1話
いよいよ本編のスタートです。
国立ローレンシア学院の居住区画には、12棟もの3階建ての建物が建っている。
高等部男子寮3棟、高等部女子寮3棟、大学部男子寮2棟、大学部女子寮2棟、男子職員寮1棟、女子職員寮1棟である。
各棟は1階がサロン、食堂、洗濯室等の共有スペースになり2~3階が25室づつの居住スペースとなる。
高等部は2名1室だが、その他は個室となっており各室にはバス・トイレ・簡易キッチンが装備されている。
入学式の5日前くらいから遠方からの生徒や荷物が到着しはじめ、前日に全員が揃うようになっている。
高等部第1男子寮の、ある部屋で少年が自分の荷物をかたずけていた。
コンコン
「はーい、開いてるよ」
ガチャッ
「しつれいしまぁ~す」
どこか間延びした声でひとりの少年が入ってきた。
「僕はルイス。よろしくね」
「ああ、俺はロンウッドってんだ。ロンって呼んでくれ」
ルイスと名乗った少年は、大き目のカバンを持って部屋に入り部屋の中を見渡した。
「ロン君、こっち側僕が使ってもいいのかな?」
「ああ、わりぃ~な。先に着いたもんだから勝手に場所決めちゃって」
「いいよ、僕に拘りは無いから。じゃあこっち側使わせてもらうね」
ルイスは何度か1階から荷物を運び込み、テキパキと部屋を片付けた。
「ふぅ~~~~、なんとか片付いたぁ~」
ルイスの荷物は少量の着替えとビンに入った乾燥した葉っぱが殆どで、あとは最低限の荷物しかなかった。
「ルイス、荷物はそれだけなんか?」
「うん、僕の家は近くだから必要な物があれば取りに帰れば良いから」
「いいなぁ~、俺なんかシンカ共和国との国境近くだから往復だけで10日はかかるんだぜ」
「そりゃ大変だね~、なにか必要なものがあったら気軽に言ってよね。大学部には兄もいるから大概の物は用意できるよ」
「すごいな、兄弟で学院かよ。俺の町なんて俺達がはじめての学院入学なんだぜ?」
「俺達?」
「ああ、俺の幼馴染も一緒に合格したんだ」
「お~いロン、部屋片付いたかぁ~」
「おお、ピーター。まあ入ってくれ」
ピーターと呼ばれた少年ともう一人の少年が入ってきた。
「こいつはロビン、オレと同じ部屋になったんだ」
「こっちはルイス、さっき来たばかりなんだ」
「ロビンです。よろしく」
「ルイスです。よろしくお願いします」
挨拶を終え、ロビンは部屋を見渡してルイスのビンに目をとめた。
「なあルイス、あのビンはなんなんだい?」
「ああこれ?薬草とか香草だよ」
「薬草?」
「これを混ぜてお茶にして飲むんだよ。ちょっと待っててね」
ルイスはティーカップとポットを用意してお茶を入れ始めた。
ティーポットに水を入れ、数種類のビンから葉っぱを取り出してポットに入れると部屋中に良い匂いが広がった。
4人分のティーカップにお茶を注ぎ、みんなに差し出した。
「飲んでみて、今日のは疲れをとる配合にしたから」
3人は湯気の立つティーカップを受け取り、匂いをかぎうっとりとした表情をした。
「ルイスさん、さっきポットに入れたのは水だったよね。なんで熱くなってんの?」
「それは、葉っぱを用意してる間に魔術で……」
「ルイス、魔術使えんのか?」
「うん、簡単な術だけだけどね」
「それも無詠唱だぜ。おっどろいたなぁ~」
「オレは、こっちのお茶のほうが驚いたよ。こんな旨いお茶飲んだことね~や」
横でロビンも頻りに頷いていた。
「近くに住んでた薬師のお爺さんから教わってね、いろいろ作ってたら面白くなっちゃって趣味になっちゃったんだよ」
「葉っぱ集めるだけでも大変な金額になるな。ルイスってお金持ちなんだなぁ~」
「あははははは、葉っぱは自分で森や山から採ってくるからお金なんてかかんないよ。
ここの裏にある森でも採れるんだよ」
「そうなんだ。んじゃ遠慮なく飲めるな」
あはははは
「ルイス居るか?」
年上の少年が二人部屋に入ってきた。
「早速、お茶のんでやがる。ルイス、俺達にも飲ませろや」
「ビクター、他の人に迷惑だぞっ」
きょとんとしている面々に目をやり
「俺はハンス。ルイスの兄だよ。これはビクター、従兄なんだ。よろしくな」
「「「はい」」」
「おお、悪かったな。俺たちも茶を飲ませて貰っていいか?」
「「「はい」」」
「しかたないなぁ~。ビクター兄さん、いつもので良い?」
「おお」
ルイスは二人分のお茶を用意した。
「やっぱりルイスの茶はうめ~なぁ~」
「ところで兄さん、なんか用があったの?」
「俺じゃないよ。こいつがルイスに頼みがあるっていうから付いてきたんだ」
「おお、そうだった。今年の新入生にリンダが居るんだ」
「へぇ~、リンダちゃんも学院に入ったんだ」
「それでな、可愛い妹に悪い虫がつかないように注意してほしいんだ」
「あはははは、それならランちゃんやフランちゃんが居るから大丈夫だと思うよ」
「ええっ、あのお転婆共もいるのか?それなら騒ぎに巻き込まれないように守ってやってくれ」
「い・いや、僕が巻き込まれないように……まあ、なんとかするよ」
「頼んだぞ。それからお前達も俺の可愛い妹に手をだすんじゃねぇぞ」
「「「わかりました」」」
「ビクター、後輩を脅してどうする!人に頼みごとをするときは偉そうにするな」
「うっせーな。わかったよ、わるかったな」
「ごめんな君達、こいつ妹のことになると見境ないから。俺たちは大学部第2男子寮にいるから、困ったことがあったらいつでも来てくれ」
「用が終わったら、さっさと帰るぞ。じゃあな、邪魔した」
慌しく帰っていく二人を見送りルイスは溜息をついた。
「凄い人だったなぁ~」
「ごめんね。ビクター兄さんは面倒見の良い人なんだけど、リンダちゃんのことになると……」
「ルイス君、他にも知り合いがいるみたいだね」
「うん、リンダちゃんの他にはお隣のランちゃんとフランソワちゃんがいるよ。
あとは兄さんの友達かな。ロビン君は?」
「僕はソヴィエ連邦の近くの小さな村から一人だけなんだ」
「じゃあ俺達とは反対方向だな」
「入学前に友達ができて良かったよ。一人で心細かったんだ」
「ああ、これからよろしくな」
「僕は王都だから、困ったことがあったらいつでも言ってね。さっきの兄さん達も力になってくれるから」
「うん、ありがとう」
「それより腹減らねぇか?」
「「「うん」」」
4人は揃って食堂に行き始めての夕食をとった。
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