筋肉の悲鳴
読みやすくなるように頑張ります。
転載禁止です。
身体がっ!いったっーいっ!!うわーん。見事な筋肉痛だった。足と背中はわかるけど、何で腕も痛いの?!
いつ使ったんだろうそんな筋肉…と思い、ギシギシさせながらベッドからゆーっくりと起き上がる…。いったーい!涙出そう。。
そんな中、本日の担当侍女はヴァネッサさんだ。
"コンコン"
「おはようございますわ。聖女殿。
お目覚めにございますか?ご機嫌いかがでしょうか」
「おはようございます。ヴァネッサさん。
…身体が痛くて立ち上がれません」
入室してきた彼女は見事な巻き髪を颯爽と靡かせて涙目の私の側に寄り様子を見てくれる。
「失礼致しますね」
そう言っておでこ、腕、脚に触れて
「熱はないようですわ。筋肉痛でしょうか?
午前中はこのままおやすみなさいます?」
と、心配そうな瞳で顔色を伺う。
先日の強引さはなりを潜め、親身になってくれているようでなんだか嬉しい。
「ありがとうぅ。このままお昼までおやすみさせてもらえるかな?」
「勿論ですわ。洗顔出来ないようなので温かいタオルをお持ちしますわ。朝食もこちらに。」
カーテンを開けて部屋に朝の陽の光を入れ少しだけ窓を開けて風を通すと、ベッド上にミニテーブルをセットして顔を拭く為の濡らしたタオルを差し出してくれる。
サイドテーブルのぬるくなったデキャンタを回収し、新しいカップに果実水を入れてくれた。一気に飲み干すと、痛みも忘れてとても清々しい気持ちになる。至れり尽くせりだ。
朝食もそのままベッド上で済ませ、私は再びベッドの住人になった。お昼までに治ると良いのだけれど…。
「私は居室に控えておりますので、ご用があればベルを鳴らして下さいな。宮廷医には念の為現状をお伝えしておきますわ。
ゆっくりおやすみなさいませね。」
初対面では高圧的な口調だったけれど、今日の対応を鑑みるに侍女になるだけあってとても有能なのだと知れた。
はぁ。なんだか立つだけで疲れている私が情けない…。午後までには…何とか。
お昼前にはのろのろと1人で移動できるまで回復し、昼食後には着替えて午後の準備に備える事になった。
ヴァネッサさんに寄り添ってもらいながら着替えようとクローゼットに向かう。
「午後の予定は魔法の練習があると伺っております。聖女殿はどのような衣装がお好みですの?」
「動きやすいドレスってあるの?」
「ありますわよ。袖が邪魔にならない、スカートの生地がまとわりつきづらいもの、飾りが少なめなもの…かしら。」
「私じゃわからないから…できたらでいいのだけれど候補を2つお願いできる?」
「わかりましたわ。こちらとこちら…がいいのでは無いかしら。」
彼女の右手にあるのは5部の袖が肌にぴたりとして、スカートも邪魔にならない程度にシンプルな緑のドレス。刺繍は入っているものの邪魔にはならない程度で伸縮性のある軽やかな生地で作られていた。
左手にあるのは1部丈の袖にAラインのワンピースドレスだった。上半身に刺繍、スカートは後ろにバッスルがあり飾りはほぼ背面だけなので手元は邪魔にならないデザインになっている。土台も重くない仕様で薄紫赤色のとても可愛いデザインだった。
普段の私なら右手の緑を選ぶ。しかし左手のデザインは一度は着てみたいとても見た目が好みのドレスだった。1度だけ、試しに…
「左手のほうを着てみたい…です。」
少し恥ずかしくて、私の体はもじもじしてしまう。ヴァネッサさんは微笑む。
「よろしくてよ。こちらに合いそうな物…2連の真珠のネックレスと、低めのヒールの赤いストラップシューズではいかが?」
「いいと思います。お任せします!」
ドレッサーに座ると今日は少しキリっと可愛い印象のお化粧を施された。眼も眉もラインがはっきり入ってるからか顔がスッキリとした印象だ。
髪型は左サイドに耳横にお団子にして小さい白い花が幾つか重り、垂れた金鎖の紫石が揺れる髪飾り。ネックレスは少し重みがあるのか、全く揺れない。意外と邪魔にならないようである。
今日も素晴らしいコーディネートでとても満足です。専門職って素晴らしい!
