53話
翌日ルイスが昼食を済ませ城裏の訓練場に出てみると魔狼2頭がルイスを待っていた。
ルイスは魔狼の頭を撫でてやり「ちょっと待ててね」と声をかけてから衛士達のところに歩いていった。
教育係の騎士サムが整列した新人衛士達に声をかけた。
「今日はルイス様が組み手の相手をしてくださるそうだ。普段相手にできない水の技と土の技を使ってくださるそうなので皆心して相手をするように」
「よろしくねぇ~」
「ちなみにルイス様に怪我をさせては等と考えて手加減するのは大きな間違いだぞ。もしルイス様に一撃でも当てることができたら即騎士団に昇格させてやる」
新人衛士達は領地内でルイスを見かけたことがあるくらいで、ルイスの実力など知る由もなかったので顔を見合わせて不安そうな顔をしていた。
「なんだその顔は。ルイス様の実力は俺なんかより上だぞ。いくら頑張っても掠りもしないんだからな」
「サム、それは胸を張って言うことじゃないよ」
「「「あははははは」」」
ルイスは木剣を持ち、軽く身体を動かした後で広い場所に進み出た。
「誰からでも良いよ」
「俺からお願いします」と一番若い衛士が前に出て構えをとった。
「まずは水の一般的な受け技を見せるから、いつでも攻撃していいよ」
衛士が掛け声とともに大きく振りかぶって袈裟懸けに切り込んだが、ルイスが半身で躱し勢いのついた衛士の背中を軽く押してやると、衛士はそのまま地面にヘッドスライディングしていった。
「今のが水の受け技の基本型なんだ。ただ避けるだけじゃなく相手の勢いを利用して力の向きを変えてやることによって体勢を崩してしまうんだ」
ヘッドスライディングした衛士は何があったか分からないといった表情でキョトンとしていた。
「切り込んだと思ったら勢いが止まらないで自分から滑り込んだみたいだ」
「じゃあ、もう一度いいかな?今度は少し上位の受け技を見せるから」
衛士は剣を腰ダメに構えて思い切り突きを放った途端に背中から地面に叩きつけられ悶絶した。
「大丈夫かい?手加減はしたつもりなんだけど……」
「ゴホッゴホッ……だ・大丈夫です……何が起こったんですか?」
「今のは突きの勢いを下に逸らしただけで君自身の勢いで投げられちゃったんだよ。僕は力の向きを変えただけさ」
その後、新人衛士達は水の技で投げ飛ばされ、地の技で吹き飛ばされボロボロになって訓練場にへたり込んだ。
「じゃあ組み手はここまでにするね」
「「「ありがとうございました」」」
「皆の動きを見せて貰って気付いたんだけど、基本に忠実なのは良いけどそれだけだと次の動きが全部読めちゃうんだよね~。もう少し応用をきかせて柔軟に対応できるようにしなくちゃいけないね」
一番最初に投げられた衛士が手を挙げてルイスに質問した。
「ルイス様、どんな練習をしたら良いのでしょうか?」
「そ~だね~……いろんな相手との対戦を積み重ねるしかないね」
「しかし、ここでは皆同じようなもんだし……」
「それじゃあ僕がやった方法を試してみる?」
「「はいっ、是非!」」
それじゃあとルイスは2頭の魔狼を呼び寄せ足元に座らせた。
「これから、この子達と鬼ごっこをしてもらうよ」
「「「ええっ!?」」」
「この子達は攻撃しないから頑張って捕まえてね。ちなみに武器は禁止ね」
ルイスが2頭の魔狼の頭を撫でながら「遊んであげてね」と声をかけると、魔狼達は立ち上がり衛士達に対峙した。
早朝にレジアス領を出たハンス達一行は夕方前にエルザリアの城に到着し、ルイスが新人衛士の訓練に参加していることを聞いて城裏の訓練場に来ていた。
訓練場には新人衛士や指導教官の騎士が倒れ、ルイスは2頭の魔狼の攻撃を受けていた。
それを見てマイクは青い顔をして慌てふためいてハンスに声をかけた。
「ハンス先輩!あっあれっ!!ルイス君が危ない、助けに行かなくっちゃ」
ハンスは今にも飛び出して行きそうなマイクを手で押さえて苦笑した。
「マイク君、大丈夫だから」
マイクが周囲を見回すとヤレヤレという表情のハンスと呆れた顔をしてるルイスを見ているランやフランソワがいた。
「マイク先輩、ルイスの顔をよく見てくださいよ。あんなに楽しそうな顔をしてるルイスの顔なんてめったにみれませんよ」
「そう言われてみれば笑ってるよね」
ルイスは直ぐに気付いたようで2頭の魔狼を従えてハンス達に近寄ってきた。
「兄さん、早かったね。皆もようこそエルザリア領へ」
ニコヤカに挨拶するルイスの横に控えていた魔狼達がいきなりランに飛び掛りランを押し倒してしまった。
「きゃぁぁぁぁぁぁ」
魔狼達はブンブンと尻尾を振りランの顔を嘗め回していた。
「ちょっと~~~ルイス、なんとかしなさいよ。きゃぁぁぁや~~め~~て~~~~」
ハンスとルイスは顔を見合わせて笑い、フランソワとマイクは恐怖のあまり蒼い顔をしてブルブルと震えていた。
「ハンスさん、た・たすけなきゃ」
「あはははは、大丈夫だよフランちゃん。よく見てごらん、尻尾振ってよろこんでるだろ?」
「そういわれてみれば……」
ルイスが魔狼達の背中をトントンと叩いてやると、やっと魔狼達はランを解放した。
「ちょっとルイス、なんなのよこの子達は」
「あれ~ランちゃん覚えてない?前に来た時、子狼と一緒に遊んだじゃない」
「前に来た時?伯母様のお見舞いに来て……え~~~と……ああっ!?」
「そうそう、あの時の子狼だよ」
ランはシゲシゲと2頭の魔狼を見て呟いた。
「シロちゃん、クロちゃん?」
「「ヴォウ」」
ランは「大きくなったわねぇ~」と言いながら2頭に抱きつき撫でまわした。
フランソワも恐々2頭を撫でてみて、あまりの手触りの良さに「モフモフ~」とか言いながらランと一緒になって2頭にじゃれ付いた。
危険がないと安心したマイクはハンスに声をかけた。
「ハンス先輩、この魔狼はエルザリアで飼われているんですか?」
「ん?野生だよ。我々エルザリアの者は代々魔狼を大切にしてるんだ。だから魔狼は人を襲うこともないし、それどころか森で迷子になったり怪我をして動けなくなった人を助けてくれたりするんだよ」
「へぇ~、うちの領地にも魔狼はいますけど、皆怖がって逃げちゃいますよ」
「魔狼は魂の穢れを見て相手を判断すると言われてるんだ。一度信用すると決して裏切らない。もっとも子狼は別にして、大人の魔狼にここまで懐かれるのは珍しいけどね」
「それもルイス君の力なんですか?」
「ルイスの力というか、ルイスは小さい頃から森に出入りしてたから魔狼と接することが多かったからじゃないかな。ルイスの話だと、この魔狼達は神狼の眷属らしいしな」
「神狼の眷属!?」
「そう、僕達がアーサー様の子孫であるように、この子達ここの森の魔狼は神狼シロバンテインの子孫らしいよ。だから、普通の魔狼よりは魔力も身体能力も高いらしい」
「そんな魔狼と子供の頃から一緒だったなんて……ルイス君の強さも納得できますね」
「まあ、それ以外にも師匠はいたようだけどね」
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