37話
騎士団対抗戦の翌日、王城で4大騎士団主催の騎士団交流会兼祝賀会が催された。
対抗戦に参加したチームと領主、個人戦に参加した選手(予備予選は除く)が招待された。
冒頭の主催者代表挨拶で、炎王近衛騎士団長から再度優勝者へのお祝いと完全制覇を成し遂げた学院に対して惜しみない賛辞が贈られ交流会が始まった。
会食が始まると学院チームの周囲には各騎士団の団長が集まり、親交を深めようと積極的に話しかけてきた。
中でも来春卒業予定のレイラとロイには、卒業後の進路について話が集中し各騎士団が是非入団して欲しいと要請してきた。
その話に4大騎士団の団長も割り込みレイラとロイは食事もできないほど忙しく対応していた。
一方、ランやマリア達の周りにも対戦したチームのメンバーや監督が集まり質問攻めにあっていた。
「じつに面白い作戦でしたな」
「あはははは、驚かせちゃいましたか?」
「何が起こったのか分からないうちに終わってましたよ」
「うふふふ、大将の方は大丈夫でした?」
「ええ、大丈夫です。身体だけは丈夫ですから」
「それはよかった」
「あの作戦はやっぱり監督の指示だったんですか?」
「あれはチームで考えだした作戦なんですよ。監督は知りませんでした」
「1回戦2回戦と奇襲で勝ち抜け、残りは正攻法というのは最初からの作戦だったんですか?」
「いいえ、情報収集にあたってくれたマイク先輩が戦力を分析してくれて、その結果で使う作戦を決定していったんです」
「他にも作戦があったのですか?」
「ええ、たくさん用意しておりましたよ」
「是非、お教え願えませんか?」
「残念、それは来年のおたのしみ~」
あははははは
ハンスとルイスはマックスに呼ばれ、エルザリア騎士団の元に行った。
「ハンス、ルイス よくやったな」
「「ありがとうございます、父上」」
「「ハンス様、ルイス様 おめでとうございます」」
騎士団の面々からも祝福されたが、マックスは騎士団に振り向き満面の笑顔で声をかけた
。
「お前達もよくやったな。それに対し褒美を用意しておるぞ」
「「ありがとうございます」」
「礼を言われるほどのものではない、レジアス騎士団と合同で1ヶ月の間『地獄の特訓』をプレゼントすることにした」
「「うええぇぇぇ~」」
「負け方が情けなさ過ぎる。正攻法でひとりも倒せず終わるとは何事だ!」
「「申し訳ございません」」
騎士団員は全員肩を落とし項垂れた。
「僕も参加させてもらうよ」
ハンスの言葉にマックスは驚き振り返った。
「ルイスに負けっぱなしというのは悔しいからね。ルイス以上の練習をするしかないんだ」
「ハンス、ルイスの練習を知っているのか?」
「毎朝夜明け前から朝食までみっちりやってるよ。その後で僕の練習にも付き合ってくれてるんだ」
「そうか、それじゃあハンスも参加しろ」
「兄さん、もうすぐ試験もあるし、店のオープンもあるけど大丈夫なの?」
「ああっ、忘れてた……父上、夏休みにしてもらえませんか?」
「そういうことならお前の都合にあわせるぞ」
会場の片隅で貴族学院のケビンは不機嫌な顔をしてルイスを見ていたところに声がかかった。
「君は予選に出ていた人だよね」
「ああ」
「ずいぶん機嫌が悪そうじゃないか」
「くじ運が悪くてな」
「くじ運?」
「そうだ。あいつは楽な相手ばかりと当たって疲れもなく俺と対戦して勝ったんだからな」
「それじゃあ、ルイス君はくじ運で優勝できたと?」
「それだけじゃない。団体戦もエルザリアやレジアスの連中が手加減してたに違いない」
「あはははは、君は面白いことを考えるなぁ」
「面白い?」
「何故手加減する必要がある?」
「公爵家の威光を使ったに決まってるじゃないか」
「それじゃあ何故昨年は敗退したんだ?」
「そ・それは……」
「俺はルイス君と対戦したが手加減などしなかったぞ。
逆に怪我をしないように手加減されたんだ」
「そんな馬鹿な」
「この対抗戦では身分を意識するような連中はひとりもいないさ。
勝ち上がって良いところをみせれば4大騎士団に入れるかもしれないんだからな」
「信じられんな」
「そっか、仕方ないな。君も頑張れ」
騎士は後手に手をヒラヒラさせながら去っていった。
ラン達は騎士団達との話が一段落すると、軽く食事をとりデザートを食べながら談笑していた。
「対抗戦が終わって少し気が抜けちゃったわね」
「そうね、次のイベントが期末テストっていうのも嫌ですわね」
「あ~~~思い出したくない」
「ランちゃん、勉強してないでしょ」
「そういうフランはどうなのよ」
「わたくしはちゃんと勉強してますよ」
ランはキョロキョロとマリア達を見た。
「わたくしも大丈夫ですわよ」
「私だけなの?」
「そのようですわね」
「なんか楽しいことないかなぁ~」
「試験が終わった頃には例の店がオープンしますよ」
「「おお」」
「今、調理人達が大使館でお菓子作りを勉強してますわよ」
「「楽しみ~」」
「ランちゃんはその前に勉強ね」
ランはがっくりと項垂れた。
ギャランは昔の同僚である風王騎士団長と話をしていた。
「久しぶりだな。お前が団長になってからは初めてか」
「そうだな、お前が教師になった時は驚いたぞ」
「人に教えるなんて柄じゃないからな」
「それにしても良い生徒を育てたじゃないか」
「俺はあいつらには何もしてないさ。あいつらが自力で勝ち取っただけさ」
「団体戦の作戦も見事だったぞ」
「あれもあいつらが考え出した作戦だ」
「あははは、面白い生徒達だな」
「面白すぎて退屈しねえぜ」
「団体戦の最後のは何だったんだ?」
「あれは得意の属性に他の属性の技を混ぜたんだ」
「そりゃ対戦相手は戸惑うよな」
「そう、特にラン、フランソワ、レイラは戦闘スタイルも熟知されてるから、効果は絶大だったはずだ」
「それもあの子達が考えたのか?」
「それについてはルイスだ。あいつは全ての属性を使えるからな」
「そういえばずっと水の技を使っていたが、準決勝では地の技、決勝では火の技だったな」
「そう、それもどの属性を使わせても一流ときやがる」
「あれほどの使い手は風王騎士団に欲しいところだが、まだ1年生じゃ無理だな」
「そりゃ無理だろう。エルザリア家が手放さないだろうぜ」
「そうだな、他の貴族も養子に狙ってるだろうしな」
「ああ、それにしてもあいつらは時代を変えるかもしれんな」
「俺達大人はそれを手助けしてやれば良い」
「それもそうだな」
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