47話
商品完売で閉店したルイスブレンドの店内でルイス達が寛いでいると母親軍団に連れられたビクター、マリア、リンダが入って来た。
「あら、もうお店閉めちゃったの?」
「母上、商品が完売してしまいまして閉店したんですよ」
「ええ~~~~わたくし達、新作のお菓子を楽しみにしてたんですのよ」
「伯母上、大丈夫ですよ。予約分は取り置きしてますから今から用意しますね」
ルイスは席を立ち厨房に消えていった。
ビクターは席に着くとテーブルに突っ伏し顔だけハンスのほうに向け呟いた。
「その様子だとハンスも上手くいったようだな」
「ああ、ビクターはえらく疲れてるようだが?」
「おお、あの後さんざん母上達におもちゃにされてな……」
「あらビクター、わたくし達はおもちゃになんてしてないわよ。朴念仁のあなたに女心を教えていただけじゃない」
ほほほと笑う王妃達にルイスが新作のお菓子とお茶を並べていった。
「まあ、おいしそうですわね~」
嬉々としてお菓子を眺める母親達に目を細めルイスも席についた。
「お菓子をご堪能いただきながら今回の本意を話してくださいませんか?」
「あらルイスちゃん、なんのことかしら?ランちゃんとの婚約が不満なの?」
「不満はございませんが、時期的に不自然すぎます」
全員の顔が真剣になった。
「ここで話せる内容じゃないわ。誰が聞いてるかわかりませんからね」
「それなら問題ありません。この席の周りに遮音の結界を張っておりますので精霊でも聞くことはできません」
「さすがルイスちゃんね。それじゃあ話してあげるけど、国家機密だから誰にも話しちゃだめよ」
「もちろん他言はいたしません」
「この国の貴族の中に、今の王制に不満を持っている者がいることは知ってるわよね」
「はい。国の要職に身分関係なく登用されることや、領地での税制に上限が設けられていることに対する不満ですよね」
「そう、その者達が発言力を強めようと画策しているんだけど、どうやったら発言力を強くできると思う?」
「まずは王家や公爵家に近い者を味方に引き入れることでしょうか」
「そうね。その為に手っ取り早いのが姻戚関係を結ぶことなのよね。
おかげでビクターやハンスちゃんには彼方此方から縁談が持ち込まれるのよ」
「それは断れば済むことでは?」
「もちろん断ってるわよ。そうすると今度はシンカやソヴィエの貴族と手を組んで縁談を持ちかけるようになったの」
「シンカやソヴィエは選挙で貴族から元首を選ぶ国だから、自分達の都合の良い貴族が発言権を強めることで利害が一致するってことですよね」
「そういうことね。それで縁談の対象となる貴方達を婚約させよようと思ったわけよ」
「ボガード家やアッサム家はすでに結婚されてますからね。子供達はまだ赤ん坊だしね」
「そう、それにどうせなら好きあった者同士が結婚するほうがいいじゃない?」
今まで黙って聞いていたマリアが口をはさんだ。
「グランディアでも同じようなことがあるんです。わたくしや兄上にシンカやソヴィエに近い者からの縁談が多数よせられています。
グランディアの場合、嫡男以外にも爵位が与えられますから、その数は大変なことになってます。
それでローレンシアの法律や制度を学ぼうと留学してきたのです」
マリアの話を聞いてランが疑問に思ったことを聞いた。
「ねえねえマリアちゃん、そんなに貴族が一杯いて領地はどうなるの?」
「領地は分家を申請してきた貴族が自分の領地を分け与えることになってますが、実質は名前だけで領地無しの貴族が増えているようです」
「そりゃあ不満も溜まるわね。領地を分け与えるほうも収入が減るわけだもんね」
「そうなんです。そういった者達が貴族の特権を主張したり、発言力を強めようとわたくしや兄に縁談をもちかけたりしてくるんです」
「でも、そういう人達に限って貴族の義務である領民や領地を守るってことを忘れてるのよねぇ~」
「実は皆様をグランディアにお招きしたいのは、グランディアを楽しんでいただきたいだけじゃなく、そういうお話を兄にしていただきたいのです」
「皇太子殿下に私達が?」
「ええ、兄には友達がおりません。子供の頃から周囲の人間が気を使い、わたくし以外対等に話せる者がいないのです。
武術についても兄に本気で戦ってくれる者はおりません。
それで、皆様ならわたくしと同様に兄を普通に扱っていただけるのではないかと思ったのです」
「そういうことでしたらビクター、ハンスちゃん、貴方達も一緒に行ってきなさい」
「しかし母上、公務以外で国を離れることは難しいのでは?」
「婚約者の家に挨拶に行くのを反対する者はいないでしょう。多少の官僚や警護がつくのはやむおえないでしょうけどね」
「伯母上、僕は騎士団との特訓の予定が入って……」
「ルイスちゃんより弱い人達と練習するより、ルイスちゃんと練習したほうが強くなるんじゃないの?」
「それはそうなんですけど……」
「ところでマリアちゃん、お兄様はどんな方なの?」
「周りの人間は気難しいと言います。気楽に話せる人がいないので、常に言葉の裏を考える癖があるんです。本当はとても優しいんですけどね」
「そお、とても心が疲れてるようね。リンダ、あなたが癒しておあげなさい」
今まで他人事だと思って気楽にお菓子を食べていたリンダは目を真ん丸に見開いた。
「ほえっ!?わたくしがですか?」
「うまくいけばリンダの縁談も片付くわ」
「わたくしの縁談?」
「それは良いかもしれませんね。リンダちゃんなら安心して兄をまかせられますし」
「でしょでしょ、マリアちゃんお膳立てよろしくね」
「まかせてください」
こうして当主の居ない間に3組の婚約とリンダの見合いが決定した。
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