10話
朝食を済ませたルイスはいつもより早く教室に行った。
誰も来ていない教室の教壇や黒板を一人黙々と掃除していた。
「おはよう、ルイス何やってんだ?」
「ああ、ロン君。2班の人達はどうせ掃除しないだろうと思って掃除してたんだ」
「そんな事だろうとは思ったけど、ほっときゃいいんじゃないか?」
「でも汚れた教室じゃ先生に失礼だろ?」
「それもそうだな」
それ以上何も言わずロンウッドも掃除を手伝った。
授業開始ギリギリに教室に入って来たキャメル達は、綺麗に掃除してある教室を見て満足そうな顔をした。
「やっと俺達に敬意をはらう人間がでてきたようだな。
手間賃をやるから掃除した奴は取りに来い」
「わたくしからも差し上げましてよ」
生徒達はチラリとキャメル達を見ただけで、仲間同士の雑談を続けた。
「俺達の変わりに掃除をして手間賃もいらんとは殊勝な心がけだ。
さすが学院に入学した者共だな。礼節をわきまえておる」
生徒達は呆れた顔でキャメル達を見たが、誰一人声をかける者はいなかった。
ガラガラガラ
「みんな、おはよう!」
「「「おはようございます」」」
担任のガーランドが大きな声で挨拶しながら教室に入って来た。
「先生っ」
クラス委員のピーターが挙手してガーランドに発言を求めた。
「なんだ、ピーター」
「掃除当番を廃止したいのですが許可願えませんか?」
「どういうことだ?」
「掃除当番をサボられると皆が迷惑しますので、自分の周りは自分で掃除するようにしたいのです」
「お前達がそれで良いのなら別にかまわんぞ」
「ありがとうございます」
キャメル達は忌々しそうな顔でピーターを見たが異議を唱えることはなかった。
その日は何事もなく2班以外は全員掃除をして寮に帰った。
「キャメルさん、剣のことがわかりました」
「アルト、どうだったんだ?」
「あのランという女が全員に剣を配ったらしいです」
「なに!?」
「ランの家は武術道場らしく、自宅で余っていた物を配ったようです」
「それで何か見返りは?」
「何もないそうです」
「馬鹿か、あの女は」
「それからルイスとリンダには大学部の兄がいるようですが、素性まではわかりませんでした」
「仕方ないな。引き続き弱みをさがしてくれ」
翌日の午後は2時限続けての体術の授業であった。
リンダも一応運動着に着替え運動場に来ていた。
「これから体術の授業をはじめる。
体術はすべての武術の基本となり、護身術としても大事なので身を入れて練習するように」
「「「はい」」」
「まずは、今まで体術を習ったことがある者は手をあげろ」
リンダ以外の1班と2班が手をあげた。
「約半数だな……では、まず柔軟を徹底的にやるぞ」
キャメルが手を挙げ先生に声をかけた。
「ギャラン先生、俺達は子供の頃からやってんだぜ。
今更初心者と同じことやらされても無駄なんだが」
「お前達、自信があるんなら勝手に自己鍛錬でもしててかまわんぞ」
キャメル達はみんなの傍を離れ、勝手に練習を始めた。
「よーし、残った経験者組は柔軟の見本をみせてやってくれ」
「はぁ~い」
ルイスとランが基本の柔軟体操から股割り、前屈と一通りの動きをみせた。
「よく鍛錬できてるな。みんなもこれくらい柔らかくなるよう頑張れよ」
ルイス達経験者とギャランが手を貸しながら柔軟体操がはじまりアチコチで悲鳴があがった。
「あいたたたたたた」
「ぎやぁぁぁぁぁぁ」
「んぎいいいぃぃぃぃ」
「身体を伸ばす時は息を吐いて、戻す時に息を吸うんだよ」
「お前ら、よく練習しとくんだぞ。
それじゃあ経験者の者は順番に体術の型を見せてみろ」
「「「「はい」」」」
ルイスが前にでて精霊武術の水の型を見せた。
ゆったりとした水の流れが、やがて岩をも押し流す濁流となって力強く変化していった。
続いてランが火の型を見せた。
何者をも焼き尽くす苛烈な連続技繰り出していった。
続いてフランソワが風の型を見せた。
そよ風が強風となりやがて竜巻となって変幻自在な攻撃を繰り出した。
生徒達は呆然とみていたがやがて拍手が沸き起こった。
「よく鍛錬されているな。
今3人が見せてくれたのは我国に伝わる精霊武術の型だ。
それともうひとつ土の型というものがある」
ギャランは土の型を見せた。
「この4つの型が精霊武術の基本となる。
つぎマリアの体術を見せてくれ」
「はい。わたしのはグランディアに伝わる体術です」
長い脚を縦横無尽に振り回し、どんな体勢からでも相手の頭部に蹴りこむ足技中心の激しい武術だった。
「俺も以前に見たことはあったが、これほどの技は初めて見た。
素晴らしい!」
ギャランの惜しみない賛辞にマリアは照れながら頭をさげた。
「グランディアの技は手に武器を持っていることが前提なので足技が発達しました。
わたしもローレンシアの武術を初めて拝見させていただきましたが、是非身につけて帰りたいと思うほど素晴らしいものでした」
「はいはーい、ギャラン先生」
「なんだラン」
「一度マリアちゃんと手合わせしてみたいで~す」
目をキラキラさせてランはマリアをみた。
マリアはニッコリ笑って頷いた。
「二人ともやる気はあるようだな。よしやってみろ。
ただし、寸止めで一本勝負だぞ」
ランとマリアは向き合い互いに礼をして組み手がはじまった。
ランが軽く踏み込み牽制のパンチを放ったが、マリアの長い脚に邪魔され近づけないでいた。
ランがマリアの回し蹴りをかわして懐に飛び込んでマリアの顔面に拳を止めたが、ランの顎にはマリアの膝が止まっていた。
パチパチパチ
「マリアちゃん、すごいわね~ あはははは」
「ランちゃんこそ、うふふふふ」
「ふたりとも良かったぞ」
「「ありがとうございます」」
ギャランは見学していた生徒達に向かって言った。
「おまえらも練習次第では強くなれるぞ。
将来、自分の身に危険が迫った時、自分の身を守れるくらいにはなれ。
最低でも護衛の邪魔にならん程度にはがんばれよ」
「「はい」」
キャメル達は離れた場所で型の実演と組み手を見ていた。
「う~む、あの4人に直接手をだすのはやめだな」
「どうしてです?」
「あいつらの弱点がわかったからさ」
キャメルはニヤリと笑った。
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