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この世界の学び

読みやすい文章になるように頑張ります。

転載は禁止です。

私が出かけている間に部屋は掃除された様で新しい花が飾ってあった。夏の庭にも咲いていた白い大きなダリアに桃色の萩の花が飾られている。爽やかな風の中に甘い香りがした。

ソファに座ってゆっくりしていると誰かが来たようだ。


"コンコン"


「聖女殿。筆頭魔術師が参りました。入ってよろしいですか?」


入室してきた筆頭魔術師様。昨日は気づかなかったけれど、彼の容姿は美しく冷たい迫力がある。身を包む黒く長いローブには金糸と銀糸で複雑な模様が縁取る様に描かれ、歩く度に目を惹かれる。

長身で腰まである長い銀髪は銀糸のように輝きサラサラと揺れている。ほとんど感情の乗らない顔で、眼は切れ長でそこはかとなく色気があり瞳にはラピスラズリの様に幻想的にキラキラ瞬きが浮かぶ。

身体をローブに隠して静かにスルスルと歩いている様は何とも言えない不可思議な身のこなしだった。


「おはようございます聖女殿。調子はいかがでしょうか。今日は先ずお知りになりたいとおっしゃっていた聖女についてお話し致しましょう。」


美しい顔を伏せてお辞儀をするとソファに座り、話し始めた聖女の話は異世界の私からは全く想像つかないものだった。


* * *


聖女とは2000年程前から居る存在なのだ。100年毎に現われこの世界を守る神より選ばれた人である。

はじめの聖女が現れる前、この世界は壊れかけていたと言われている。しかし神に選ばれた聖女により、この世界の崩壊は免れ守られる事になった。通常はこの世界の人が16歳になる時に選ばれるが、極稀にこの世界に生まれて居ない時がある。そんな時は初代様が神様より頂いた魔方陣にて聖女を呼び寄せる。


* * *


これが今回の聖女である私なんだそうだ。100年。人はそんなに長く生きられるのだろうか?


「聖女は100年も生きるのですか?」


「いえ、聖女殿は16歳で聖女となられその年から100年の間の平穏が約束されるといわれております。」


へぇ。不思議な事に期限がきまっているのか、どう言う力なんだろう?と疑問が湧く。


「それでは前の聖女様とは会えないのですね。お会いしたかったです。召喚されたと言う事は役割があるんですよね?聖女は何をしたら良いのですか?」


「聖女殿はそこに居られるだけで良いのです。なにかをなさる必要はございません。」


え?何もしなくていいの?よく小説である浄化とか要らないの?まぁ私にできるかはさておき…不思議な存在だなぁ。でも召喚があるって事は神様は確かに居るのだろうか。


彼の時折り首を傾げ溢れて顔にかかりそうな銀髪を耳にかける仕草がとても麗しい。本当に麗しい。魔術師長様は淡々と無表情のままに説明を続けた。


「前聖女殿は王妃様の出身国の伯爵夫人で在られました。以前召喚された聖女さまは王の妃で在られました。」


「えっ?!」


正直に言ってびっくりした。召喚されて王様の妃様になるって小説のようだ。どんな生き方したらそんな激動な人生になったんだろう。私には無理。絶対無理!


