27話
夜明け前いつものようにルイスは練習をしていた。
みんなとの練習とは違い、神剣を召喚し五感を研ぎ澄まし魔力で身体強化をした全力での練習であった。
大地は震え風は唸りをあげ、剣からは衝撃波が飛び出し既に人間の限界は超えた存在であった。
「ルイス、強くなったな」
風の精霊王シルフの言葉に微笑みを浮かべながら息を整え答えた。
「みんなのお陰だよ。でもアーサー様はもっと強かったんだろ?」
「アーサーは神だぞ?人間のルイスが比較になるはずないじゃないか」
「それはそうだけど、目標は高いほうが楽しいじゃない」
「お前らしいな。おっとそろそろお友達が来るな」
シルフは結界を解き、姿を消した。
ぞろぞろと新入生の殆どが集まり、それぞれ挨拶を交わして柔軟体操を始めた。
「凄い人数になっちゃったね~」
「おお、来たい奴は来てもいいぞって声かけたら、殆どの奴が参加したんだ」
「とりあえず属性毎に分かれてくんなきゃ教えられないわ」
ランの言葉にロンウッドがみんなを集めて属性毎に分かれて並ぶように指示した。
「火と風は私とフランで受け持つわ。残りはルイスがやってね」
「りょ~かい」
それぞれ型の基本部分だけを繰り返し行うように指示して、ラン達は個別にアドバイスを行った。
「お~やってるな」
ロイとマイクが少し遅れてやってきてルイス達の傍にやってきた。
「こりゃ俺達の練習相手どころじゃないな」
「マイク先輩、とりあえずこっち手伝って~」
ランの言葉にマイクは風属性の集団に駆け出していった。
「あははは、マイクも自分の練習どころじゃないようだな」
「人に教えるのは良い勉強になりますよ。特に基礎は忘れていたことを思い出させてくれます」
「確かにその通りだな。んじゃ俺は地属性の指導でもすっかな」
「ロイ先輩、彼が昨日お話したガリア君ですよ」
「そうか、それじゃあ仲良くしないとな」
ロイはガリアのほうに歩いていき丁寧に指導しはじめた。
「えいっ やあっ とおぉ」
火属性の集団の中で、どこか間の抜けた掛け声をかけながら練習している少女の前に腕組みをしてランが立った。
「なにやってんの?」
「なにって、練習よ~」
「だから、なんで火の技を練習してるのかって聞いてるのよ」
「ランちゃんやお兄様みたいにかっこよく……」
「リンダちゃん、あんたは水属性でしょうが!」
リンダはキョトンとした顔でランを見た。
「ランちゃん、わたくしがルーちゃんと一緒にいて怒らない?」
「なんで私が怒るのよ」
「だって~ランちゃん、ルーちゃんにラブラブ?」
ランは額に青筋を立て拳を震わせながら呟いた。
「あんたは私をからかう為に……」
「きゃ~ごめんなさぁ~い」
リンダは笑いながら脱兎のごとく逃げ出した。
周囲に居たものは口を押さえ笑い声をあげるのを押さえたが、一部の女子は羨ましそうな顔をしていた。
一通りのアドバイスを終え、ラン達は自分の練習にとりかかった。
日頃使わない他属性の型をやってはみるが納得できる内容ではなく、相互にアドバイスをしながら徐々に身体を慣らしていった。
ロイはガリアに頼んで大剣を打ち込んでもらい受け技を重点的に練習しているところに、ルイスが声をかけてきた。
「ロイ先輩、受けが弱いです。地の技を受けは攻防一体、剣を受け止めるというより剣戟を打ち返すくらいの力が必要です」
ルイスはガリアに打ち込んでもらい見本をみせた。
ガリアが振りかぶって打ち込んできた剣に向かってルイスは一歩踏み込みガリアの剣に剣を打ち込んだ。
ドシ~ン
ルイスの踏み込んだ音が響きわたり、ルイスの足元は凹んでいた。
ガリアは剣を取り落とし腕を押さえて蹲っていた。
リンダが慌ててやってきてガリアの治療をはじめた。
「ルイス君、今のは?」
「ガリア君の剣を弾いただけです」
「弾いただけ?」
「一歩踏み込んで、ガリア君の剣に剣を打ち込んで弾いたんです」
「凄い踏み込みだったな。あんなのギャラン先生はしなかったぞ」
「あれが地の技の足技です」
「あれのどこが足技なんだ?」
「地の技の足技は相手を蹴るんじゃなくって、地面を蹴ってその力を利用するんです」
「そうか、地の技は力だと思っていたけど、大地の力を借りるってことか」
「そういうことです。一般的には腕力のある人にしか地の技を使えないって言われますけど、大地の力を借りれば普通の人でも充分使えるんです」
ガリアが立ち上がりルイスに話しかけた。
「俺……驚いた……手……無くなった……思った」
「ごめんねガリア君」
「大丈夫……俺……教えて……強くなる」
「ルイス君、俺にも教えてくれ。俺はもっと強くなる」
「あははは、その為に先輩達はここに来たんでしょ」
「ん?それもそうだな、わはははは」
「リンダさん……ありがとう……もう痛くない」
「どういたしまして」
「昨日は気絶してて分からなかったけど、リンダさんの治癒能力は凄いですね」
「うふふ、お兄様がいつも怪我してますから上手くなっただけですわ」
ロイとガリアはしばらく踏み込みの練習をした後で、ロイはガリアの大剣を借り振ってみながらルイスに感想を漏らした。
「大剣って思ったより使いやすいな」
「ロイ先輩、重くないですか?」
「いや、むしろもう少し重いほうが扱いやすそうだ」
「僕なんて構えるのがやっとですよ」
「あははは、それは仕方ないだろう。でも買うのは大変そうだな」
「珍しい武器ですから、結構高いかも」
「俺……作る……でも……鍛冶場ない」
ルイスはしばらく腕組みをして考えガリアに尋ねた。
「ガリア君、鍛冶場があれば他人の道具でも大丈夫?」
「道具……持ってる」
「それじゃあ知り合いの工房に頼んでみるよ」
「おいおい、いいのかい?」
「大丈夫ですよ。ガリア君の練習にもなりますし」
「俺……剣作る……好き……作りたい」
「そういうことなら任せるよ。俺も手伝っていいかな?」
ガリアは嬉しそうにロイに言った。
「問題ない……シンカの技術見せる……俺の剣……最高」
「じゃあ後で工房の場所教えるね。紹介状書いとくから」
「ありがとう、ルイス君、ガリア君」
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