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第十八幕

晴樹と舞は燃え上がる屋敷を眺めていた。裏口の小さい扉から脱出していた二人は焼け落ちる建築物に目を向けていた。


「屋敷が燃えていくな。」

「塀のおかげで山火事にはならなそうなのはせめてもの救いだな。」


「あちちち。燃える燃える!!!」

ひょうきんな声のほうを見れば、悠斗とエマが走りながらこちらへ向かっていた。


「熱っつ!!!」

コートを脱ぎ捨て、地面に何度もたたきつける。盛大に燃えていたコートの火は徐々に鎮火されるも、悲惨な状況には変わりなかった。







「あーあ。お気に入りのコートが。」

眼帯の男は半分以上が炭となったコートを抱きしめ、いじけていた。三角座りで地面をいじっている。


「ユート。今はそんなことをしている場合じゃないな。さっさと立ち上がるんだ。」

エマは悠斗の肩をたたきながら同情する。


「そういや、吉永家はこれで壊滅したのか?」

晴樹は舞へ訪ねる。


「いや、まだ一人残っている。ここへ来る前出会ったあの男。あやつも間違いなく器だ。」


晴樹は思い出した

『今、俺は戦うつもりはない。』

そう言い残し、こちらに情報を与えた男。つまりいつかは戦うことになるのだろう


悠斗は体育座りから立ち上がり、二人へ話しかけた。

「あんたらの目標はそれか。まぁいい。ちょっと俺についてきてくれるか。お二人さんにとっても悪い話じゃないと思う。」





悠斗は燃えたコートを肩に羽織り、歩いていく。3人はその後ろをついていくだけだった。


「ふんふふーん。」

鼻歌交じりに歌う悠斗を眺めながら晴樹はエマへ訪ねる。


「あなたたちは何者なんだ?助けてもらったけれど、いまいちここまでしてもらう理由がわからないんだが。」

「まぁ、あくまで私は利害関係が一致しているから手助けしているだけさ。気にする必要はない。多分、ユートはそうじゃないだろうがな。あいつは優しいから、君たちを見捨てられなかったんだろうな。」



