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白銀の流星  作者: 世捨人
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52話

夏休みに入り、ルイスは皆より一足先にエルザリア領に帰ってエルザリア家の運営する薬草園や近隣の協力農家を回っていた。


ルイスは行く先々で領民に取り囲まれ質問攻めにあっていた。


「ルイス様、いつまでご滞在なさるんですか?」


「今回は5日くらいかなぁ~兄さんや友達と一緒にグランディアに行かなきゃいけないんだ」


「学院生活はいかがですか?」


「楽しいよ~友達も一杯できたしね」


「恋人はできましたか?」


「あはははは」


ルイスは嫌な顔ひとつせず全員に丁寧に対応し、薬草の増産状況を聞いて周り個々の農家に対して適切なアドバイスを行っていった。


中でも小規模な農家は効率が悪かったことから、農地を整理して共同農場とすることなどを提案し、労働力に余裕ができたら荒地を開墾し新たな農地にすることを薦めた。


「今回グランディアに行くのは皆にも関わることなんだ」


「オラ達にですか?」


「そう、他の国でも薬茶を販売することが決まったんだよ」


「そりゃ凄いですね。こりゃいくら作っても追いつかねえはずだ」


「そうなんだよねぇ~国内だけでも足らないくらいなのにね。それで他の領地でも協力してくれることになってね、皆にも栽培の指導に行ってもらうことになるかもしれないから協力してね」


「ルイス様の頼みとありゃ、何を差し置いてでも協力させてもれえますだ」


「ありがとう。最近何か変わったこととか困った事ある?」


「最近、王都から商人が頻繁にやってきて薬草を売ってくれって言ってますだ」


「それで皆はどうしてるの?」


「そりゃオラ達は売らねえです。お城で買って貰うほうが高ぇですから」


「あははは、うちで買い取ってるのは薬草問屋から買う値段だからね。薬草を大量に買い取って値段を吊り上げようとしてる商人がいるってことだね。貴重な情報をありがとう」


「いえいえ、ここの領民はみぃ~んなルイス様の味方ですだ。ルイス様のお陰で裕福な生活ができるようになって皆感謝してますだ」


「僕より兄さんや父上が色々してくれてるんだよ。僕は皆が作る薬草で薬茶を作ってるだけなんだ」


「もちろん領主様や若様ハンスにも感謝してますだ」


「これからもよろしくね」


ルイスは一旦、城に戻り通信用の水晶で父マックスに商人の動きを報告し、薬草の買占めによる高騰を防ぐ手立てを立てるよう要請した。







翌日、ルイスは朝の練習を終え、ひとり魔狼の森奥に来ていた。


「おじいさ~ん、おばあさ~ん」


ルイスは小屋の前で呼びかけたが応答がなかったので、『留守なのかな?』と思いつつ小屋に入ってみると薄っすらと埃が積もり、暫く人が暮らしていない様子であった。


ルイスは小屋の中を見渡して、いつも食事の時に使っていたテーブルの上に1通の手紙が置いてあるのに気付いた。


『親愛なるルイス坊へ

王都で元気に暮らしておるかの?

儂等はしばらく旅に出ることにした。

………』



手紙には魔狼の森での薬草の研究に一段落ついたので、他にも珍しい薬草を求めて旅立つということと、いずれ王都に立ち寄りルイスに会いに行く、それまでの間、信頼できる友を増やしお互いに研鑽しあって人間として立派に育つようにと書かれていた。


ルイスは『老夫婦らしいなぁ~』と思いながら、ルイスの匂いを嗅ぎつけて小屋の周りに集まってきた魔狼達としばらく遊んでから居城にもどった。




ルイスが森を抜け居城の裏にある鍛錬場に出てくると、今年衛士隊に入隊した新兵達が騎士達の指導を受けていた。


ルイスの後から出てきた2頭の魔狼を見て慌てて新兵が叫んだ。


「小僧、危ないぞ!早く逃げろ!」


ルイスはポカンとした顔で後ろを見てみたが特に危険を感じるものはいなかった。


「なにをのんびりしてるんだ。魔狼に襲われるぞ!」


ルイスは『なんだ』という顔をして新兵に返事をした。


「衛士さん、大丈夫ですよ。この子達は友達ですから」


ルイスはニコニコしながら魔狼の頭を撫でながら訓練中の衛士達に近づいた。


「魔狼と友達?」


「ええ、この子達とは子供の頃から遊んでますから問題ないですよ」


怪しむような目でルイスを見つめる衛士に、指導中の騎士が近づいてきた。


「ルイス様、久しぶりの領地で早速森へお出かけだったのですか?」


衛士は驚いた顔で騎士に問いかけた。


「ルイス様?」


「そうだ。この方はエルザリア公爵家次男のルイス様だ。失礼の無いようにな」


「よろしく~ 心配してくれてありがとうね」


「いえ、こちらこそ失礼いたしました」


「訓練を見学させてもらっても良いかな?」


「もちろんです」


ルイスは魔狼を連れて邪魔にならないところで訓練を見学することにした。



新兵とはいえ流石にエルザリアの衛士隊に入隊するだけあって、技量も他の貴族ならば騎士団に入れるほどの実力者ばかりであった。


ルイスは学院に入学してからクラスメイト達の練習しか目にしていなかったので、改めて衛士隊の訓練を見てみると厳しさや激しさも段違いで思わず顔が綻んでしまった。


機嫌良さそうに訓練を見ているルイスに騎士が話しかけた。


「ルイス様、今年の新兵達をご覧になって如何ですか?」


「よく鍛えられてるね~」


「お褒めいただいて恐縮です」


「今年も風と火だけみたいだね」


「なかなか水と地を実戦レベルで使える者がいませんで……」


「そうなんだよねぇ~学院でも地と水は少ないからね」


「組み手の練習でも水や地との対戦ができないので困ってるんですよ」


「それだったら明日の午後で良ければ僕が相手しようか?」


「よろしいのですか?」


「うん、午前中は薬草園を回ったりして忙しいんだけど、午後からは兄さん達が到着するまで暇なんだ」


「若様もいらっしゃるんですか?」


「うん、友達も一緒だよ。ここで2泊してから一緒にグランディアに行くんだ。明後日は兄さんや友達も訓練に参加できると思うよ」


「そのお友達っていうのは、もしかして対抗戦のメンバーですか?」


「そうそう。レジアスのランちゃんとスタイン伯爵家のフランちゃんとアルカシド男爵家のマイク先輩」


「そうそうたるメンバーですね。衛士隊だけの訓練ではもったいないですね。我々騎士団もできるだけ参加させてもらってもよろしいですか?」


「仕事に支障がない範囲で頼むよ」


「もちろんです」


「ついでにこの子達にも手伝ってもらうから」


ルイスはニコニコ笑いながら魔狼達の頭を撫でていた。

誤字・脱字がございましたらご連絡いただければ幸いです。

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