18話
夜会の翌日、いつもの早朝練習を終え生徒達は男子寮の前に集まっていた。
「アネット先生遅いなぁ~」
精霊神殿に引率してくれるはずのアネットがなかなか来ないのである。
女子が職員寮まで迎えに行ってみると、アネットは爆睡していたようで、慌てて身支度を整えてやってきた。
「みんな、おはよ~ すっかり忘れてたわ」
頭をポリポリと掻きながら苦笑いして生徒達に頭をさげた。
学院から精霊神殿は歩いても30分程のところにあり、人数も多いので歩いて神殿に向かった。
精霊神殿の入り口に、歴史、精霊学、世界の理を教えているノマゾフという老教諭が待っており、笑顔で生徒達を迎えた。
「みなさん、精霊神殿にようこそ。今日は神官長の許可もありますので、いろいろご覧になってください」
「「よろしくおねがいします」」
「では、まずは礼拝所で祈りを捧げてからいろいろ見て回ることにしましょうかな」
生徒達は大きな礼拝所に案内され、祭壇に祀られた神々や精霊、神獣の像の説明を受け手を合わせて祈りを捧げた。
特に難しい作法とかはなく、心から神々や精霊に祈りを捧げるだけで良く、生徒達も幼い頃から慣れ親しんだことなので問題なく終了した。
「それでは、資料館のほうを案内しましょうかな」
いつもの睡眠薬のような口調ではなく、生き生きとして老教諭は生徒を案内していった。
資料館には200年前の世界各地での戦いの様子を描いた絵や、英雄フローリアが使用して折れたレイピアなどが展示されていた。
シンカから留学してきたガリアは、折れたレイピアを食い入るような視線でみつめ感嘆の声をもらした。
『これは凄い、剣の中心にミスリル銀を使って、表面はオリハルコンだと』
シンカ語で呟き、それを聞いたロンウッド達は驚いた顔をした。
「ガリア、見ただけで素材までわかるのか?」
「俺の家……剣つくる……沢山……見た…」
「シンカ語でいいぜ」
『俺の家は鍛冶師なんだ。だから子供の頃から沢山の剣を見てきたが、これほど凄いのは初めて見たよ』
「へぇ~、そんなに凄い剣なのに折れちゃうんだな」
『おそらく尋常じゃない魔力を通したんだろうな。
それにこのレイピアは人間が作ったものじゃないと思う』
「よくわかりましたな。このレイピアは地の精霊が作ったと言われています。
他にもエルザリア公爵家、レジアス公爵家には長剣とレイピアが伝わっていると聞き及んでいます」
老教諭はここぞとばかり、展示物の説明をはじめ生徒達も初めて見るものばかりで興味深く話しを聞いていた。
生徒達も授業とは違い、積極的に質問したりノマゾフ教諭の話を真面目に聞いたりしていた。
一通りの説明が終わり、会議室のような場所に通され生徒達が座ったところで神官長が挨拶に訪れた。
「みなさま、ようこそおいでくださいました」
アネットが代表して神官長にお礼を述べた。
「今日は本当に無理なお願いを聞いていただき感謝しております」
「みなさんが、神々や精霊に興味を持っていただいて嬉しゅうございます」
神官長がニコヤカに生徒達を見回した。
「精霊と相性が良い方々もおられるようですな」
「そんなことが分かるんですか?」
「私のような者でもある程度精霊を見ることができましてな、精霊が周りに集まっておられる方が何人かいらっしゃるのが分かるんです」
「へぇ~、見てみたいなぁ~」
と何人かの生徒が声を漏らした。
「強く望めば姿を見せてくれるかもしれませんが、他の人がいる場所では無理でしょうな」
「精霊って恥ずかしがり屋さんなのね」
「そういうことですな」
生徒達は神官長とノマゾフ教諭にお礼を述べ解散することにした。
席を立ち帰る準備をしていると、神官長がルイス、ラン、フランソワ、リンダ、マリアを呼び止め神殿奥の祭壇に来るよう声をかけた。
神官長は引率のアネットとノマゾフ教諭に5人に用事があることを伝え、別行動になることの許可を求めた。
アネットとノマゾフは顔を見合わせたが、彼らの家柄を知っているので貴族関係の用事だと推測し許可した。
神殿奥にある王族や公爵家のみが入れる祭壇の間に通されたルイス達に、神官長は深々と頭を下げた。
「この度は学院ご入学おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
「神官長、お祝いのためにわたくし達を残したのですか?」
リンダは神官長に問いかけた。
「いえ、そうではございません。
お呼びしたのは、精霊王様からのお言葉で皆様をこちらに案内するようにと申し付かったのでございます」
「精霊王様?」
ラン達はポカァ~ンとした表情で呆けていた。
「俺様が説明してやるよ」
神官長の後ろから目付きの悪い男の子が出てきてふんぞり返っていた。
「この少年は、わたくしが加護をいただいております火の上位精霊でベヒモス様です」
ラン達は紹介を聞き少年に近づいて頭を撫でたりしてみた。
「俺様は珍獣かっ!」
「だってぇ~はじめて見たんだもん」
ランの言葉に脱力しながら説明をはじめた。
「お前ら毎朝学院の運動場で精霊武術を練習してるだろ?」
ラン達はウンウンと頷いた。
「その様子を見ていた精霊達がお前達を気に入ったってわけだ」
「それがなんで精霊王様が?」
「精霊達の呼びかけにお前らが気付かんからだ。おいお前」
とベヒモスはマリアを指差した。
「お前はもう精霊と契約してるだろ。気付いてたんじゃないのか?」
「ええ、練習の時精霊が一緒に練習しているのは知ってましたよ。
精霊が戯れているだけだと思ってました」
「ええ~マリアさん精霊が見えてたの?」
「ええ、契約すればある程度力の有る精霊は見えるようになりますよ」
「私も見たぁ~い」
ランの言葉にフランソワとリンダも頷いた。
「話をまぜっかえすな!その為に呼んだんだからな」
「はぁ~い」
「まず目を閉じて心の底から精霊に会いたいと願え」
ラン達は目を閉じて心を落ち着かせた。
「そのまま自分の最も得意な型を精霊と一緒にやってるつもりでやってみな」
集中して型を繰り返していると、隣に誰か居るような気配を感じはじめた。
徐々に気配が濃くなっていきやがて、はっきりと気配を感じることができるようになってきた。
「そのまま続けながら横を見てみろ」
ラン、フランソワ、リンダの横に少女が同じ型をやっているのが見えた。
「その者達が、お前らの傍にいた精霊達さ。後は名乗りあって共にあることを願えば契約できるぞ」
ベヒモスはめんどくさそうに話した。
「私はラン、あなたは?」
「私は火の精霊フレアだよ」
「いつも一緒に居てくれる?」
「いいよ。その言葉を待ってたの」
同じようにフランソワは風の精霊ウィンと、リンダは水の精霊ミストと契約した。
いつの間にかマリアの横にも精霊が姿を現し、皆の様子を微笑みながらみていた。
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