13話
自宅に戻ったルイスはハンスの部屋を訪れた。
「兄さんちょっといいかな」
「なんだ?」
「領地での薬草園のことなんだけど、もう少し増産できないかな?」
「う~ん、今の広さでは無理だな。どれくらい必要なんだ?」
「今の2~3倍かな」
「ルイスのお茶、そんなに売れてるのか?」
「新しく作ったお茶も含めて、グランディアでも売ることになったんだ」
「グランディア?マリアさんの口添えか?」
「そうなんだけど、向こうから売ってくれって」
「そうか、それじゃあ断れないな。農家に転作を頼んでみるしかないが、そうなると他の作物が不足するしな」
「そっかぁ~困ったなぁ~」
「まあ、俺から父上に相談して何とかしてやるさ。
薬草の種類と必要な量をまとめとけ。
お前のお茶は我が家でも大事な収入源になってきてるからな。
それで、新しいお茶ってどんな効用があるんだ?」
「糖分や脂肪を吸収しにくくするんだ。
そしたら女の子達が目の色かえて早く売り出せって……」
話を聞いてハンスは表情を一変させ真剣な顔になった。
元々『ルイスブレンド』のお茶は、ルイスが母カレンの病気を心配して淹れはじめたお茶である。
母カレンの病気が全快し、同じように病弱だったリンダに薦め少しづつ病状が改善していったことを喜んだ国王バレルが来客や臣下に薦め、偶々ルーベシア商会のパトリックが知ることとなり商品化されたものだった。
材料となる薬草はエルザリア領の薬草園で生産され、加工と調合は王都にある専用の工房で行われ調合や製法は極秘とされている。
『ルイスブレンド』の最高責任者はルイスであるが、当時10歳だったルイスに代わり実際の運営をしているのは兄ハンスであった。
当初は月に白金貨1枚程度の売り上げだったが、現在では白金貨10枚と10倍の売り上げに伸びている。
銅貨100枚で銀貨1枚。
銀貨10枚で金貨1枚。
金貨10枚で白金貨1枚。
庶民の月収が平均銀貨5枚くらいである。
ちなみにルイスとハンスの小遣いは、この売り上げから経費を差し引いた利益を自由に使えるようになっている。
「そりゃ2~3倍どころじゃ済まないぞ。
国内だけで2~3倍、グランディアも含めると5~6倍ってとこか」
「パトリックさんがグランディアで売れたら、ソヴィエやシンカでも売るって言ってたよ」
「おいおい、そりゃとんでもない量が必要になるぞ。
そうなるとうちの領地だけじゃとても無理だ」
夕食に戻った父マックスと食事をしながら、ハンスはルイスから聞いたことを話した。
母カレンは効用を聞き興奮気味に「早く製品化しなさい。試作品を飲ませなさい」とルイスに詰め寄る場面があったが、マックスに落ち着くよう諭され席に戻った。
マックスは子供の小遣い稼ぎ程度に思っていた事業が、大きくなることを喜んだがハンスの予想した必要量や販売利益に驚き真剣に悩みはじめた。
「それほどの量になると領地だけでは無理だな。
それに当家だけが利益を独占すると他家から妬みを買うことになる。
この件は儂が預かり、陛下やヴェルヘルム(ランの父親)と相談することにする。
問題はないな?」
「父上にお任せします」
「僕は品質の良い薬草が手に入れば問題ないよ」
「それから、次の週末に王家主催の夜会があるからハンスとルイスも出るようにな」
「わかりました」
「ええ~~~~~面倒だなぁ~」
「これっルイス、これも公爵家の役割の一つなんですわよ」
「はぁ~い」
翌日、ルイスはハンス、ラン、フランソワと共にグランディア大使館に立ち寄り、マリアを馬車に乗せ寮へと帰った。
道中でハンスはマリアに増産体勢が整うまで輸出に猶予を貰える様に交渉し許可を得た。
「マリア殿、『ルイスブレンド』の輸出の事なのですが、材料の薬草の増産体勢ができるまで少し時間的な猶予をいただけませんか?」
「ハンス様、それは構いませんわよ。わたくしが昨日急にお願いしたことですもの」
「ありがとうございます」
「でも、少量ならお願いできますか?我が家で使う分で構わないのですが」
「それくらいなら、いつでも大丈夫です」
大学部男子寮で馬車を降りたルイスは高等部男子寮まで歩いて戻った。
寮の前には大きな馬車が止まり、でっぷりと太った中年の男とキャメルが立ち話をしていた。
「こんにちは~」
少し間の抜けた感じで挨拶をし通り過ぎるルイスに中年の男が声をかけた。
「おい、そこの者、この荷物を部屋まで運べ」
振り返ったルイスは不思議そうに首をかしげた。
「僕?」
「そうだ、お前に言ったんだ。手間賃は払ってやる」
キャメルはニヤニヤ笑いながら中年の男に話しかけた。
「父上、こいつですよ。その辺の草をお茶にして飲んでるやつは」
「そうかそうか、金に困ってるなら手間賃ははずんでやるぞ」
「僕は自分の荷物があるから無理だね」
ルイスは両手に持った荷物をみせた。
「そんな荷物など置いておいて、後で取りにくれば良いではないか」
「そんな面倒なことしなくても、キャメル君が自分で持ってけば済むでしょ」
「なんと、可愛い息子に荷物を持てというのか。荷物など従者が持つのが当然であろうが!」
「僕はキャメル君の従者じゃないよ」
「これだから下民は嫌いなんだ。貴族を敬うということを知らん」
「おじさん、ここは学院の中だよ。身分は関係ないよ。よく覚えとかないと笑われちゃうよ」
「なんと生意気な!おい、躾けてやれ」
馬車の御者台にいた男がルイスに襲いかかったが、ルイスは軽く身をかわし足をひっかけて転がした。
「あぶないなぁ~」
「なにやってるんだ!こんな小僧一匹にあしらわれおって!」
転がってる男に罵声をあびせた。
「おじさん、躾けなら自分の子供にしなよ。
自分のことは自分でする。
自分のしたことは自分が責任をとる。
ちゃんと教えないとダメだよ~。じゃあね~」
「なにを生意気な!お前の家ごと潰してやるからな!貴族の力をなめるなよ」
「やれるものならやってごらん。いつでも相手してあげるから、あはははは」
ルイスはさっさと立ち去り寮の中に消えていった。
寮の入り口近くの物影から見ていたロン達がルイスに近づいて声をかけた。
「ルイス、言いたい放題だな、あはははは」
「ルイス君、大丈夫なのかい?」
心配そうなロビンにルイスはニッコリ笑って答えた。
「僕の家は代々王都にいるから人脈もあるんだ。問題ないよ」
「それならいいんだけど……」
「ルイスが大丈夫って言ってんだから安心しなよ」
「そうだね」
「それにしても、気持ちよかったぜ」
あははははは
誤字・脱字がございましたらご連絡ください。