50話
ルイス達はレストランで食事を堪能した後、寮に向かって歩いていた。
「おいしかったぁ~」
「久しぶりに母国の料理も頂けましたし満足ですわ」
「でも驚いちゃったわよ。若い料理人がいきなり入ってきて『姫様ぁ~』なんて平服しちゃうんだもん」
「そういえばイシュアちゃんは知らなかったんでしたわね。驚かせちゃってごめんなさいね」
「ほんと、私の周りって凄い人達ばかりなのよねぇ~」
「あはははは、マリアちゃんのことはクラスでは内緒よ」
「わかってるわよ。商人は口が堅いのよ」
ルイス達が繁華街を抜け学院のある郊外に向け歩いていると、徐々に人通りも少なくなりはじめた。
「ランちゃん、フランちゃんと一緒にイシュアちゃんとマリアさんを守ってくれるかな?」
「ルイスも気付いてたのね」
「魔術士も居るみたいだから気をつけてね」
「わかったわ」
ランがルイスの指示通りイシュアの傍に寄ると、すでにフランソワとマリアは嬉しそうに臨戦態勢にはいっていた。
「ランちゃん、わたくしも戦いますわよ。久しぶりの実戦だからワクワクしちゃうわ」
「マリアちゃんが怪我しちゃうと私がルイスに怒られるから程々にしといてね」
一人状況が把握できていないイシュアはただならぬ雰囲気にビクビクしていた。
「なに?なにごとなの」
「変な人達がつけて来てるのよねぇ~イシュアちゃんは私達が守るから安心しててね」
通り沿いの少し開けた場所でルイスは振り向き声を出した。
「そろそろ出てきたらどうだい?」
貴族学院の制服を着た少年と騎士姿の10名がルイス達を囲むように姿を現した。
「お前に用はない。そっちのウェイトレス二人を引き渡してもらおう」
ランが少年の顔を見て口をだしてきた。
「あれ?あんたは昨日の変態さんじゃない」
「誰が変態だっ。まだ俺を愚弄するのか」
「人前で裸になるような人は立派な変態よ」
「ぐっ……口の減らない貧乳め。ええいっ者共こやつ等を黙らせろ」
剣を抜きラン達に駆け出した騎士達は見えない壁に阻まれ近づくことができなかった。
「まあまあ落ち着いて。君は不敬罪のことを知ってるのかい?」
「当たり前だ。身分の高い者に身分の低い者が無礼を働いた罪だ。学院の生徒はそんなことも知らないのか」
「君は彼女達より身分が高いのかい?」
「この制服を見てわからんのか。俺は貴族だぞ、ウェイトレス風情より身分が高いのは当たり前だ」
「ふ~ん。それで彼女達はどんな無礼を働いたんだい?」
「貴族学院の生徒は頭も武術も弱いなどとほざきおったのだ。そのうえ俺の剣など掠りもしないと暴言を吐きおった」
「それが暴言なのかどうか試してみれば?事実なら不敬罪には当たらないんじゃない?」
「俺がウェイトレスごときに負けるとでも言うのか?」
ランがニヤニヤしながら話に割り込んできた。
「嫌ならそっちの騎士達でも良いわよ。どうせあんたじゃ腹ごなしの運動にもなんないから」
「おい誰か、この生意気な女を叩きのめせ!」
騎士達の中で一番身体の大きい者が前に進み出てランを睨みつけた。
「俺が相手をしてやる。本物の騎士の力を見ておどろくなよ」
ランは相手を一瞥しただけで呆れ顔になった。
「あんたが相手じゃ素手で充分ね。あんたは真剣で良いわよ。遠慮なくかかってきなさい」
「ほざいたな。後悔する間もなく楽にしてやる」
騎士はまだ戦闘態勢に入っていないランめがけて渾身の力で剣をふりおろしたが、あっさりと躱された。
「不意打ちをしても当たらないなんてどうしようもないわね」
体勢を立て直した騎士が何度剣を振るってもランには掠りもせず、ついには力尽きて剣を杖代わりにして立っているのがやっとの状態になった。
