見ていた。
「ねえマリアちゃん、今回皇室用に持ってきてる分でお茶会をしてあげれば?」
「あらルイス君、それは良いアイデアだわね。皆様、いかがかしら?」
「「もちろん喜んで」」
「それでは明日は予定が詰まってますから……明後日でいかが?」
「「はい」」
子女の一人がルイス達に向かって問いかけた。
「皆様もご参加くださるのですか?」
ハンスが代表して答えた。
「明日はマリアさんに王都内を案内してもらって、グランディア武術も見学させていただく予定なので、明後日であれば参加させていただきます」
「武術の見学ですか?姫様はグランディア一と言われる程の腕前ですよ。皆様、ご覧になったら驚きになられますわよ」
ランがマリアを見ながらニヤニヤした顔で口を挟んだ。
「へぇ~やっぱりマリアちゃんの強さは評判なのね」
「ランちゃんまで……でもわたくしが一番ってことはないですわよ。実際師匠のロバート爺のほうが強いですし」
マイクも笑顔で続けた。
「マリアさんは先日、我国の騎士団対抗戦の団体戦に出場して優勝したんですよ。それで観戦していた人からは『褐色の旋風』と呼ばれるくらい人気があるんですよ」
「マイク先輩まで何言ってるんですか。それにその恥ずかしい呼び名はなんですか?」
「あはははは、強い人には大体二つ名がつけられてるんですよ。俺なんかは補欠だったから無いですけどね」
「姫様以外にも、その二つ名というのを付けられた方がいるのですか?」
「ありますよ。ハンス先輩には『炎の貴公子』とかルイス君には『白銀の流星』とか……フランソワさんには『風の戦乙女』とか……え~とランちゃんは……『火炎の鬼姫』」
「なんか私のだけ酷くない?」
ランはマイクを睨みつけた。
「そんなこと言われても。名づけたのは俺じゃないから……」
武術の話ならばと子息達も話に参加してきた。
「ローレンシアの皆様も武術を嗜まれるのか?」
ルイスがニコヤカに答えた。
「多少は」
「姫様のお力を見てグランディアの優れた武術を見たところで、姫様のようには強くなれんぞ」
「わたくしの友達に対して少し失礼ではない?それにこの方達は貴方に心配されるほど弱くはなくってよ」
マリアが冷たい表情で子息を睨みつけたところで、ルイスが穏やかな口調で話した。
「少し見たくらいで強くなれるなんて思ってませんよ。貴方も武術をされるのですか?」
「ああ、俺は昨年姫様と試合をして惜しくも敗れたが、それから精進して今では姫様より強くなっているはずだ」
「それは凄いですね。マリアさんもかなり腕をあげてますから対戦を見てみたいなぁ~」
「ふんっ、姫様より強くないと縁談の申込資格がないからな。無敗の姫様に最初に勝つのは俺しかおらんだろう」
「あら、わたくしは無敗ではございませんわよ。ローレンシアで何度も負けてますし、互角の方もいらっしゃいますからね」
マリアの言葉に周囲の者は驚いた顔をした。
「姫様は留学先では実力を隠しておいでなのでしょう。姫様に勝てるような者が居るとは思えません」
「わたくしの言葉が信じられないのであれば、明日ロバート爺の所にいらっしゃい。皆様にグランディア武術をお見せするつもりですので、その目で確かめるといいわ」
「わかりました。それでは明日、他の者にも声をかけてロバート様のところにおうかがいいたします」
子息は一礼して立ち去っていった。
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