26話
「今日はこのままみんな一緒に食事をしましょう」
「ラン様、一度寮に帰って汗を流したいのですが」
「それもそうね、んじゃ汗を流してから集合しましょう」
さっさと帰り仕度を始めたランにリンダが話しかけた。
「あの~ランちゃん?」
「どうしたの?」
「先ほど保健室の前でね、上級生の方に兄様達に近づくなって注意されちゃったんですけど」
「なにそれ」
「わたくしは妹であることをお話しましたら問題ないと許可いただきましたが、皆様は怒られるのではないですか?」
「あっそれ僕も言われたよ」
ルイスも横から口をはさんだ。
タニアは頭を抱えて溜息をついた。
「親衛隊の連中ね。困ったもんだわ」
タニアの言葉に新入生は首を傾げた。
「親衛隊?」
「そう、ビクター先輩とハンス先輩のファンクラブのようなものね。
高等部の女子過半数が入ってるって噂よ」
「おいおい、そんなの俺達は知らないぞ」
「抜け駆け禁止、相互監視とか言ってたわ。
といってもビクター先輩やハンス先輩のご身分を知ってるわけじゃないから、単純に憧れてるだけなんでしょうけどね」
「そりゃそうだろうな。身分を知ってる連中は家を通じて縁談を持ってきやがるからな」
「とりあえず寮に戻って、ルイスさんとリンダさんはお二人のご兄弟で他のみなさんは幼馴染ということを伝えておきますわ。
マリア様はビクター先輩のお父上のご友人の娘さんということで良いですね」
「お願いするわ」
「頼んだぞタニア」
タニアは一足先に寮に向かって駆け出した。
「ロイ先輩、さっきタニア先輩が身分のことを言ってましたけど何かご存知なんですか?」
「あれ、マイク君は知らないのかい?」
ロイが少し意外そうな顔をしたが、ビクターが話した。
「マイク、今後このメンバーで話をするときに必要だから教えといてやるよ。
ハンスとルイスはエルザリアの者、ランはレジアス、レイラさんとフランソワはレジアスの修行者だ。
マリアさんはグランディアの高位貴族、俺とリンダの家名はローレンシアだ。
このメンバー以外には言うんじゃないぞ」
「家名がローレンシア……王子様と王女様?」
「そういうことだ。学院では唯の先輩だがな」
ハンスがマイクの肩をポンと叩いた。
マイクは正気を取り戻し「誰にも他言しません」と返事をして寮に走って帰った。
やれやれといった感じでルイス達も寮に帰り、汗を流した後で女子寮の前に集合した。
汗を流し着替えたラン達新入生が出てきて何処のレストランに行こうかと相談しているとタニアが疲れた顔ででてきた。
「事情は説明してきたわよ。でも次からはルイス君も狙われるわね」
思いがけず名前がでてきたルイスがタニアに尋ねた。
「タニア先輩どういうことですか?」
「ハンス様の弟君、美形で全科目満点の成績、そのうえ選抜選手。彼女達にとっては絶好の標的ね」
ルイスは肩を落とし、ハンスとビクターは笑い転げていた。
一同は先日のレストランで夕食を食べながら今後の練習について話し合っていた。
「とりあえずタニアとマリアさんは今のままで良いと思う」
「ハンス先輩、なんでですか?」
「グランディアの武術を知ってる者は少ないからさ。知られていない技は細工するより正攻法がいいだろ?」
「わたくしは試合とは別に精霊武術も学んでみようかと思っています。せっかく留学してきたんだし」
「それはそれで良いと思うわよ。私達でよければ教えてあげる」
「よろしくお願いします」
「ルイスも今のままだな。お前に勝てる相手なんか居ないだろうからな」
「え~僕もグランディアの体術勉強したい」
「それは勝手にやれ」
冷たい兄の言葉にがっくりと項垂れているとマリアが「わたくしがお教えしますよ」とルイスを励ました。
「マイクはフランソワに基礎を徹底的に学べ。フランソワ遠慮せずにガンガン鍛えていいからな」
「はい、わかりました。ガンガンいかせてもらいます」
フランソワの微笑みにマイクは震え上がった。
「ロイ先輩はどうするかな?」
「ちょうど僕たちのクラスに地の技を習い始めて大剣を持ってる人がいるよ」
「習い始めたばっかりじゃ練習相手にもならんだろう」
「その子は鍛冶師の修行をしてたからパワーは凄いよ。大剣なんて片手で扱ってるし、一度僕たちの練習を見に来てもらえばいいんじゃないかな」
「ルイス君、いつ練習してるんだい?」
「毎朝、夜明けから朝食までやってるよ」
「じゃあ明日にでも行かせてもらうよ」
「ルイス君、僕も参加していいかな?」
「どうぞどうぞ、マイク先輩も来て下さい」
「さて、残りは自分で技の組合せを考えるしかないな」
「ルイス、あんたはどうやって組み合わせたのよ」
「え~と、てきと~」
「ルイス、みんなが真剣に考えてる時になんでいい加減なこと言うのよ」
ランの怒りに少し困った顔をしてルイスは答えた。
「え~と、今日ランちゃんがレイラさんと戦った時って水の技を使うこと考えてた?」
「そんな訳ないでしょ、急に決まったんだから」
「だから、僕もそうなんだって。予め考えてる訳じゃなくって状況に合わせて変えてるんだ」
「それなら始めからそういう風に言いなさいよ」
「始めから技の繋ぎばかり考えてるとパターンが読まれちゃうでしょ、だから僕はいつも全属性を練習して自然に身体が動くようにしてるだけだよ」
ハンスが納得顔で口を開いた。
「まずは一つの属性だけに固まってる身体を解すことからだな」
一同は頷き自分の目標を定めた。
蚊帳の外だったリンダがランに話しかけた。
「練習の時から気になってたんだけど聞いても良い?」
「なに?」
「ランちゃんが泣いちゃったってルーちゃんが領地に行くのが寂しくって泣いちゃったの?」
「な……」
「それは私も聞きたいわね」
女性陣は興味津々でランを見た。
「な・なによ……そんなことどうでもいいでしょ」
「わたしが初めてお屋敷に伺った時、寂しそうにお隣を見てらしたのを覚えてますわ」
レイラが爆弾を投下し、みんなはニヤニヤしてランを見つめた。
「そういえば、わたしに字をならって手紙を書くとかなんとか……」
「ちょっとレイラ姉さん!」
「ふーん、ランちゃんお手紙書いたの?」
「おお、俺も何度かあずかったぞ」
フランソワがからかい、ハンスが輪をかけた。
「ランちゃんの手紙なら全部大事に取ってるよ」
「そんなもの直ぐに捨てなさい。私は火の魔術で燃やし尽くしてあげるわ」
真っ赤な顔で慌てるランを全員が笑ってみていた。
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