「基本も出来てないし腕力に頼りすぎだわね。よくこれで騎士なんて言えたもんね」
貴族学院の少年は騎士を厳しい目で見据えて言い放った。
「情けない奴め。お前はクビにしてやる」
「申し訳ございません」
呆れ顔のランは少年を見て声をかけた。
「次はあんたがやってみる?」
「望むところだ」
少年は上着を脱ぎ剣を抜いて構えをとった。
「どっからでもかかってきなさい」
ランは余裕の表情で構えもとらず少年を挑発した。
「偉そうにしていれるのも今のうちだけだ!」
少年は素早い動きで突きを放ったがランは簡単に見切ってしまった。
少年の攻撃を見事な体捌きで躱していくランを見ていた魔術士が、大柄な騎士の影から魔術を放とうとしたがフランソワが風を塊を顔面にぶつけ吹き飛ばしてしまった。
「無粋な真似は止めなさい。次に邪魔したら切り刻みます」
フランソワに睨みつけられた魔術士はスゴスゴと後ろに下がって行った。
先程ランに軽くあしらわれた騎士は完全に観戦モードに入ってランの体捌きを感心しながら見ていた。
「ねえねえ騎士さん、私以外のメンバーに見覚えない?」
不意に声をかけられた騎士は振り返り声の主を見て返事をした。
「学院の生徒に知り合いなぞおらん」
「それじゃあ、この前の騎士団対抗戦は見たんでしょ?」
「当たり前だ。俺達の憧れだからな」
「今、お坊ちゃまの相手をしてるのが誰かわかんないの?」
「知るか、学院に知り合いはおらんと言ったろうが」
「『火炎の鬼姫』って聞いたこと有る?」
「ま・まさか」
「そのまさかよ。貴方達が捕まえにきたもう一人は『風の戦乙女』。あそこの美少年は『白銀の流星』、あの美人さんは『褐色の旋風』」
「本当なのか?それなら俺達とじゃレベルが違いすぎる」
「そういうことよ。私から身分は教えられないけどね」
イシュアは笑いながらルイス達のところへ帰って行った。
イシュアが騎士と話をしている間に少年は力尽き座り込んでいた。
「こんな貴族じゃ敬えないわね。こんなんじゃ領民の生命と財産を守るという貴族の役目も果たせないし貴族失格ね」
「ぜえぜえ……その言葉はまぎれもない貴族に対する侮辱だな……必ず捕縛して極刑にしてやるからな」
「私は逃げも隠れもしないわよ。いつでも相手になってあげるわ」
「その言葉忘れるなよ」
「ちなみに名前を教えといてあげるわ。あの子はフランソワ・シュベルト・スタイン。私はラン・バレンシア・レジアス。覚えた?」
「スタイン?レジアス?」
少年や騎士達の顔は徐々に蒼ざめ、ガタガタと震えはじめた。
「伯爵家筆頭のスタイン家と公爵家……」
「今日のところは名前を聞かないでおいてあげるわ。聞いちゃうと処罰しなきゃいけなくなっちゃうからね」
「ありがとうございます。それから数々の失礼お詫び申します」
「あんまり貴族だからって威張っちゃダメよ。所詮身分なんてご先祖様から受け継いだだけのもので、あなた本人が偉いわけじゃないのよ。領地や領民を守れるように自分自身を磨きなさい」
「ご教授ありがとうございます。肝に銘じておきます。それでは失礼します」
少年と騎士達は深々と頭を下げ逃げるように立ち去って行った。
少年達が立ち去った後、イシュアはルイスに尋ねた。
「ねルイス君、今日は護衛の人達居なかったの?」
「居るよ。でも狙われた対象がランちゃんとフランちゃんだったから物陰から面白がって見てたんじゃないかな」
「それもそうね。『火炎の鬼姫』や『風の戦乙女』と知っててちょっかい出そうなんて人いないもんね」
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