19話
ラン達が次々と契約していくのを笑顔で見ているルイスにマリアは話しかけた。
「ルイスさんは精霊と契約されないんですか?」
「僕はいいんですよ」
あっさりと答えるルイスに首をかしげ、マリアは隣にいる精霊に話しかけた。
「ジン、ルイスさんには精霊は加護を与えないの?」
「マリア、彼はとても精霊に愛されてるよ。いつも数え切れないほどの精霊に守られてる」
「じゃあ何故どの精霊も契約しないのかしら」
「それは、彼自身が特定の精霊との契約を望んでいないからではないかな」
「そういうことです。僕は子供の頃から沢山の精霊に助けられてきましたから、特定の精霊との契約は考えてないんですよ。
契約しなくても助けてくれちゃうんで、契約する意味もないですしね」
マリアは神官長に目をやり問いかけた。
「神官長様、そのような人が存在するなど初めて聞いたのですが?」
「今は殆どおられませんが、昔はおられたようですよ。
ルイス様は幼少の頃から森に親しんでいらっしゃいましたから、精霊達も心を許しておるんでしょう」
「それだけ人間が自然から離れてしまったということでしょうか?」
「そうかもしれませんな。今では世界各地の品物がお金を出せば手に入る時代ですからな。
わざわざ森に入って行く人は少ないですからな」
「僕は森で薬草と採ってはお茶を作ったり、薬草園を作ったりしてたから自然に精霊達と仲良くなれたんだ」
「へぇ~ ルイスそんなこと私にはちっとも話さなかったじゃない」
ランは少し目を細めてルイスを睨むように言った。
「だってランちゃん聞かなかったじゃん」
「ランちゃんはルイスさんのこと何でも知りたいのよね~」
マリアはランをからかい、フランソワとリンダはクスクスと笑っていた。
精霊の加護を受けた女の子達は、神官長から精霊達との付き合い方を教えてもらい精霊神殿を後にした。
「これからどうする?真っ直ぐ寮に帰るの?」
ランがどこかに行きたそうに切り出した。
「そうね、わたくしは少し買い物をしたいんですが、よろしいですか?」
「いいわよ、丁度荷物持ちもいるし」
ルイスはがっくりと肩を落とし項垂れた。
一同は道沿いのお店を覗いたりしながらルーベシア商会に行き、それぞれ買い物を始めた。
マリアとリンダは寮で着る部屋着やカジュアルな服を熱心に見て、ランとフランソワは最新の流行や着こなしを教えはじめた。
ルイスはブラブラと店内を見て回っていたが、難しい顔をしたパトリックを見つけ声をかけた。
「パトリックさん、こんにちは~」
「ルイス様、いらっしゃいませ」
「難しい顔してどうしたの?」
「それが、昨夜夜会から帰った姪のイシュアがとんでもないことを言い出しまして…」
「もしかしてティーサロンのこと?」
「ご存知だったのですか?」
「小耳に挟んだ程度ですけど」
「4大国のお菓子をいつでも食べれるティーサロンを作れなどと急に言われましても、資金や場所、それになによりも問題なのはお菓子なぞ仕入れる宛てがないんですよ」
「イシュアさんはそれだけを伝えたのですか?」
「ええ、王妃様や公爵妃様からのご命令だと」
ルイスはがっくりと肩を落とし、パトリックを応接間に引っ張りこんで、店員にラン達を呼ぶように伝えた。
すぐにラン達は応接室にやってきた。
「ルイス、どうしたのよ。せっかくマリアちゃんの服選んでたのに~」
「ごめんね。でもパトリックさんが例のティーサロンのことで悩んでたから、事情を知ってる君達に説明してほしくって」
リンダが首を傾げながら問いかけた。
「どういうことですの?」
「どうやらイシュアさんが、大分端折って説明したみたいなんだ」
「そういうことなら、私が説明するわ」
ランが話を整理して内容をパトリックに伝えた。
4大国のお菓子とルイスのお茶をいつでも楽しめるようなティーサロンを作ること。
仕入れはマリアの口添えで、各国の大使館の料理人が協力してくれること。
資金は王妃及び公爵妃が提供すること。
面倒なことはルイスが処理すること。
「最後のはちょっと納得できないなぁ~」
「あははは、いいじゃない」
パトリックは表情を和らげ安堵の溜息を漏らした。
「そういうことでしたら実現可能でございますね。
ただ、先日お話いただいたグランディアの商品を扱うことも考えますと、この建物では場所が取れませんので、早急に場所を確保しなくてはなりませんな」
「1階をティーサロンにして、2階を各国の商品を扱うような交流館のようなものにしてはいかがかしら?」
マリアの意見にランが賛成した。
「ティーサロンはルイスブレンドの直営店ってことで、資金はルイスが出せばいいし、2階部分は各国の交流の為とかいって母上達が資金をだせばいいんじゃない?」
「それくらいなら僕も出せると思うよ。兄さんに相談してみなきゃいけないけどね」
「運営はルーベシア商会に委託ってことでどうかしら?」
「それでは、私共に都合が良すぎませんか?」
「パトリックさん、ルーベシア商会の経営ってことになると競合店から妨害が入ったりするんじゃないの?」
「まあそれは覚悟の上ですけど」
「4国の交流が目的ですから、妨害が入っては外交問題に発展しかねませんよ」
「確かにそれはそうですな」
「とりあえずパトリックさんは店舗の確保や事業計画を練って母上達に出してください」
「かしこまりました」
「僕は兄さんと相談して、どれくらい資金が出せるか聞いてみるよ」
その後、ラン達は大量の私服を購入してルイスに押し付け寮に帰っていった。
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