45話
交流館開店の3日前に建物を覆っていた布が取り払われた。
建物の前では販売員がチラシを配り、建物には『4国交流館』の看板と『ルイスブレンド』の看板が掲げられていた。
すぐに庶民の間で話題になり、開店の日には早朝から多くの人が集まった。
開店の式典には外務大臣や各国の大使が挨拶を行い盛大に執り行われた。
この日、ルイス達も手伝いに参加し、ルイスとラン、フランソワはルイスブレンド、イシュアとマリアは衣料品売り場を手伝うこととなった。
リンダも手伝いを申し出たが断られ、一般客として兄ビクター、ハンスと共に見物にきていた。
「おいハンス、凄い人だな」
「ああ、それに思ったより広いな」
「あらハンスさん、建設中は見に来なかったんですか?」
「試験勉強とかで忙しかったから来てないんだよ」
「リンダは何処から見たいんだ?」
「やっぱりお洋服から見たいわ」
リンダは二人の手を引っ張り2階の平服売り場に向かった。
「おお、いろんなのがあるなぁ」
「正装は夜会で見かけることもあるけど、平服は初めてみるよ」
「どう?かわいいのがいっぱいあるでしょ」
「いらっしゃいませ~、かわいい妹さんにたくさん買ってあげてくださいね~」
ソヴィエの衣装を身につけたイシュアが声をかけてきた。
「君は確かパメラ姉さんの娘さんだったかな?」
「覚えていてくれたんですか?リンダちゃんのクラスメートでイシュアと申します」
「イシュアちゃん、今日はソヴィエの服なのね」
「他の店員さん達も自分の国の服を着てるのよ」
「自分の国って?」
「各国の商会から店員さんが派遣されてるの。ここで成功したら自分の国でも同じような施設を作るんですって」
「へえ~、それじゃあ例の奴は着ないの?」
「おいリンダ、例の奴ってなんだ?」
「え~とね、この前みんなで各国の洋服を組み合わせて新しい着こなしを考えてみたの」
「ねえリンダちゃん、折角だから着てみる?」
リンダはキョロキョロと兄と従兄の顔を見た。
「折角だから着てみれば?僕も見てみたいし」
「ああ、着てみろ。気に入ればいくらでも買ってやるぞ」
リンダとイシュアは満面の笑みを浮かべて試着室に歩いていった。
「ビクター、あんな事言って良かったのか?」
「ん?金なら心配ないぞ」
「そうじゃなくって、女の子が服を選び始めたらきりがないってことだ」
「そりゃ困ったな。俺はシンカの武具を見に行きたいんだが」
「とりあえず何着か見て褒めちぎれ、そして武具を見てくるからゆっくり選べと言うんだ」
「褒めなきゃいかんのか?」
「ああ、褒めなかったらビクターが気に入るまで延々と続くぞ」
「そうなのか……ハンスがこんなに女の買い物み詳しいとは意外だったな」
「僕が詳しいわけじゃなく、ルイスの受け売りだ。
あいつはいつも母上やランちゃん、フランちゃんに連れまわされているからな」
「あははは、ルイスらしいな」
ビクターとハンスが雑談をしていると試着室のカーテンが開きリンダが姿を見せた。
少しおとなしい感じのローレンシアの服に原色の布をアクセントに巻きつけ、グランディアの装飾品を身につけた姿は、いつもの大人しいお姫様とは違い活動的な美少女になっていた。
「おお~~~~~リンダ、可愛いじゃないか」
「リンダちゃん凄いよ」
兄達から賛辞を贈られたリンダは気を良くして、次の着替えに戻って行った。
「これはもしかしてハンスの言った通りエンドレスなのか?」
「そのようだな」
その後、ビクターとハンスは予定通り武具を見るために最上階に上り、他国の珍しい武器を眺めたり中には気に入った物を購入したりした後、1階下の正装と装飾品の売り場に降りて行った。
「この階は人が少ないな」
「ああ、値の張る物ばかりだからな」
