48話
交流館開店2日目、ハンスは開店前のルイスブレンドのティーサロンに来ていた。
「ルイス、ランちゃんとフランちゃんも少し話したいことがあるんだが時間はとれるか?」
「兄さん、開店前だから大丈夫だよ」
ルイスとラン、フランソワは揃ってハンス達のもとに集まった。
「昨日、陛下や父上達に呼ばれて決まったことだけ伝えるぞ。
まず、婚約の発表は夏休み明けということになった。
これはビクターがグランディアに行って正式に相手の了承を得てからということだな。
それからグランディア行きはビクター、リンダちゃん、マリアさんは近衛騎士団と官僚を伴って行くことになった。
他は私用の旅ということで別行動だ。馬車などの手配は僕がしておくから心配はいらないよ」
「僕は別行動するつもりだったから丁度良いや」
「ルイス、どっかに寄るつもりなのか?」
「うん、一回領地に寄りたかったんだ。薬草園のこともあるしね」
「わかった。それから別件なんだが、最近レジアスに縁談をもちかけた相手が闇討ちにあう事件が起こってるらしいから、ルイスやランちゃんは充分注意をするようにとのことだ」
「私の縁談相手に闇討ち?」
「面白そうだね~ まさかランちゃんじゃないよね」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。私なら正々堂々正面から叩きのめすわよ」
「あはははは、僕も闇討ちされるかなぁ~」
「まあルイスに勝てる奴なんか居ないだろうがな」
「ルイス、襲われたら捕まえるのよ。私が叩きのめしてやるから」
「襲われたら捕まえるのは良いけど、どうしてレジアス家の縁談を知ってるんだろうね」
「それもそうね。私ですら知らないのに……」
「捕まえて尋問してみるしかないね」
「わたくしでしたら風の精霊にお願いして情報を集めることは可能ですけど、闇討ちするような者に精霊が手を貸すとは思えませんものね」
「フランちゃん、風の精霊?」
「ハンスさんはご存知ありませんでしたわね。わたくしは風の精霊と契約してるんですのよ。昨日の変態騒ぎも風の精霊が風の魔術でやってくれたんですよ」
「そうか、どうりで高度な魔術だと思ったよ。服だけを切り裂いて身体には掠り傷ひとつなかったものな。それにしても凄いなぁ~精霊と契約かぁ~」
「あら、わたくしだけじゃありませんわよ。ランちゃんやリンダちゃんも火の精霊、水の精霊と契約してますし、マリアちゃんはずっと前から風の精霊と契約してたらしいですわよ」
「まさかルイスもしてるんじゃないだろうな」
「僕はしてないよ~」
「そうか少し安心したぞ。僕やビクターだけ取り残されてるんじゃないかと心配したぞ」
「兄さんやビクター兄さんだって精霊が傍に居るんだから何時でも契約できるのにね」
ハンスは驚いた顔をして周囲を見回した。
「ルイス、お前精霊が見えるのか?」
「うん、子供の頃から見えるよ」
「今度、精霊との契約の仕方を教えろよ」
「うん、グランディアに行く前には教えるよ」
「頼んだぞ。お前は契約しないのか?」
「僕は契約しなくても精霊が助けてくれるから必要ないよ」
「一番の化け物はお前ってことだな」
「化け物って……ひどいなぁ~」
ルイスが苦笑しているとイシュアが妙齢の女性を連れてやってきた。
「おっはよ~~~~みんな」
「「おはよう、イシュアちゃん」」
「みなさん、おはようございます。イシュアがいつもお世話になっております」
「「おはようございます」」
「これ私のお母さんだよ」
「親のことを『これ』とはなんですか!」
「あははは、ごめんごめん。それでこの人達がクラスメイトのルイス君達とルイス君のお兄さんだよ」
「はじめましてイシュアの母パメラでございます」
パメラはジッとハンスを見つめ驚いた顔をした。
「もしかしてハンスちゃん?」
「はい、ハンスです」
パメラは『キャー』と叫びながらハンスに抱きついた。
「ハンスちゃん、私よぉ~パメラ姉さんよぉ~~~~~」
「パメラ姉さん?」
「いつも抱っこしてあげてたのよ。それにしても良い男になったわねぇ~」
「お母さん、ハンスさんが困ってるわよ」
「あ~ごめんねぇ~、つい懐かしくってぇ~」
「いえいえ、お話は母や伯母上からよく聞かされてます。ビクターと一緒にいつも可愛がっていただいてたそうですね」
「そうそう、すごく可愛かったのよ」
「こっちが弟のルイス、その隣がレジアス家のランちゃん、その隣がスタイン家のフランソワちゃんです」
「わぁ~美少年、美少女ばっかりなのね。これからもイシュアと仲良くしてやってね」
「「はい」」
「お母さん、挨拶周り行くんでしょ。早く行ってよ、恥ずかしいから」
「はいはい、それじゃあまたゆっくりお話しましょうね」
パメラは慌しく去って行った。
「本当にもう!真面目だったのは最初だけなんだから」
「あははは、面白いお母さんだね」
「そうなのよ。困っちゃうわ」
「挨拶周りって?」
「ルーベシア商会とは別に私の実家イワノフ商会はソヴィエの商品を出させてもらってるの。それで今回お世話になった王妃様や公爵妃様達にご挨拶に伺うんですって」
「挨拶っていうか学院の同窓会になりそうだけどね」
「そうかもね。それじゃ私は売り場にいくね~」
「「がんばってね~」」
「それじゃあ僕も王城に行ってくるよ。ビクター達の護衛や随行メンバーを選ばなくっちゃいけないからね」
「ねえねえハンスさん、随行メンバーにレイラ姉さんやタニア先輩を選べないかしら?」
「ランちゃん、どうしてだい?」
「だって護衛が男ばっかりだったらリンダちゃんやマリアさんも困るし、タニア先輩だったらグランディアのこと詳しいでしょ。
それに顔見知りだったら彼女達も変な気を使わなくっても良いんじゃないかしら」
「それもそうだね。一応ビクターや陛下にも伝えておくよ」
「ロイ先輩やマイク先輩もいるとグランディアで試合できるかも」
「あははは、ランちゃんは本当に武術が好きなんだなぁ」
「だって~グランディア武術にも興味あるんだもん」
ルイスやフランソワも首をコクコクと振り、ランの意見に同意した。
「そのあたりも相談しとくよ。僕もグランディア武術には興味あるからね」
「「よろしくおねがいしまぁ~す」」
ハンスは苦笑しながら王城に向かった。
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