49話
2日目もルイスブレンドの店内は開店と同時に満席となりランやフランソワも忙しく働いていた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「あらランちゃん、アルバイト?」
薬草学のアマンダ教諭や女子生徒と一緒に来ていたアネットが声をかけてきた。
「アネット先生、私の母達が交流館に関わってまして……開店の時だけ手伝うように言われたんですよ」
「それは大変ね~」
「フランやルイスもここで働いてますよ。2階にはイシュアちゃん3階にはマリアちゃんも居ますよ」
「後で寄ってみるわ。それでフランソワちゃんは見えるけどルイス君は?」
「厨房でお茶淹れてます。それしか能がないですからね」
「あはははは、何かお勧めのお菓子はあるの?」
「新作のお菓子がおいしいですよ~」
「それじゃランちゃんにお任せするわ。アマンダ達もそれで良いでしょ?」
一緒に来ていたアマンダや女史生徒達も頷いた。
「じゃあお皿に色々盛り合わせてきますね。お茶はルイスにお任せってことで」
お菓子とお茶に満足したアネット達は、それぞれ気に入った茶葉やお菓子をテイクアウトして帰っていき、その後も学院の生徒がひっきりなしに訪れ休む暇もないほど忙しい時間を過ごした。
閉店時間となり最後の客が立ち去った時、仕事に慣れていないランやフランソワは近くにあった椅子に座り込みグッタリしていた。
「ふう~~~~やっと終わったぁ~~~~~~~~」
「つかれましたわ~~~~~」
「ご苦労様でした」
給仕長は労いの言葉をかけ、そっとお菓子とお茶をテーブルに置いた。
「おふたりのおかげで随分助かりました。お客様からの人気もあったようで、このまま看板娘としてお願いしたいくらいです」
「あはははは、ウェイトレスがこんなに疲れるとは知らなかったわ。武術の練習のほうが楽なくらいだわ」
厨房からルイスがやってきて給仕長に声をかけた。
「お疲れ様。昨日今日と予想以上の売り上げだったね」
「お手伝いいただいた皆様のおかげです」
「給仕長にお願いがあるんだけど良いかな?」
「なんでございましょう。わたくしに出来ることならなんでも」
「今日の売り上げの一部を使って職人さんや他の従業員の方を食事に連れて行ってあげてくれないかな。開店祝いってことでどうかな?」
「お心使い感謝いたします。皆も喜びます」
「じゃあ頼んだよ」
ニコニコと笑顔で頭を下げ給仕長は厨房に行き、厨房の奥からは歓声があがった。
「ランちゃん、フランちゃん手伝ってくれてありがとうね」
「ちょっとルイス、私達にはお礼の言葉だけなの?」
ルイスを睨んでいるランを見てフランソワは苦笑した。
「ランちゃん、ルイス君にご褒美のキスでも貰いたいの?」
「ば、ばかな事言わないでよ。私はお腹が空いたの!」
「もうすぐイシュアちゃんとマリアちゃんも降りてくるから、帰りに皆で食事して寮にかえろうか」
「美味しい物食べさせなさいよ」
「はいはい、ランお嬢様」
「『はい』は1回!」
しばらくして学院の制服に着替えたマリアやイシュアと合流したルイス達は食事をするために交流館を後にした。
「ランちゃん、『マキシム』で良い?」
「あそこなら丁度帰り道だから良いんじゃない?」
「この時間だから混んでるかもしれないけどね」
「それは何処に行っても一緒でしょ。今日は美味しい物が食べたいの」
「本当にお二人は仲が宜しいですわね~」
「いいなぁ~私もルイス君みたいな彼氏ほしいなぁ~」
ワイワイと話ながら高級レストラン『マキシム』に到着し、中を覗くと待合席で数組が待っていた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「いや、予約はしてないんだけど」
「それではお席の用意ができましたらお呼びいたしますので、待合席でお待ちいただけますか?」
「わかりました」
イシュアはキョロキョロと店内を見回して隣にいたフランソワに声をかけた。
「ここってかなり高そうなお店ね」
「そうね。ここには大陸中の料理人が修行に来るらしいわよ」
「すごいわね~」
「イシュアちゃん、今日はルイスの奢りだから料理を楽しんじゃえば良いのよ」
「あははは、ランちゃんらしいわね~」
しばらくすると先程の給仕係より身なりの良い紳士が現れ、ルイス達より先に待っていた客を素通りして声をかけてきた。
「ルイス様、いらっしゃいませ。お部屋の用意ができましたのでご案内します」
「ちょっと待て!俺達のほうが先客じゃないか」
「申し訳ございません。お客様、こちらの方々はお席ではなくお部屋でございますので」
「部屋?学院生が?」
「さようでございます。お席のほうは、もう間もなく用意できますので、今しばらくお待ちください」
「そ・そうか、悪かったな」
ルイス達は店の奥にある個室に通され、ラン達は早速メニューを広げて見始めた。
「マリアさんとイシュアちゃんは初めてだったね。この店は各国の料理人が修行にきてるから材料さえ揃えば自国の料理も食べれるんだよ」
「交流館の魁みたいな店なのね」
「ねえルイス、いっそいろんな料理を頼んで、少しづつ楽しむってのはどう?」
ルイスはランに頷き給仕係を見た。
「聞いての通りだけど料理長にお任せでできるかな?ちなみにこちらの二人はグランディアとソヴィエからの留学生なんだ。それを考慮してくれるとありがたいな」
「かしこまりました」
給仕係が部屋を出て行ったのを確認してイシュアは疑問に思ったことをたずねた。
「ねえねえルイス君、個室を用意されるのは身分が高いからなの?」
「そうだね~個室を使えるのは国の要人とお店から特別に認められた人だけだね」
「やっぱり公爵家の威光って凄いんだね~」
「あははは、僕の場合は公爵家としてじゃなくって利用させてもらえるんだ」
「どういうこと?」
「この店のお茶や料理に使う香草なんかをルイスブレンドが提供してるんだ」
「ただの納入業者だけじゃ特別扱いされないでしょ?」
「料理長さんと香草の使い方や配合比率なんかを色々話してたら気に入られちゃって……」
「それはそれで凄いわね~」
その後料理がくるまでルイスは暇つぶしに弄られ続けた。
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