「そ…そんな方も居るのですね。

私には無理そうです。」


「…そうですか。何も気負う事はございまん。どうか心安らかにお過ごし頂きたく思っております。」


「いえ。私には恐れおおいっていうか…。

普通に過ごせたら満足なんです。…だから色々知りたくて。

王妃様になった方が居たって事は私以外にも召喚された人が居たって事ですよね?何人居たのかわかりますか?」


「聖女様方の詳細全てが残ってる訳では無いですが、マサミ殿を入れて4人であったと記憶しております。マサミ殿は21代聖女でございます。」


「21代…そんなに」


私の前に20人もいた。歴史があるのだろう。何かしなくてはいけない訳では無い。

では何故私なのだろう…?わからなくても考えてしまう…。


部屋は防音がなされているのか余計な音が無い。ただ風の音と魔術師様の飲まれたカップを置く小さな音が聞こえるだけ。

話の間に考える時間を設けて下さる。彼の表情はほぼ変化が無いけれど、私の態度から内心を測ることはお上手らしい。


思案に耽る私を見て、何やら考えながら筆頭魔術師様は再び口を開いた。


「聖女殿は侍女殿の魔術に驚かれ、学びたいとおっしゃったとか。

聖女殿には強制された役割はありません。ありませんが…聖女様には特別な御力がございます。過去の記録などによれば各々、2つの力を必ず有して居られました」


「力…?」


「はい。在位中に公表される事は稀ですが、後の発表によれば初代様は【治癒の力】と【緑の手】をお持ちでございました。

治癒とは即ち癒し。怪我、欠損、病を癒したとされています。緑の手とは植物の生育補助です。緑を増やし育てる力とされています。」


「そんな力が私にある…と?」


「はい。公表されない場合を除き、全ての聖女様に素晴らしい力があったと言われております。」


うわぁ。うわぁ!!未知の凄い力!これぞ異世界ファンタジーだわ。

マリアーナさんの魔法にもびっくりしたけど、私も魔法が使えるのかな。期待しちゃうよーでもそんな力あるのかな?私、神様なんて出会ってないよ?


「私も魔術が使える…って事ですか?」


「勿論にございますよ。この様な…」


筆頭魔術師長が軽く手を振ると彼の手の上に野球ボール大の小さな花火が浮かぶ。小ちゃくてもとっても綺麗!!色とりどり光が移り変わりスパークし…思わず目を奪われた。


「あなた様は凄い魔術が使えるのですよ。

早速試してみますか?

…ですが、ここでは聖女殿の力によっては危のうございます。明日にでも練習場所を手配致しましょう。」


「はい。やってみたいです!!」


私は未知なる希望に満ち溢れていた。知らない世界、新しい力、不安ばかりだけれどちょっとだけ頑張ろうと思う。



♢ ♢ ♢



そんな午前を過ごし、お昼をおいしく頂いて午後の授業の時間となる。


「私が国史を担当させて頂くことになりました。ヒャルミエーニ=トロと申します。聖女殿にはお目に掛かれて光栄にございますじゃ。

更には私が教鞭をとらせて頂くなど何とも恐れ多い事とはございますが、不束な老骨ながら励む所存にございますぞ。」


何だか如何にも賢者のようなお爺様がのっそりと現れた。ふわふわ白髪を腰まで流し、白髭もたっぷりもっさりしているのにどこか品のあるおじいちゃま。仙人か魔法使いの重鎮のような、そんな印象の先生だった。


トロ師は緑のカーラーの付いた茶色いローブをゆったりと纏い、年季の入った杖をつき大きな体を揺らしながらゆったりと椅子に座る。


「まずは聖女殿。

この国の成り立ちと聖女様の関係についてご説明させて頂こうと思っておりますじゃ。」


私は勉強用のノートと筆記用具を準備してもらい学習用の机にのついた。


先生は椅子に座りながら黒板のようにスクリーンを巻いてあった紙をクルクル広げて準備する。

紙なのに自立して立ってるという不思議スクリーンだった。先生が言葉にするとスクリーンに文字が浮かぶ。なんて便利な道具なのか!書く手間が必要無いなんてとても手間と時間の無駄が省ける。凄い!


「聖女の歴史とこの国の歴史について

まずは簡易的に説明致しましょうかのぅ。」


「初めに、この世界が崩壊しかけと言われた時、神から啓示を頂いた聖女が生まれたんじゃよ。これが初めの聖女エリス=サントラだと言われておるのですじゃ。」


「この聖女が神より賜った力《緑の手》で大地を癒し、《治癒》の力にて人々を癒したとされておるんじゃよ」


師の言葉の重点がスクリーンに文字として映し出される。どのように判断して文字になるのだろうか。青い猫の不思議道具みたいだわ。

文字が読める…そういえば今更ながらに言葉が理解できる事にも気がついた。

コレも召喚による祝福なんだろうか?