おしゃれに着飾ってもらえて気分も上がり、筋肉痛も気にならなくなった。これなら午後も頑張れそう。
「準備できましたわね。
それでは本日の第3魔術訓練場にご案内しますわ。足元は大丈夫かしら?」
「だいぶよくなったみたい。歩く速度を少しゆっくり目にお願いしますね。」
黙礼で返され、部屋を出る。
扉の向こうには昨日のトラートム様の隣にもう1人黒服の男性が立って跪いている。
「失礼致します。ご尊顔を拝しまして光栄の至り。私メッセ子爵家が4男アンリと申します。本日より聖女殿の護衛となります。よろしくお願い致します。」
肩口までの灰色の髪を右前だけ三つ編みにしている隊服の男性。
「よろしくお願い致しますね。」
立ち上がるとやはり背が高い。護衛の人みんな長身なのだろうか?銀色の愛嬌のある瞳でウインクされた。なんか…チャラい?。ここは漫画の世界なのか?顔がいい人しかいないのでは…私の顔面偏差値…うぅ。
いつものように新しい護衛が紹介され、事実に先導されて今日の授業がある場所に辿り着いた。5分以上歩いたと思うけど、城の中だよね?ほんと色々と広いなぁ。
部屋に入ると、体育館ほどの広間があった。弓道の部屋のように5メートル、10メートル先に的があり、立ち位置から的を狙うかたちの訓練場のようだ。
無駄のない飾り気のない部屋の中に入って周囲をぐるりとみまわしていると、端の方で顎に指を当てて考え込んでいた筆頭魔術師様がこちらに気づく。
「聖女殿。お待ちしておりました。
お体は大事ありませんか?昨日のマナーの授業がこたえたとお聞きしました。」
「筆頭魔術師さま。おかげさまで大分よくなりました。初めての魔法なのでとても楽しみです。よろしくお願いします。」
侍女であるヴァネッサさんは私の後ろに待機している。
今日は入り口近くのテーブル席に筆頭魔術師様とテーブル挟んで対面に座って授業を受ける形になった。
護衛の2人はアンリ様が扉の内側に待機、トラートム様は侍女のヴァネッサさんと並んで私の少し後ろに控えている。
「魔力はどんな人でももっているのです。しかし力の強さは違います。一般的には強さは遺伝するが質は遺伝しないとされています」
「遺伝という概念があるのですねぇ」
「はい。これは《発明》の力を持っていた5代目聖女様が伝えられたとされています」
「《発明》なんていう力もあるのですね。面白いですね。」
抽象的な力だと思う…発明って何でも作れるなら最強なんじゃ無いだろうか。
「また、この世界の聖女さまは16歳になると神の御技が自然とできるようになるのですが…過去の文献によれば、召喚された聖女様は最初は魔力を感じることが出来ない為に力の発現に1月〜3年と差があるようです」
「確かに、全く魔力なんて使った事がなかったから…実感できるまで練習が必要なんですね。」
ちょっとガッカリ。いきなりファンタジーは無理だったよ…。
「5代目聖女様は力の発現が3年と遅かったそうですが、後に沢山の発明品を作られております。
この部屋に使われている結界の魔道具も彼女の作った物で、他の誰にも再現出来ないと言われています」
「必ず力はあるのだと考えて良いのですか?」
「今の所、例外はございません。」
私は不安になる。ほんとうにあるのかな。
「まずは魔力を受け入れて試してみましょう。魔力を流しますので、気持ち悪ければ仰って下さい。
気質が合わなければ気持ちわるくなり、苦痛を感じます。合う相性の方を探し、魔力を感じる訓練を致しましょう。」
苦痛って何だろう?うーん。
「まずは試してみましょう。失礼致しますね。」
どんどん不安になっていく私の気持ちを知ってか知らずか、筆頭魔術師様は私の両手を取り私右手と彼の左手、私の左手と彼の右手を合わせる。
「私が魔力を自分の右手から出しますので、聖女殿も右手から私に魔力があると思って放出する様に意識して下さい。」
言われた通りに念じてみた。
…何も感じない。目を閉じて再度集中してやってみたがやっぱり何も感じるものはない。
