33話
騎士団対抗戦まで1週間となった朝、ルイスが練習しているとノームが顔を出した。
「ルイスちゃん、できたよ~」
「ノームちゃん、おはよ~」
「遅くなってごめんね~。材料が逃げちゃってなかなか捕まんなかったんだよ」
「材料がにげる?」
結界を張った後のんびりルイスの練習を見学していたシルフが腹を抱えて笑い転げていた。
「ルイスちゃん、今の防具を脱いでこれ着けてみて~」
真っ白な全身タイツのような物と金色の篭手、脛当、胴とサークレットが手渡された。
ルイスが手にとって身に着けてみると、肘や膝の部分は少し肉厚になっているものの柔らかく動きの邪魔にはならない。
篭手や脛当、胴も全く重さを感じることもなく、サークレットは長い髪を押さえ激しく動いても髪が全く邪魔にならないのである。
シルフもノームも満足そうにルイスを見ていた。
「凄く動きやすいや」
「うんうん」
「こんなに柔らかいのに防具なの?」
「それ魔術も剣も効かないよ」
「そういえば材料が逃げたって……何使ったの?」
「金色のはアレクちゃんの鱗、白いのはシロちゃんの毛だよ」
「それじゃあ逃げたって……シロ?」
「そうなの。ちょっと毛を貰うだけなのにね~」
「ノームちゃん、どれくらい刈ったの?」
「丸坊主」
「あははは、そりゃ逃げるよね」
シルフは涙を流して笑い転げていた。
「ノームちゃん、ありがとうね」
シルフとノームは結界を解除してヒラヒラと手を振りながら消えていった。
クラスメイト達も練習にやってきて運動場が賑やかになっていった。
「ルイス、防具変えたの?」
「うん、領地で僕に教えてくれてた師匠達が作ってくれたんだ」
ランはルイスの防具をペチペチと叩きながら問いかけた。
「ふ~ん、こんな薄いので大丈夫なの?」
「今日初めて着たばっかりだから分かんないよ。一応剣も魔術も効かないとは聞いてるんだけどね」
「ちょっとそのまま動かないで」
ガキィィィーン
ランがいきなり剣で斬りつけたが、剣は弾かれルイスは平然と立っていた。
「ランちゃんいきなり危ないよ~、それ試合用じゃなくって真剣じゃないか」
「驚くのはそこじゃないでしょ。その防具傷一つ付いてないわよ」
フランソワやマリアも寄ってきて、ドレドレと防具を確認していた。
「凄いわね、全く無傷だわ」
「それに綺麗ですわね。御伽噺の王子様みたい」
「それにしても素材がわかんないわね。ルイス何か聞いてないの?」
「詳しくは教えてくれなかったよ。白いのは魔狼の毛って聞いてるくらいだね」
「魔狼の毛?」
「魔狼の森には少しだけ白い魔狼もいるんだよ」
「へぇ~、でもそれってとても貴重なんじゃないの?」
「毛だけ刈って逃がしたって言ってたから問題ないんじゃないかな」
女子達は話ながらペタペタと防具を触っていたがルイスが赤い顔をして呟いた。
「あんまり触られると恥ずかしいんだけど……」
女子達は一斉に手を離し「ごめ~ん」と赤い顔をして謝った。
「随分動きやすそうね」
「そうなんだ、着てても全然気にならないんだ」
「私も新調しようかな~」
「いっそ女子でお揃いのを作りませんか?」
女子同士でキャアキャアと盛り上がり始めたので、ルイスはクラスメイトの指導に向かった。
何事もなく、個人戦予選の日がやってきた。
予備予選(一般人や書類選考に漏れた人の予選に出るための予選)から勝ち上がった2名を含め32名の選手が会場に集まっていた。
組合せ抽選の後、すぐに対戦が始まった。
試合は4つの試合エリアで同時に行われることになっていた。
学生はルイスとケビンの2名、一般人1名、残りは何れかの騎士団員であった。
風王騎士団が審判を勤め、ルイスの試合がはじまった。
「はじめっ」
「うりゃああぁぁぁぁぁ」
掛け声とともに勢いよく斬りこんで来た相手に対して、ルイスは剣の腹で相手の攻撃をそらしていく。
まったく打ち合いに応じてこないルイスに対して焦りから大振りになり、大きく振りかぶったところをルイスの剣が胴を払った。
「それまでっ」
互いに礼をして控え室に戻り、次の試合に備えてリラックスしていると控え室の隅で蒼い顔をしている選手がいた。
「どうしました?体調が悪いなら治癒師を呼びましょうか?」
「いや、どうも緊張しちゃって……」
「それならいいんですが、少しはリラックスしないと実力だせませんよ」
「ありがとう。君と話して少しは落ち着いてきたよ」
男は少しだけ笑顔をうかべ柔軟体操をはじめた。
ルイスは1回戦と同じような戦い方で順調に勝ち進んでいったが、周囲の勝ち残りの者達は徐々に疲労がたまり疲れた顔に変わっていった。
準決勝でルイスはケビンと対戦することになった。
疲労困憊のケビンに対してルイスは疲れた様子もなく対峙して開始の合図を待った。
「はじめっ」
果敢に攻め込むケビンの攻撃をヒラリヒラリと躱していくと、ケビンの攻撃がブレはじめやがて最後の力を振り絞って渾身の一撃をはなったが、あっさりと躱され咽喉元に剣を突きつけられた。
「それまでっ」
審判から決勝戦まで30分の休憩があることを告げられルイスは控え室に戻った。
「この卑怯者!何故打ち合わんっ」
控え室でケビンはルイスに食って掛かった。
「ん?僕は水の技だからね」
「疲れてさえいなければお前なぞ俺の敵ではなかったのに」
「そうかもね、僕は運がよかったなぁ~」
「お前のような奴にレジアスの娘は渡さんからな」
「なんのこと?」
「とぼけるな。俺は絶対認めんからな」
「君が何を認めるのさ。決めるのはレジアス公爵家だろ?」
控え室で帰り仕度をしていた者達は失笑をもらした。
「貴様等なにがおかしい」
「君、負けて悔しいのは分かるが、決勝まで5試合あるのが分かっていながらペース配分できなかった時点で君の負けなんだよ」
「なんだと!」
「実戦なら次はない。つまり死んでるってことさ」
「これは試合だろうが」
「騎士はそれだけの覚悟をもってるんだよ、おぼっちゃま」
「ふん、俺は負けたなどと思ってないからな」
ケビンは捨て台詞を吐いて控え室を出て行った。
「やれやれ、君も大変だね」
「いえいえ、慣れてますから。それよりも騎士の覚悟お教えいただきありがとうございました」
「あははは、君には釈迦に説法だったようだがね」
決勝戦も危なげなくルイスが勝ち、翌日の本戦への出場を決めた。
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