51話
週明けの夕方、ルイスはハンス、ビクターと共に精霊神殿を訪れていた。
「なあルイス、なんでわざわざ精霊神殿まできたんだ?」
「兄さん、精霊は人前に姿を見せることを嫌がる者が多いんだ。それに此処なら清浄な空気が溢れてるから精霊も安心して出てこれるんだ」
「へぇ~、そんなもんなんだ。それで僕達はどうしたら良いんだ」
「とりあえず精霊武術の型をやってると精霊が近づいてくるから、まずはそれを感じとってみて」
「よしビクター、ルイスの言うとおりにやってみよう」
ハンスとビクターは得意の型を何度も繰り返し、次第に精霊のことも忘れ練習に集中しはじめた。
ハンスとビクターは全身から汗が噴出し始めた頃、ふと何者かの気配を感じ取った。
「兄さん達、そのまま続けて!精霊に会いたいと強く願うんだ」
ハンスとビクターはこれまで以上に力を込めて型を繰り返していると、希薄だった気配が徐々に強くなっていき、やがて強大な力を感じるようになった。
「兄さん達、強い力を感じる方を見てごらん。精霊が見えるはずだよ。あとは名乗りあってお互いが共に有ることを誓えば良いんだ」
ビクターの横には長身の青年が腕組みをしてビクターを見ていた。
「うむ、人間にしてはまずまずの腕前だな」
「俺の名はビクター・ボガード・ローレンシアだ」
「我名はインティ」
「俺と共にあってはくれぬか?」
「我は心の清き者、弛まぬ努力をする者にしか力を貸さぬ。その覚悟があるならば助力は惜しまぬ」
「肝に銘じておくよ」
ハンスの横には腰まで届く赤い髪の美女が微笑みながら立っていた。
「やっとわたくしの存在に気付いてくださいましたね」
「ずっと傍にいたのか?」
「武術の修練をされておられるときは近くで拝見させていただいておりました」
「そうか。僕が未熟だったから気付かなかったんだね。僕の名はハンス・アッサム・エルザリアだ」
「わたくしはコロナと申します」
「こんな未熟な僕だけど、傍にいてくれるかな?」
「はい。よろこんで」
「おいハンス、お前なんかプロポーズしてるみたいな言い方だな」
「そうそう兄さん、そういう言葉はフランちゃんに言わなくっちゃ」
「二人とも馬鹿なことを言うな」
「おいルイス、これから俺達はどうしたら良いんだ?」
「精霊との契約は終了だよ。あとは精霊と色々話して仲良くなることかな」
「それで良いのか?」
「契約って言っても主従関係じゃなくって友達みたいなもんだからね。絶対に裏切らない友達……絶対に裏切れない友達。そうだなぁ~兄さんとビクター兄さんの関係みたいなもんだと思ってれば良いよ」
「確かにハンスやルイスを裏切るなんて考えられないな」
「精霊から武術や魔術を習う時は、人に見られないように場所を考えてあげてね」
ビクターはインティに尋ねた。
「武術や魔術も教えてくれるのか?」
「望みとあらば教えよう」
「よろしく頼む」
翌日の放課後、武術教師のギャランから騎士団対抗戦のメンバーへの召集がかかった。
「今日、皆に集まってもらったのは少し報告と相談があってな……」
ギャランはリンダとロイに目配せをし、ロイが立ち上がって話し始めた。
「実は騎士団対抗戦での成績が評価されて、僕とレイラさんは騎士団への入隊が決まったんだ。みんなの助力のお陰だよ。本当に感謝してる」
ロイとレイラは深々と頭を下げ、全員が拍手でお祝いをした。
「よかったですね~。どの騎士団に入るんですか?」
ルイスの言葉に少し照れくさそうに二人は答えた。
「僕は地王陸戦隊と風王騎士団からお誘いを受けて、風王騎士団への入隊を決めたんだ」
「わたしは炎王近衛騎士団に決まりました。わたしからも皆にお礼を言わせていただきます。本当にありがとうございました」
「「おお~~~~」」
「レイラ姉さんはうちの騎士団に来てほしかったなぁ~」
「ラン様、実はレジアス騎士団からもお誘いいただいたのですが、公爵様が国の騎士団に行くようにとおっしゃられまして……」
「それならしょうがないわね」
「続いて相談の方なんだが、対抗戦以降練習試合の申込が多くてな……今まで練習試合なんて申し込まれたことがないからどうしたものかと皆の意見を聞きたいんだ」
「はいはぁ~い、どんどん受けましょう!」
「ランちゃん、ロイ先輩とレイラ先輩が抜けることも考えなきゃいけないよ」
「なによルイス、抜けるのは卒業する時じゃないの?」
「追加メンバーを募集して、来年に備えたらどうかなって思ったんだ。ロイ先輩とレイラ先輩は相手がとても強い時だけ手助けしてもらえば良いんじゃないかな」
「それもそうね。沢山の人が試合に出れれば皆の励みにもなるもんね」
「ルイス、ラン、お前らが監督みたいだな。俺の立場がないぞ」
「あははは、先生は怖い顔して座ってれば良いのよ」
「じゃあ早速募集をかけてみるか」
「先生、少しいいですか?」
「なんだハンス」
「概ね賛成なんですが、夏休みの間は無理ですよ」
「なんだ、予定が詰まってるのか?」
「はい、いろいろ」
「じゃあ予定の空いている者は手をあげてくれるか?」
レイラ、ロイ、タニア、マークが手をあげた。
「4人だけかぁ~、主力メンバー不在では相手に失礼だな」
ビクターとハンスは顔を見合わせて手を挙げたメンバーにハンスが問いかけた。
「ひょっとして君達には連絡がいってないのかい?」
「ハンス君、何のこと?」
「レイラ先輩とロイ先輩は騎士団の研修で要人警護の実習、タニアさんはお父上と共に公務、マーク君は僕達と修行の旅」
「ええ~~~~修行の旅ですかぁ~~~~」
「要人警護の実習?」
「父上と公務?」
「あはははは、難しく考える必要はないよ。ビクターは公務、リンダちゃんや僕達はマリアさんの招待でグランディアに行くだけだから」
「そうそう、グランディアでも試合できたらいいなぁ~って全員で行けるようにしてみたのよ」
「ラン様が関わっていたのね」
「レイラ先輩はリンダちゃんやマリアちゃんの警護だね。女性でないと難しい場所とかあるからね。ロイ先輩は一応ビクターの警護、タニアさんはグランディアに詳しいから皆の案内役ってことなんだ」
マークがおずおずと手をあげて尋ねた。
「あのぉ~僕は……」
「残りは私用の旅だから気軽なもんさ。途中でレジアス領やエルザリア領に寄るから途中でビクター達と合流ってことになるけどね。マーク君はレジアス領やエルザリア領に居る間、騎士団と一緒に練習してもらうよ」
「あわわわわ、レジアス騎士団やエルザリア騎士団と練習ですかぁ~生きて帰れるのかな」
「マーク先輩、大丈夫だよ。今まで練習中に死んだのは少しだけだから」
「マジで?」
「詳しい日程は追って連絡が行くからよろしく」
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