「聖女様に協力し支えたのが、当時この国のあった場所に住んでいた豪族であったらしい。

この2人を中心にした協力者達の活躍によって崩壊は免れた。そして生き残っていた民達を集め共に生きようダスタール王国が建国された。

それが聖女歴で元年とされていると伝わっておるのですじゃ。」


「この世界の暦は聖女様の始まりなんですね。」


「そうなんじゃよ。」


暦になる程、重要なのか…凄いな…

前世は宗教に関わる事無かったから聖暦も元号も身近にあっても重大さも重みも感じていなかった。

皆んなが使うという事は凄い行いをした歴史があるって事なんだと納得した。


「それから何度か国が変わり、今の国が成立したのは1403年。召喚された聖女であるチヨノ=サタケがこの国に迎えられた後に建国されたタンタルティア帝国なのですじゃ。」

「それから600年もの間この国は平穏が続いて現在は2000年になりました。」

600年も安定している国。江戸時代より長いなぁ…私にはわからないけど凄い事なんだろうなぁ。


「聖女様はいつもこの国にいる訳では無いのですか?」


「いやそうでは無いのじゃ。聖女様はこの世界のどこかに生まれてるので、この国に所属しているのは15代聖女のチヨノ殿と現在の聖女殿であるマサミ殿だけとなるのぅ。

聖女様が生まれない国もあるのじゃ。我が国にはありがたいことですじゃ。」


なんだか誇らしげにトロ師は語る。


「聖女様が現われる場所は決まっておりません。ですからに、聖女様が所属すると言う事はとても栄誉ある事なのですじゃ。」


「また、初代聖女様をお支えした方々が興したペリクト神聖国と言う国がございます。こちらの国がいつの時代も聖女様方の支援を行っておりますじゃ。」


「宗教になっているの?」


「最大の宗教であり、神と神の愛し子としての聖女様を崇めている国でもありますのじゃ。この国にも教会がございますので、いずれ行く事もありましょうな。」


「聖女ってそんなに必要なものなのですか?

居なかった時代は無いのです?」


「現われ無かった時代はありませぬな。過去に一度も、ですじゃ。」


「不思議な存在なんですね。」


「本当に。神の御技にございますなぁ。」


つまり神様は居ると言う事なんだろうか?

召喚…なんで私なのんだろう。


「何か質問はございませんかのぅ?」


マリアーナさんが新しいお茶を淹れてくてる。温かいお茶を飲んで身体を温めると体がほぐれた気がした。知らないうちに身体の節々は緊張で硬くなっていたことに気づいた。


描かれたスクリーンを見ながら考える。

そもそも、何故聖女は生まれたのか。

偶然?神が必要とした?


頂いたノートに気づいた事を次々と書き込む。

あとで見直して頭を整理しないとな…


「世界の崩壊とはなんだったのでしょうか?」


「そちらは判っておりませぬなぁ。

残念なことに、文献の散逸と劣化により予測はあれども断定できるものではありませぬのぅ。」


悩ましげに頭を振るトロ師は、困ったように答えた。


「私は歴史家ですが、この国の調査は詳細にできても他国となると難しいものがありますじゃ。聖女が居たという事実は確認できても、その方の背景や足跡の委細につきましては国により公表されていない事も多いようでして…こればかりはのぅ。」


「なんせ2000年分ですからのぅ。世界のあちこちで国が興り倒れ、伝聞も多く…最古で最大の勢力となる教会ですら全容を捉えるのは難しいようじゃ。」


いくら魔法のある世界とはいえ、そんな便利な魔法は無いのだろうか?

うーん。

活けられている桃色の花が風に揺れていた…


私がノートを書く手が止まり質問が出て来ないのを確認すると、トロ師は膝をポンと打って仕切り直す。

「今日の所はこのくらいですかのぅ。

次回からは今回省いた国々の詳細を致しましょう。」

「勤勉な聖女殿のお役に立てれば光栄ですじゃ。では、また次回にのぅ。」


「はい!ありがとうございました。とてもわかりやすいかったです。次回もよろしくお願いします。」


優しい語り口の説明は聞きやすくて勉強になった。


立ててあった不思議スクリーンを片付けて、トロ師はゆるゆる帰って行った。


新しい事が沢山知れた。

誤字脱字あればお知らせ下さい。

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