「焦ることはございません。聖女殿の存在が奇跡なのです。力は副次的な奇跡なのですから、無理なされませぬよう。」
筆頭魔術師は無表情ながら気遣わしそうに不器用に、煌めく瞳をを微かに細めて慰めてくださっているようだった。
はぁ…ほんと、簡単じゃ無いらしい。まずか1月か、頑張ってみよう。
「暇な時にでも、侍女殿や護衛官殿と練習してみると良いかと思います。2週に1度、私との授業を致しましょう。
技術だけではなく、魔術の知識理解を深める事も必要かと思います。」
「そうですよね。どちらも大切だと思います。少しずつやっていきますね。」
1時間ほど練習して、成果は無くまた次回にとなり解散する事になった。
訓練場から部屋への帰り道と魔導塔までの道が途中まで一緒だとの事で、5人で廊下を歩く。
道ながら筆頭魔術師に疑問に思った事を質問した。
「先程お聞きした5代聖女様が作られた結界の魔道具はどの様なものなのでしょう?」
「訓練場に使われているのは、指定された空間を保護する作用がある魔道具です。
あの部屋の中で魔法が暴発したりしても部屋の外への影響が及ばない。つまり、危険な実験や影響の大きな魔法でも安全に行えます。」
「凄い魔道具なんですね。城に使われるほどに身近な物なんですか?」
「簡易な物は今でも模倣して作られておりますが、ほとんどは今残っているだけなので数えられる程です。この国でも30残っているかいないか…貴重な魔道具ほど少ないですが使用するにも多大な魔力が必要なのです。
魔力が足りなくて使えない、由来と内容の失伝した魔道具も幾つか残っていますよ。」
魔道具にも魔力が必要かぁ。そうだよねぇ魔の道具なんだから。
「結局魔力を感じられ無くては使えないのですね。私も魔術使ってみたいので頑張りますね。」
分かれ道までゆっくり話しができた。
筆頭魔術師は冷たい印象だったけれど、表情が変わらないだけでとてもお優しい方だった。
「こちらでお別れですね。
魔導塔への訪問許可が出ましたらぜひいらして下さい。お待ちしてます。」
そう言って別れた後に部屋に帰る。
いつもと違い、湯殿から上がると何かの道具の籠を抱えたヴァネッサさんが待っていた。
「本日は魔法訓練お疲れ様でございますわ。明日は再び淑女授業がございますので明日の為にも筋肉を解して置いた方が良いと思いますのよ。ですからマッサージ致しましょう?」
とてもいい笑顔でそう言って私は湯殿に戻るように言われ連れ戻された。
「さぁ、こちらに着替えて下さいませ。
私がお手伝いしても構いませんけど、お嫌なのでしょう?でしたら、ご自分で…ね?お願い致しますわ。」
薄手の着脱が簡易な浴衣を渡された。
恥ずかしい…けど筋肉痛はまだ確か痛い。
明日のためだと思えば受けるべきだよね等とぐだぐだ考えている内に、有無を言わせず湯殿の入り口近くにあった低めの石のベッドに浴衣を着て寝転ぶように指示を受ける。
「お身体に触れさせて頂きますわ。筋肉痛はいかがですの?」
うつ伏せに寝転ぶと、彼女はカモミールの様な花の香りのオイルで優しくマッサージしてくれた。恥ずかしい。けどそれ以上に凄く気持ちいい!
「凄く気持ちいぃーありがとう。痛みもほぼ無くなったよ。いかに侍女さんや護衛さんがどんなに大変か理解できた…みんな凄いね。」
彼女は可愛い笑みでクスクス笑う。
「当たり前でしょう?子供の頃から学んでいるのですから。聖女殿はまだこれからですわ。慣れですわ。」
回数をこなすしかないのかぁ。
首、背中、腕、腰、尻、脚と満遍なくマッサージされて眠くなる。人に触られるのは恥ずかしいけれど、気持ちよさが羞恥心に勝ったようだ。
「終わりましたわ。いかがかしら。水分を取ったらお休み下さいな。」
オイルを拭き取って貰うとふわっと魔術で髪を乾かして貰い、果実水を頂く。
今日1日でヴァネッサさんの印象は正反対に変わった。彼女に侍女になってもらえて…良かった。
今日もよく眠れそう…
誤字脱字あればお知らせ下さい。




