55話
ゴトンゴトンゴトン
エルザリア城を早朝に出発したルイス達はエルザリア家の大型馬車で魔狼の森沿いに作られた街道を進んでいた。
御者席にはエルザリア騎士団の精鋭2名が座り交代で手綱をとり、馬車の中にはルイス達5名が乗っていた。
「ねえルイス、昨日の騎士さん大丈夫だった?」
「うん、肋骨2本と左手が折れてたけど、ちゃんと治しといたよ」
「そりゃよかったわね」
ランとルイスの何気ない会話にマイクが割って入った。
「ランさん、少しやりすぎじゃなかったの?」
「マイク先輩、あれでよかったのよ」
「そうかな?」
「だって、私が騎士さんを叩きのめしたことでフランの優しさが引き立ったわけでしょ」
「そう言われればそうだけど……」
「それに騎士さんも分かってたから痛がったりしなかったんじゃないの?」
「……いや、あれは最初の一撃で意識が飛んでたような……」
「まあ何にしても、良い印象を持たれるのはフランで良いのよ」
3日かけて一行はシンカ共和国、グランディア帝国の国境の町に到着した。
御者席から騎士がハンスに問いかけた。
「若様、この町で王太子殿下と合流すると聞いておりますが、宿の名前とかはご存知でしょうか?」
「宿の名前は聞いてないな。でも直ぐに分かるだろ?」
「左様でございますね」
「ハンス先輩、どういうことです?」
「マイク君、もし君の領地にビクターが逗留するとしたらどうする?」
「それは厳重な警護をつけて……あっ」
「そういうことさ。一番厳重な警護をしている宿を探せば良いってこと」
一行を乗せた馬車が1件の高級そうな宿の前で止まった。
宿の周りには甲冑を着た兵士が取り囲み、物々しい警備がなされていた。
「おいっそこの馬車、今日は貸切だ。他の宿へ行け」
玄関前にいた兵士が威嚇するように追い払おうとしたが、御者席にいた騎士が問いかけた。
「ひとつ尋ねたいのだが、ローレンシアからのご一行はこの宿にお泊りなのか?」
兵士達は一気に身構え腰の剣に手をかけた。
「ちょ・ちょっと待ってくれ、我々はローレンシア王国エルザリア公爵家の者だ。ここで合流する予定になってるので、ご一行に取り次いでもらえんだろうか」
「ローレンシアの公爵家?しばし待たれよ」
兵士の一人が中に駆け込んで行き、近衛騎士を連れて戻ってきた。
「わたくし共に用があるというのは……」
近衛騎士は馬車の窓からニコニコ笑いながら手を振っているランを見つけ、警備の兵士に問題ない旨を伝えた。
「レイラ姉さん、騎士姿が似合ってるねぇ~」
「そ・そうですか?」
「「「レイラ先輩、似合ってますよ」」」
「皆様まで……まあ、とりあえず中に入ってお寛ぎください」
レイラの案内で宿に入った一行は、とりあえずビクターの部屋に向かった。
「お~いビクター、今着いたぞ~……って、どうしたんだ?」
ハンス達が部屋に入ってみるとビクター、リンダ、マリアがソファでぐったりしていた。
「おおハンス、早かったな」
「「疲れましたわ~」」
「リンダちゃん、マリアちゃん大丈夫?」
「あ~ランちゃん……」
「ビクター、何があったんだ?」
「シンカに着いて親書を渡した後で、歓迎の夜会があってな……」
「それはいつものことじゃないか」
「お偉方に交流館について質問攻めまでは良かったんだが、その後で貴族の子女達に囲まれてな……お前が居ないもんだから全部俺が相手しなきゃいけなかったんだ」
「あはははは、少しは僕の有難みが分かったか?」
「ああ、お前のように上手く躱せないから大変だったぞ」
「リンダちゃんやマリアさんも同じか?」
「ええ、売り込みがひっきりなしで……わたくしとビクターさんの婚約のことを言うわけにもいけませんし……」
「首都バクレットを出てからもずっと馬車の周りを兵士さんが囲んで外は見えないし……宿に着いても外出させてくれないんだもん」
「そりゃあシンカ国内で何かあったら国際問題になるから仕方ないだろ」
ハンス達が話している間にルイスは部屋にあったティーセットで疲労回復のお茶を淹れ「どうぞ~」と皆に配った。
「サンキュ、それよりそっちはどうだったんだ?」
「僕達は気楽なもんさ。仕事してたのはルイスだけだったしな」
「仕事?ルイス、お前仕事してたのか?」
「うん。といっても少しだけだよ」
「それは例の薬草関連か?」
「そうそう。農地を効率化して他領への指導へ行く人材の確保と増産の準備」
「指導要員は確保できそうなのか?」
「それは大丈夫だよ。でも長期になりそうだから農地の運営に手を入れないと皆が困るから色々手を打ってきたよ」
「そうか、これでひとまずは安心だな」
ルイスの話にビクターは安堵の表情を浮かべた。
「ねえねえフランちゃん、はじめてのエルザリア領はどうだった?」
「それそれ、わたくしも聞きたいわ~」
「とても綺麗な所でしたわよ。領民も親切ですし騎士団や衛士の方々も優しかったし、なんといっても魔狼があんなに可愛いなんて思ってもいませんでした」
「「魔狼が可愛い?」」
「ええ、ランちゃんなんて顔中舐められて、触ってみたらモフモフですごく気持ちいいし~」
「すっかり馴染んできたようね~。これでいつでも嫁入りOKね」
「マイク先輩はどうでした?」
「レジアス領もエルザリア領も大変勉強になりました。うちの領地のお手本にしようと思ってます」
「マイク、随分教科書通りの返事だな」
「い・いやビクター先輩、そんなことはないですよ。本心でそう思ったんです。俺は今まで領地に関しては無関心だったんですけど、ルイス君を見てると自分もちゃんとしなきゃなぁ~って思ったんです」
「そりゃいいことだな。後輩の姿を見てってのが情けないがな」
「「たしかに……」」
夕食までのひと時をフランソワをからかったり、ランの武勇伝を聞いたりと平和な時間が過ぎていった。
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