「ハンス、あそこに居るのはマリアさんじゃないか?」
ビクターは少し奥まった場所で妙齢の婦人達に囲まれて話をしているマリアを見つけた。
「そのようだな。それに相手をしてるのは母上達じゃないか?」
ビクターが周囲を見回すと炎王近衛騎士団が客にまぎれて護衛をしながら、ビクターを見て苦笑を浮かべていた。
ビクター達は婦人達に歩み寄り声をかけた。
「母上、お忍びでお買い物ですか?」
「あらビクターにハンスちゃんじゃない。リンダは一緒じゃないの?」
「リンダは下の階で服を選んでますよ」
「そう、リンダをほったらかしてマリアちゃんに会いに来たのね」
「母上、なんでそうなる?俺はハンスと館内を見て回っているだけだ」
「こぉ~んなに綺麗なマリアちゃんに興味がないの?」
そう言われてあらためてマリアを見たビクターは固まってしまった。
普段見慣れた制服や防具ではなく、身体の線を強調するようなグランディアの正装に輝く宝石やティアラに負けず輝く美貌に目を奪われてしまっていた。
「伯母上、ビクターはデートへの誘い方や行き先等を僕に聞くほどマリアさんに夢中なんですよ」
「あら、ハンスにそんなこと答えられたの?」
横合いからハンスの母カレンが割り込んできた。
「どういう意味ですか、母上」
「だってぇ~好きな子に意思表示すらできずデートにも誘ったことがないハンスがどう答えたのかなぁ~って」
「あらハンスちゃんのお相手ってフランソワちゃんだったわよね。まだデートもしてないの?」
「そうなのよ、嫡男のくせに情けないったらないわ。ルイスのほうは安心なんだけどねぇ~」
「そりゃあ、うちの娘がしっかりリードしてますからね」
母親軍団の前で分が悪いと感じたハンスはビクターの袖をひっぱり戦術的撤退を促した。
ようやくわれに返ったビクターが状況を把握しようとしたところに、心配そうな顔をしたマリアが話しかけた。
「ビクターさん、グランディアの正装はお気に召しませんでしたか?」
マリアの表情に動揺したビクターは周囲のことを忘れつい口走ってしまった。
「と・とても綺麗だ。できれば一生見ていたいほどだ」
「ありがとうございます。わたくしも一生お傍に仕えさせていただきたいです」
マリアは満面の笑みを浮かべビクターの傍に寄り添ったところで母親軍団から声がかかった。
「ビクター、やるじゃない」
「デートや告白をすっ飛ばしていきなりプロポーズとはねぇ~」
「婚約発表は盛大にしなきゃね」
母親達の言葉に慌てて「い・いや、そういうわけでは」と言いかけたが王妃サーヤのヒト睨みで口をつぐんでしまった。
そばで見ていたハンスは腹を抱えて笑っていたが、母カレンの言葉に凍りついた。
「これで残るはハンスだけね」
「い・いや僕は……まだ早いかと……」
「ハンス、あなたの縁談を断るのにどれだけ苦労してると思ってるの?」
「そうそう、ハンスちゃんが先に婚約してくんないとルイスちゃんとランの婚約ができないじゃない」
「ルイスはまだ15ですし、フランちゃんの気持ちも……」
「スタイン家には了解をとってるわよ。フランソワちゃんからはハンスの気持ち次第だと返事を聞いてるわ」
「父上にも相談を……」
「マックスは喜んでたわよ。早く孫の顔が見たいって」
ビクターはハンスの肩をトンとたたき首を横に振った。
「ハンス、あきらめろ。勝てる相手ではない」
ハンスはガックリと肩を落とし項垂れながら呟いた。
「せめてフランちゃんには僕から言わせてください」
「わかったわ。今日中に話すのよ」
「「ハンスちゃん、がんばってね~」」
ハンスは母親達に背中を押され、ひとり1階に降りて行った。
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。