40話
試験前の週末は誰も外出しないで勉強に明け暮れた。
「ル~イ~ス~~~~わかんねえよ~~~~」
「ロン君、頑張って……自分で考えなきゃ覚えないよ」
「そんなこと分かってる。ロビン、ピーターお前達はどうだ」
「「武術と体術はばっちりだよ」」
「それは実技じゃねぇか」
「外国語は大丈夫だ。暗記科目は前の日に覚えればだいじょうぶだし、問題は『世界の理』と『魔術理論』だな。ピーターはどうだ?」
「俺も似たようなもんだ。苦手なのは『兵法』かな」
「俺と同じような状況なのになんで余裕の顔してるんだよ」
「「だってルイスに教えてもらえばいいじゃん」」
溜息をついているルイスを3人は神様をみるようにキラキラした瞳でみつめた。
「仕方ないなぁ~、それじゃあみんなで試験範囲のおさらいしよっか」
「「「ありがと~」」」
「暗記科目は自分でがんばってね」
「わかってるって。他の奴等も呼んで良いか?」
「それじゃあ談話室ね。教科書やノート持って集まってね」
集まった生徒を前にルイスは、数学、魔術理論、世界の理などの試験範囲を説明していき、暗記科目については重点項目のピックアップを行っていった。
「大体こんなもんかな。なんか質問ある?」
ロンウッドは首を横に振りながら以前から疑問に思ったことを尋ねた。
「ルイス、いつ勉強してんだ?部屋で勉強してんの見たことないんだけど」
「ほとんど学院に入る前に習ったことだから、授業聞いてるだけだよ」
「ほえ~、外国語なんかはどうやったんだ?」
「父の仕事の関係で他国のお客さんが沢山きてたから自然に覚えたよ」
「すっげぇ~な。勉強もできて武術も魔術もできるなんて」
「あはははは、そのぶん友達がいなかったけどね」
「友達いなかったのか?」
「うん、ランちゃんとフランちゃんくらいかな。あとは兄さんとかビクター兄さん、リンダちゃんくらいしか同年代はいなかったよ」
「ランちゃんとフランちゃん以外は身内ってのも寂しいな」
「だから、学院に入ったんだ。兄さんも楽しそうだったしね」
「ハンス先輩も友達少なかったのか?」
「兄さんは沢山友達いるよ。僕は5歳から10歳まで王都に居なかったから友達ができなかったんだ」
「なんで?」
「母が病気で療養の為に僕と一緒に別の場所で暮らしてたんだ」
「そりゃ大変だったな」
「今は母も元気だし、おかげで治癒魔術や薬草にも詳しくなったから良かったんじゃないかな」
「おかげで俺達共知り合えたってわけだ」
ルイスはニコニコ笑って頷いた。
同じ頃女子寮ではラン達の部屋でマリア、リンダと一緒に勉強会が行われていた。
「ランちゃん、栄養学が筆記だけでよかったわね」
「フランちゃん、それは私だけじゃないでしょ」
ランはみんなを見回した。
「わたくしは大丈夫ですよ。子供の頃からお菓子作ってましたから」
フランソワは自信たっぷりに言った。
「わたくしは……夏休みに練習するよ……たぶん……」
「リンダちゃん、自信なさそうね」
「うん。この前ね、城の厨房に入ったら大騒ぎになって……近衛の人に追い出されたの」
「そりゃ一国のお姫様が料理しようなんて料理人が許してくれるわけないじゃない」
「いや……そうじゃなくって……卵が爆発したの」
「はあ?」
「あの固くってツルツルの卵って熱くしたらできるって教わったから、火の中に入れてみたんだけど……そしたらボンッって」
「リンダさん、あれはゆで卵って言ってお湯の中に入れるものですわよ……たぶん」
「マリアさんも自信なさそうね」
「ここに来るまでに厨房なんて入ったことないんですもの」
「私は切るのは得意よ」
「ランちゃん、まな板ごと刻んでは料理にならないでしょ」
全員溜息をもらして学科の練習問題に目を落とした。
「選択科目間違ったかもね」
ランの呟きに全員が涙目になった。
「それはそうと皆さんは夏休みどう過ごされるんですか?」
「私は修行ね。他にすることないし」
「わたくしもランちゃんと一緒です。少しだけ領地に帰るかもしれないですけど」
「わたくしは何も予定ないです」
「皆さんで一度グランディアに来ませんか?」
「私とフランちゃんは旅行がてら行けると思うけど、リンダちゃんはそうはいかないわよね」
「そうですね。わたくしが行くとなると外交ってことになるから、護衛や官僚がゾロゾロ付いてくることになりますね」
「王女としてではなく、わたくしの友達としてご招待できれば良いのですが……そうしないと毎日大臣連中との話や夜会に引っ張りまわされてしまいますからね」
「一度お兄様に相談してみますわ」
「そうですわね。ランちゃん達もご家族の承認もいるでしょうから」
「マリアさん、呼んでもらえるのは私達だけ?」
「あら、ランちゃん他に誰か呼びたい人がいるの?」
みんなニヤニヤ笑いながらランを見た。
「なによ、その目は」
「ルイス君はお呼びしますわよ、ランちゃん」
「よかったわねぇ~ランちゃん」
「な・なんでよ。私が言いたかったのはビクター殿下やハンスさんよ」
「さすがにビクターさんは難しいでしょうね。プライベートで国外なんて許されないと思いますよ」
「そうですわね~お兄様は国内でも制限が厳しいですからね~」
「その点ルイス君は自由ですものね」
「そうそう。ハンスさんも公爵家嫡男という立場もありますからね」
「ルーちゃんはランちゃんの誘いなら拒否権無いから……」
「リンダちゃん、私は無理に誘ったことなんてないわよ」
「そうだった?学院に入るのもランちゃんが強引に誘ったんじゃなかったっけ」
「それはルイスに友達が居ないから可愛そうだと思って……」
「友達?」
「ルイスは私とフランちゃんくらいしか友達居なかったのよ」
「そんなに閉鎖的には見えないんですが」
「そうじゃなくってルイスは5歳から10歳まで領地で伯母様の看病したり薬茶を作ったりしてて、ずっと森で薬草を採ったり勉強したりしてたの。
王都に帰ってきてからはリンダちゃん用の薬茶を作ったりしてるうちにルイスブレンドができちゃって研究ばかりしてたのよ」
「そういわれると、わたくしも罪悪感がありますね」
「リンダちゃんが悪いわけじゃないわよ。ルイスが自分からやりたがった事なんだから」
「ふむふむ、忙しいルイス君にかまってもらえないから学院に誘ったと」
「マリアさん、なんでそんな風になるのよ」
勉強会そっちのけで夜は更けていった。
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