29話
放課後ロイとガリアは王都の端にある建物の前に立っていた。
「ガリア君、ここのようだな」
建物の入り口をのぞき声をかけると、気難しそうな中年の男がでてきた。
「なんじゃ、なんか用か?」
「あのー、工房主のキーシャさんにお会いしたいんですが」
「キーシャは儂じゃが弟子はとってねえぞ」
「いえ、そうではなくてルイス君の紹介で来たんです」
ロイはごそごそと懐から紹介状を取り出しキーシャに渡した。
「ルイス?……どれどれ……おお……まあ中に入ってくれ」
手紙を読みながらキーシャは二人を中に招き入れた。
倉庫のような事務所に入り、部屋の中を見回すと数々の武具と防具が飾ってあった。
「おい、おめえらに工房を使わせるよう頼まれたが、素人にゃ危険だぞ?」
「問題ない……俺の家……鍛冶師」
「おまえさん他国の者か?」
「シンカ……来た」
ガリアは飾ってある剣の前に止まり、1本を指差した。
「これ……爺さん……作った」
「なんだって、これはガイヤード工房の最高傑作だぞ」
驚いた顔をしていたが、やがて穏やかな顔になり一言呟いた。
「まあ、あのルイス坊の友達じゃしょうがないか、工房は自由に使っていいぞ」
早速工房の中に案内され、作業していた人達に紹介したあとで使用可能な場所を教えてくれた。
「ここを使ってくれ。必要な物があれば誰かに言ってくれれば用意するぞ」
「ありがとうございます」
「道具……持ってる……材料ほしい」
「材料は何がいるんだい?いろんなインゴットならそろってるぞ」
「鉄鉱石……生の木の葉」
「おいおい、インゴットから作るのか?それに木の葉なんて使って何するんだ?」
「ダマスカス……作る」
ガリアの一言にキーシャは固まり、工房の中にいた作業員も動きを止めた。
ひとり意味がわかってないロイはガリアに尋ねた。
「ダマスカスってなんだ?」
「我が家の秘密……最高の材料」
キーシャは立ち直りガリアの腕を掴んで大声をあげた。
「本当にダマスカス鋼を作るのか?見せてくれっ、頼む!」
「見る……かまわない……ルイス……大事な友達……感謝」
「君、ダマスカス鋼ってのは幻の材料なんだ。製法を知ってるのはシンカのガイヤード工房だけだと言われてるんだ」
ロイの後ろから若い作業者が説明してくれた。
「俺……ガリア・ガイヤード……工房の後継」
「鉄鉱石なら山ほどあるぞ。好きなだけ使ってくれ。おい野郎共、生の木の葉を集めて来い、大至急だ!」
しばらくして作業者達が大量の木の葉を籠に入れて戻ってきた。
ガリアは炉の温度を確かめ、坩堝に鉄鉱石と生の木の葉を無造作に入れ炉にかけてインゴットを作り始めた。
大量に出来たインゴットを見てキーシャはガリアに問いかけた。
「こんなにたくさんのインゴットで何を作るんだ?」
「大剣……2本……実用……試合用」
「それにしても多すぎないか?」
「あげる」
「くれるのかい?そりゃありがたい」
ガリアはニッコリ笑い頷いた。
「学校……休み……剣打つ」
「そうだな。もうすぐ食事の時間だからな」
「おお、まってるぜ。今度は鍛造の技も見せてもらうぞ」
夕食の後でハンスはビクターの部屋を訪れていた。
「ビクター、やっと薬草の目途がたってきたな」
「ああ、薬草がこれほど農業の活性化に繋がるとは思いもしなかったよ」
「ルイスブレンドも儲かるし、国や領主としても税収があがるから文句は出ないだろうな」
「きっかけはマリアさんだとしても、もともとルイスが薬茶を考案したおかげだ」
「あははは、我が弟ながら大した奴だよ」
いつになくドアの外がざわつき、部屋のドアがノックされた。
コンコン
「おお、開いてるぞ」
ドアが開き少女が二人入って来た。
「お兄様、失礼しまぁ~す」
「なんだ、リンダとマリアさんじゃないか」
「なんだとは失礼ね~可愛い妹がせっかく会いに来たのに~」
「まあ、こっちにきて座りなよ」
簡易の応接セットに座ることを勧め、ハンスは飲み物を用意した。
「今日はどうしたんだ?わざわざ男子寮に来るなんて珍しいな」
「お兄様のお部屋を拝見したかっただけですわ」
「何も珍しい物なんかないぞ?」
「女の匂いがしたら父上に告げ口しようかな~なんて」
「そんな訳ねえだろ」
リンダとマリアはクスクス笑い、ハンスの淹れたお茶に口をつけた。
「ハンスさん、このお茶はリンダちゃんのとは違うようですわね」
「ああ、これはビクター用らしいんだ。なんでも心を落ち着かせる効果があるらしい」
「それはお兄様に落ち着きが無いからですわね」
「うふふふ、本当に仲の良い兄妹ですわね」
「そんなことより、何か話があって来たんじゃないのかい?」
「ええ、実はルイス君のことをお聞きしたくてリンダちゃんに無理を言って連れてきていただいたんです」
「ルイスの事?」
「天才と呼ぶにはあまりにも多才すぎて不思議なんです」
「確かにな。俺やハンスなんかの身内からみても出来すぎだよな」
「それに、あれほどの才能がいままで人に知られてないことも不思議なんです」
「それは簡単だよ。僕たちが隠してたんだから」
「どういうことなんですか?」
「ルイスが生まれた時に白銀の髪だったことで周囲に異常に注目されたんだ。
アーサー様の生まれ変わりとか言われてね。
それでルイスを利用しようとする奴等から守る為に、外見以外は普通の子供だと思わせていたんだ」
「外見は変えられねえからな」
「小さい頃から賢かったんだが、5歳から母の病気治療の為に領地に一緒に行ってから一気に才能が開花したんだ。
領地の森で知り合った老夫婦に薬草のことを学んで、今の薬茶を作るようになったんだよ」
「へぇ~、では何故今になってハンスさんはルイス君の才能を公開するようになったんですか?」
「公開ってことじゃなくて、もう隠す必要がないと思ったからなんだ。
ルイスも自分で判断できる歳になったしね」
「女の子が寄ってきてもランちゃんが撃退しちゃうから安心ですしね」
「あははは、それもあるね」
「ねえねえ、ハンスさん、ルーちゃんって授業も寝てるのにどうして成績良いの?」
「リンダちゃん、羨ましいのかい?」
「うん」
「僕たちも羨ましいと思ってるんだ。あいつは一度見たり聞いたりしたことは完璧に覚えてるんだ。
だから、教科書なんて一度読めば充分なんだ。
教科書どころか、うちの蔵書全部覚えてるんだよ」
「それって学院に入る意味ないんじゃない?」
「ああ、勉強って意味じゃあ必要ないけど、友達は欲しいだろ?」
「それもそうですわね」
「マリアちゃん、ルーちゃんに興味あるの?ランちゃんに怒られちゃうよ」
「そういう興味じゃないわよ」
「よかったぁ~お兄様ふられたのかと思っちゃったぁ~」
「馬鹿、何言ってんだ」
「興味をもたれて無いのは、わたしのほうですわよ」
「ビクター、薬草のほうも落ち着いたんだからデートのお誘いくらいしろよ」
「そうそう、お兄様から誘わなくっちゃ」
「ハンス、リンダ、何言ってんだ!」
「お嫌ですか?わたしはいつでもお受けしますわよ」
「嫌じゃない、わかった今度誘わせてもらうよ」
あははははは
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