「さぁーて、ここで晴樹君に質問だ。この村の奇妙な点を挙げてみよう。」

「俺?えーと、変な儀式をしているところ?」

「正解。しかし、それ以上に村人の数が明らかに少ないことだ。これまでに会った人間の数、数えてみな。」


「1,2,3」

「だいたい、村を維持するために必要な人数が500人以上。ここへ着いたとき俺も数えたがおよそ100人未満、まぁ異常なわけだ。」


悠斗は焦げたコートの内ポケットから一冊の本を取り出した。

「そしてさっきのお屋敷から奪ってきたのがこの本。これには村についていろいろ書いてあってだな。」






「うむ、此度の戦争のせいで村の男はかなり減ったな。これでは巫女たちの候補がいなくなるのも時間の問題だな。」

「しかし、『祭り』を止めるわけにはいかない。若い女に産ませるか?」

「いや、それは......。」

「我々はやらねばならぬのだ。そのためには犠牲も仕方ない!!」

「だからと言って若者を利用するのはおかしいだろ!!」

「この村に生まれて尚そう言うか!!」


3人の男の議論していく中、一人の青年ががその場へ乱入した。いや、乱入してきたというには自然すぎる。まるでそこにいたかのような青年は口を開いた。


「部外者の私が言うのも何ですが、その問題私が解決してみせましょう。」

「あんたは吉永さんとこの」


一人の男が青年の胸倉につかみかかる。

「よそ者のあんたが村のおきてに口出すんじゃねえ!!!」


「羽田、やめんか。あんた西園寺といったね。どうにかできるのかい?」


「ええ。私も住まわしてもらってる身、何か役立てれば幸いですよ。」

西園寺は軽く返す。


「わかった。この件君に託そう。そのためなら我々も力を貸そう。」






「……というわけさ。」

「西園寺?」

開けた場所に出た。鬱蒼とした森林からは考えられないほどに整理されたその場所は静謐さを帯びていた。


「ここは…。」

「墓地か。」



悠斗は道を進み、真っ直ぐ奥の一際大きい墓石を目の前に立ち止まった。


「ここが始まりだったのかもな。」

西園寺将通と彫られた墓石は他の墓石に比べ、こまめに掃除されているのか苔は一つも生えていない。


「見ろ。ついさっきまで誰かいたようだな。」


線香と花はまだ新しい。


「さてここで更に問題だ。この村の秘密を何個もみてきたであろう皆月君に質問だ。これらから導き出される答えは何かな?」

「えぇ...?」


「今の現状から導き出され事実は1つ、この村はかなり古くからある。2つ、この村の習わしもかなり古い。3つ、村の人間の数は異常なほど少ない。4つ、この村が大きく変わったのは本からみて100年以内。そして変化が見られない村。……つまりこの村そのものが一種の変な次空になっているのではないかと考えたわけだ。」


「けど実際人は普通に暮らしていた。それは私と晴樹が証明できる。村自体への結界とは考えにくいのではないか?」

舞の疑問はエマによって答えられた。


「正確に言えば、村だけを引越ししたという感じだな。位相の歪みをこの村に入るときに感じてな、もしやとは思ったがその通りだったとは。それにこんな村だ。まともな感性している奴らなんてとっくに殺されてるさ。」


晴樹はつぶやく。

「けど、それじゃあこの村に俺が入れたのは?あんたはその能力があったからだろうけど、俺は普通に事故でやってきただけなのに。」



『それは童のおかげじゃな。』


脳内に語り掛けられたように響く声はその場の全員が聞いたようだ。悠斗とエマは即座に臨戦態勢に入る。


『そう警戒するな。そなたらを導きたいだけじゃよ。さ、神社に来給え。』


「というわけか。」

呆れたようなエマは溜息を吐いた。





「始まりの場所が最重要ポイントなのはどこかゲーム感があるな。」

「綏靖神社、始まりの地か。」


本殿の扉が開き、こちらをいざなうかのような姿に、こちらを飲み込もうとしている怪物を思わせる姿を重ね合わせてしまう。怖気づいているのはどうやら自分だけではないようだ。舞さえもその神社の威圧感につぶされてしまいそうな目をしていた。舞の手を無意識に握っていたのは自分の恐怖心からなのか同情からだったのかはわからない。


「さっ、行きますか。」

4人は本殿の中へ進んでいく。そして最奥に見つけた。


「これは岩?」


巨大な岩に注連縄が道をふさいでいた。

「天岩戸ってか。残念だが踊りと祭りもやってる暇はないんだ。申し訳ないな。」


悠斗は生み出した日本刀で岩を切り伏せる。真っ二つに裂けた巨岩を踏み越えた先には階段があった。

地下への道は一切の光を通さない。深淵と呼ぶに相応しい穴だった。



カツンカツン


かなりの時間歩いているようだが歩く先は闇だ。器としての影響かある程度は見えるが、それでも得も言われぬ恐怖心は確実に増幅している。一歩踏み出すごとが億劫だ。それでも歩けるのは舞の人肌のおかげだろう。



一歩踏み出したとき、それ以上段差がないことが分かった。ここが終点であることは感覚で分かった。

『遅かったな。待っていたよ。』


広い場所に出た。その最奥に座る少女がいた。白い髪に白装束。赤い瞳は暗闇の中でひときわ目立っていた。

晴樹にはその少女の姿を知っていた。


「お前、事故の時の!!」

「そうじゃな。実際に顔を合わせるのは今が初じゃな。改めて名乗ろう。蛭子村『指貫き』の契約者、制裁者のいすゞじゃ。よろしく。」


「いすゞ?」

「制裁者?」



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